生の味わい

久しぶりに、楽器を他の人と一緒に演奏する機会がありました。物心付いたときから、どちらかというと自己完結型の音楽生活を送ってきた私なんですが、別に人と合わせるのが嫌いなわけではなく、むしろ一緒にやってみたい気持ちは強いんです。パソコンなどで打ち込む曲作りは確かにすべて自分の思うとおりになるんですが、一方で自分自身の限界をなかなか超えられない…ということになります。

今回ご一緒した楽器はピアノとバイオリン。ピアノは私にとっての音楽のイメージを支える楽器の一つでもあり、お馴染みではあるのですが、考えてみるともうずいぶん長い間本物のピアノには触れていませんでした。どんなに電子音がリアルになっても本物にはかなわない面があると思います。弾ける楽器ではあるけれど、本物に触れるのは意外に難しい…そんな意味ではピアノは憧れの生楽器の一つです。

一方のバイオリンも、私にとっては憧れの生楽器の一つです。第九の合唱のときに共演した…と言えないこともないんですが、ひとりの演奏者としてバイオリンと合わせたことは一度もありません。前に浜松市楽器博物館で体験用に展示してあるチェロを弾いてみたら、全くまともな音が出せなかった…という経験もあり、「弦楽器を弾ける人はすごい人だ」というイメージがあります。

残念ながら私は生音で勝負できる楽器を持っていないので、一番得意な楽器と言うことで愛用のキーボードを一式持って出掛けました。88鍵ウェイト付き鍵盤モデルとしては劇的なまでに軽いRS-9なんですが、実は外出するのは今回が初めて。もともと梱包に使われていたウレタンフォームで包んで、そ~っと持って行きました。


今回は初参加で、自分の演奏するパートがはっきりしているわけではありませんから、練習に参加できなかった他のメンバーのパートを演奏して合わせることになりました。こういうときにはキーボードの「何の音でも出せる」能力は重宝します。ただ、ちょっと苦労したのは音量の制御。キーボードの場合(ピアノも同じなんですが)鍵盤を叩く瞬間の強さで音量を調節できますが、鳴っている間の音はそのままでは調節できないんですよね。結局、左手でボリュームつまみを回しながら演奏することになりました。

演奏はとても楽しかったですね。表に立って目立つところ、ちょっと引くところ、全員で合わせて決めるところ…という、アンサンブルならでは緊張感が新鮮でした。ここ何年かはコンピュータの演奏を相手にしていたわけですが、結局のところ自分で作ったものですから合うのが当たり前で、緊張感に欠けるんですよね。やっぱり生身の人間同士で合わせるのはいいものです。「また参加させてほしい」とお願いしました。これからの楽しみが一つ増えました。


練習会場のグランドピアノを少し弾いてみました。やっぱり本物の音はいいなあ…と気持ちよく弾いていたら、ピアノ担当の人から「力みすぎ」と指摘されてしまいました。でも、言われてみれば確かにその通り。昔から「ピアノはキーボードよりも力が要るものだ」と思ってましたから、それが体重を鍵盤にかけるような変な弾き方になって表れていたようです。椅子への座り方も変えて、肩の力を抜いて弾き直してみたら…出てくる音が劇的なまでに変わって驚いてしまいました。響きが非常に柔らかくなった気がします。演奏者の技術の差がはっきりと音の差になる、生楽器の奥の深さを見たような気がしました。

さらに、バイオリンまで触らせてもらいました。イメージに反して、音そのものは意外に簡単に出ました。どうやら、チェロを弾いてみたときの私は弓を弦に押さえつける力が強すぎたようです。ただ、これが演奏に出来るのかどうかはまた別の話。ギターのようにフレットがあるわけではありませんから、安定した音程を出すのも難しいですね。さらに、微妙な強弱や多彩な表現を加えて「歌う」には大変な練習が必要なのだと思います。

どちらの楽器も、音が直接に身体に届いてくる感じがして気持ちよかったですね。電気を通さない音の暖かさ…とでも言うのでしょうか。ただ、単に私が未熟なだけで、電気から生まれた音でももっと暖かい表現が出来るのでは?という気もしました。考えてみると、最近全然楽器の練習をしていません。自分の想いを音に乗せるためには、もっともっと上手にならなくてはいけないな…と思い、何だかやる気が出てきました。


RS-9とキーボードケース

今後の活動のために、早速買い物をしてしまいました。キーボードケースは、汎用品ですがRS-9がちょうど測ったように収まるコンパクトサイズの布製バッグ。3,000円と安かったんですが、衝撃吸収用のパッドもちゃんと入っていて機能性は十分です。

エクスプレッションペダル

エクスプレッションペダルは、電子オルガンのボリュームコントローラとしてもお馴染みのもので、発音中の音の音量を足の踏み込みで制御できます。管楽器などの音でキーボードが「歌う」ためには必須のものです。音量だけではなく、設定次第でほとんどのパラメータを操作することが可能なので、MIDIデータのリアルタイム入力にも威力を発揮しそうです。

これでとりあえずはキーボードで生演奏する準備が整ったかな?という感じなんですが、実はまだ物足りないんですよね。もっと生楽器と一緒に「歌える」楽器をやってみたくなったんです。でも、今から生楽器の練習を始めても上手に演奏できるまでが大変ですし…どうすればいいものか。楽しみと一緒に悩みまで一つ増えてしまったようです。


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