「Crusoeが来る?」の記事から半年。Transmeta社の開発した新型CPU・Crusoeを搭載したノートパソコンが市場に出回り始めました。先の記事でも触れた話ですが、Crusoeの特徴はその超低消費電力。これはもちろん発熱の小ささに繋がり、筐体内のスペースが少なく発熱の処理が難しい小型ノートパソコンのためのCPUとして注目を集めました。
各パソコンメーカーから発表されたCrusoe搭載ノートパソコンは、それぞれ独特のデザインを持った面白いものばかりです。例えば、NECのLaVie MXはCrusoeの低消費電力を生かすためにディスプレイに反射型カラー液晶を採用。バックライトが要らなくなった画面裏側に何と厚さ3mmの薄型バッテリーを内蔵して10時間以上のバッテリー駆動を実現しています。富士通のLOOXは、1kg弱の筐体にH”による高速の無線通信機能を内蔵していて、この本体だけで「どこでもインターネット」が実現できます。SONYのVAIO GTは、パソコンと言うよりもむしろビデオカメラにパソコン機能を内蔵しているようなスタイルで、動画を撮影してインターネット上で公開できるサービスも用意されています。他のメーカーからCrusoe搭載のノートパソコンが発表されていたり、商品化が検討されていたりします。
並べてみて気が付くのは、みんな日本のメーカーであること。海外のメーカーはひとまず様子見のところが多いようです。その理由が、パフォーマンスが当初の予想に比べて不足していた…ということらしいですね。Crusoeをベンチマークプログラムにかけてみると、同じクロック周波数のPentium3やCeleronに比べてかなり劣る結果が出ているようです。Crusoeが基本的にIntel製CPUをエミュレートする構造になっている性質上、仕方のない部分もあるんですが、このベンチマークの結果も必ずしも実際の使用感と結びつかないことがありますから、あまり鵜呑みにするのも問題があるかも知れません。DVD-VideoやMP3音声の再生では、かなりの高パフォーマンスを叩き出すようですし。
ただ、性能が劣るとしても、Celeron-300MHz程度の性能があれば実用上は十分な性能が得られる場合が多いですよね。ネットサーフィンやワープロ、表計算の簡単な利用くらいならこのくらいで十分かと思います。結局のところCrusoeを使うかどうかは徹底的に低消費電力にこだわった設計が許されるのかどうかというところが分岐点のような気がしますね。
Crusoeの登場に最も影響を受けたのはIntelかも知れません。Intelは、Crusoeに対抗して(かどうかは実はわからないんですが)ノートパソコン用の超低消費電力型Pentium3/Celeronを発表、今後も小型ノートパソコン向けの低消費電力CPUの開発に注力することを表明しました。
消費電力とパフォーマンスのバランスを考えれば、これらのCPUは非常に魅力的なのですが、問題は価格や生産量。低電圧で動作可能な(=低消費電力の)CPUは、通常の電圧をかけると高いクロックで動作可能なCPUでもあり、デスクトップ用も含めた中である程度選別された製品と言うことになります。これは高価格や少ない生産量に繋がります。一方のCrusoeは、低消費電力にフォーカスした専用設計。しかもTransmetaの命運を背負ったCrusoeと多彩なラインナップの一部に過ぎないモバイルPen3では製品への愛情からして違うはずです。
これまでノートパソコン用のCPUとしてはIntel製がほとんど唯一の選択肢だったところに、別の選択肢を与えた…ということだけでも、Crusoeの登場は大きく評価されるべきだと思います。その結果競争が起これば、技術の進歩は加速していきます。
ところで、Crusoeの一部ロットに不具合が見つかり、リコールが行われていますね。これから巨人・Intelに挑戦すると言うところで、いきなりつまずいてしまいました。新参のメーカーが顧客から信用を得るためには、ただでさえ長い時間が必要です。AthlonやDuronで実績を伸ばしたAMDも、企業に対して「信頼性」という面でまだIntelを超える評価が得られないそうですし。
まあ、CPUの初期不良ではIntelも過去にいろいろと実績がありますから大騒ぎすることでもないのかも知れませんが。Pentium4にもいきなりエラーが見つかったそうですし。
コメントを残す