世界の動きは相変わらず不穏です。アメリカで起きた例の事件に関する報道も、日々少しずつ新しい情報も出ているものの、毎日のように同じような話を繰り返しています。さすがに最近は飽きてきました。…この「飽きてきた」という感情自体が、実は非常に怖いんですが。
今回は、Weekly SSKではおそらく初めて?…という、映画についての話題です。元々映画館には余り出かけない方なんですが、このたび、先週末・15日から全国で公開された「Final Fantasy」を見に行ってきました。この作品はアメリカで制作されましたが、監督は日本人の坂口博信氏。作品タイトルを見てピンと来る方も結構いるかと思いますが、人気ゲームソフト「ファイナルファンタジー」の生みの親である坂口氏が、「タイタニック」や「マトリックス」などのCGを手がけたスタッフと共に作り上げた、全編3次元CGのみで実写映像は全く登場しない…という作品です。
全編3次元CGというと、「トイストーリー」や「バグズライフ」などのコミカルな映像を思い浮かべたりもしますが、「Final Fantasy」のそれは徹底的にリアリティを追求している…という前評判でした。今日の表題「究極の幻想」は「Final Fantasy」を私なりに邦訳(直訳ですが)したわけなんですが、果たしてその名にふさわしいだけのものに仕上がっているんでしょうか?。自分でも3次元CGを作ったりする私としては、いったいどんなものが完成したのか是非見てみたくて、久しぶりに映画館に足を運んだわけです。
浜松では、「Final Fantasy」はヴァージンシネマズ浜松(現・TOHOシネマズ浜松)で上演されています。9面のスクリーンを持つ、浜松では初めてのシネマコンプレックスで、ここで映画を見るのは初めてです。チケットを買うときに上映時間を聞かれ不思議に思い、座席指定券を渡されて驚く…など初体験の雰囲気にとまどいながらも、映画の上映を待つことにしました。一つ不満だったのは、駐車場の無料券が1時間分しかもらえないこと。少なくとも普通の映画1本が見られる2時間分くらいは無料にして欲しいところです。
全編CGで作られていると言うことで、どんな映像が見られるのか非常に楽しみにしていました。確かに最初こそ美しい映像に感心したんですが、それほど時間の経たないうちに「映像がCGである」という感覚はすっかり抜けてしまいました。
髪の毛1本1本から顔面のシミや衣服のしわにまでこだわった…という人物の描写は、確かに非常に高いレベルです。よく見ると人物のアップで視線がちょっとどこかを泳いでいるように見えることもあります(これは従来からの人物を描いた3次元CGでもよく見られたことですが)が、それでもCGであるという予備知識無しで見たら実写映像と間違えるかも知れません。
しかし、それ以上にCGであることを意識させなかった原因は、映画の中のCG自体が今や全然珍しくない…ということではないでしょうか。先に挙げた「タイタニック」や「マトリックス」を例に挙げるまでもなく、現代の映画制作にCGは欠かせないものになっています。いかにも非現実的な映像ばかりでなく、現実世界でセットやロケーションで撮るのが難しい映像もCGでなら自由に実現できてしまいます。巨大な都市構造物の爆発や衝突、さらには半透明の怪物との戦闘シーンだって、「Final Fantasy」以前にもいくつも見ていますから別に真新しいものではありません。それ以前に、現実世界でもっととんでもない映像を見てしまったばかりだったので、映画の映像に迫力を感じられなかったんでしょうか?
CGであることを意識せずに済んだおかげで、映画としてのストーリーを楽しむ余裕が出来ました。これから見る方のためにストーリーについては触れませんが、なかなか楽しめますよ。基本的にはアメリカ映画的なアクション連発なんですが、それとはちょっと異質なものも感じたのは、日本人が書いた(坂口氏自身が原作を手がけています)シナリオだからかも知れませんね。
「Final Fantasy」は「究極の幻想」にふさわしかったのか?…なんですが、映像の出来は十分それに値するものだったと思います。実写の映画でもCGが多用されるようになりましたが、全てをCGで作ることにより、映像全体の雰囲気に統一感が出て、実写でも撮れそうな映像とあまりにも非現実的な映像とが継ぎ目なく流れていきます。そのことが、一部にCGを活用した映画とは違う全体としてのリアリティを生み出したのではないでしょうか。
ただ、実写やセルアニメーションと比べてCGを論ずるときに問題になるのはその制作費。元々CGは非常にお金のかかる技術なんですが、全編(110分)をCGで作ったこの作品の場合、制作費は日本円にして100億円を大きく超えるものだったとか。映像としての出来は素晴らしかったと思うんですが、興行として考えたときに果たしてペイするのかははなはだ疑問です。確かに素晴らしいCGでしたが、これが実写では表現できなかったのか?と考えると、必ずしもそんなことはないと思いますね。ただ、この金額も超大物スターに出演をお願いするのと比べると大して違わない…というところがハリウッドの非常識さではあるんですが。ともかく、「こんなものも作れる」という技術力の宣伝としては絶大な効果を発揮しそうです。
映画館の座席も今ひとつ埋まっていませんでしたね。この映画にとって不幸だったのは、もしかすると「ゲームの映画化」という看板を背負ってしまったことかも知れません…実際には完全書き起こしの別世界、別ストーリーなのに。日本人監督がアメリカで作った、全編リアル志向の3次元CGによる作品…ということだけでも、十二分に話題性があったと思うんですけどね。
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