電源にこだわる

アナログなトラブル

前回までで、巷に出回っているパソコンの中ではほぼ最高レベルの処理能力を得た私の自作機。当面はこれ以上パワーアップのポイントも思いつかず、大胆にも「当分はこのコーナーへの更新もなくなるのかなぁ」などと思っていたわけですが、話はそう簡単に終わらなかったのです。

CPUを交換してから、これまでにはなかったトラブルが頻発するようになりました。というのも、システムがS3スタンバイ状態からの復帰にしばしば失敗するんです。S3スタンバイ状態というのは、RAMにのみ通電して内容を保存し、それ以外の電源は切ってしまう状態で、「Suspend to RAM」とも呼ばれます。消費電力が低く、復帰も高速な優れもので、「電源を入れてすぐ使えるパソコン」を実現します。私の場合、テレビ番組の録画にもS3状態からの復帰を利用するので、これが動作しないのは深刻な問題です。さらに、運良く起動できてもときどきデータ用のハードディスクが認識されていないことがあります。この場合でもやっぱりテレビ番組の録画は失敗になりますからね。困ったものです。

この「しばしば」とか「ときどき」というのがなかなかの曲者。トラブルというものはたいていの場合特定の条件が重なって発生するわけで、条件を絞り込みトラブルの発生を再現するというのはトラブルシューティングには必須です。パソコン関係のトラブルには再現性の高いものが多い気がしますが、今回の場合はそうではありませんからね。0か1かというデジタル世界には似合わない、何ともアナログなトラブルです。

軽んじられがちな屋台骨

「アナログなトラブルはアナログな部分を疑え」と思っています。パソコンの場合はソフトウェアの設定不良などではなく、コネクタや拡張スロットなどの接触不良や、昔はよく言われたいわゆる「相性問題」などです。そんな中でふと思い当たったのが、アナログ回路である電源の問題。考えてみると、CPUの消費電力が激増したはずなのに電源は替えていません。電源と言えば一般的には「ケースのおまけ」というイメージが強いと思うんですが、どんな高性能のパーツを集めても電気が確実に供給されなければタダの箱。実は非常に重要なパーツです。

電源の性能はしばしば総合出力のワット数で語られますが、実はこれだけでは不十分。現在使われているATX電源では+3.3V、+5V、+12V、-5V、-12V、+5VSBという6系統の出力がありますが、それぞれに決められた定格電流の範囲内に消費電流を収めることが必要です。例えば、私が今使っている電源・Varius335P4(ケースに付属していたものです)では定格電流はこのようになっています。

+3.3V +5V +12V -5V -12V +5VSB
20A 32A 12A 0.5A 1A 2A

この中でよく使われるのは+3.3V、+5V、+12Vの3つで、定格電流も大きく作られています。あと、+5VSBはスタンバイ中にも供給されるもので、他とはちょっと位置づけが違う重要な電源です。-5Vと-12Vは今ではほとんど使われないのではないでしょうか…と言いつつ、実はテレビチューナのMTV1000が-12Vを使っているそうなんですが。

DVD-ROMドライブの消費電力

でも消費電流なんてわかるの?と言うことになるわけですが、ドライブ類やファンの場合には本体に貼り付けられたラベルにこのようにちゃんと消費電流が記載されています。箱入りの拡張ボードなどでは、マニュアルに消費電流が記載されていることがあります。しかし、CPUやマザーボード、あるいはバルク品のパーツでは消費電流は表示されていません。特にCPUという一番大事なところが抜けているわけで、このままでは先に進めません。

驚愕の事実

そこでネット世界に頼ってみると、やっぱりその筋のプロフェッショナルの方がいらっしゃるものです。takamanさんの電源電卓を使って、現状での自作デスクトップ機の電力消費を計算してみました。すると、恐るべき我がPCの電力消費の実態が明らかになったのです。

総合出力 3.3V+5V 3.3V+5V+12V 3.3V 5V 12V
計算結果 343.4W 112.7W 333.4W 2.5A 21A 18.4A
Varius335P4定格 300W 220W 275W 20A 32A 12A

総合出力が343.4Wで、これはVarius335P4の最大連続出力300Wを大きく上回るばかりか、瞬間最大の335Wをも上回ります。系統別に見ると、+12Vの電流が18.4Aで、限界の1.5倍以上というとんでもない過負荷です。これでは、スタンバイからの復帰どころかまともに起動していた方が不思議です。さらに、実はCPUを交換する以前から+12Vは定格オーバーだったことも判明しました。もしかすると前のハードディスクトラブルも電源が原因だったのかも。

さらに、もう一つ気になる記事を見つけました。電源に使われているパーツの中で最も耐久時間の短い部品はアルミ電解コンデンサなのだそうです。中に入っている液体が蒸発するためで、その寿命は連続稼働で約3年。しかも、動作温度が高いほど寿命が縮まるのだとか。私が今のケース(と電源)を購入してからもうすぐ3年。無理な使い方をしてきたわけですから、そろそろ寿命かも知れません…今のところその兆候はないんですが。

意外に厳しい要求

寿命が来たかどうかはともかく、現状で電源容量が全然足りないことは明らかになりました。「電源電卓」のtakamanさんは、この計算結果を基に電源を検索できるシステムも用意してくれているので、これを使って電源の買い換えを検討してみることにしました。

見ていくとわかるのが、+12Vの供給が最大の問題であること。限界ギリギリというのも何なので、+12Vについては20A以上のものを…と思ったんですが、合計400W以上の電源でも、20A以上のものはそう多くありません。+12Vは、Pentium 4マザーの場合CPUへの電源供給に使われます(小さな正方形の4ピンケーブルがそうですね)から、かなり需要は大きいはずなんですけどね。あと、私の環境の場合ビデオカードやハードディスクなどもかなり「+12V食い」のデバイスに分類されます。

Antec True 430

条件を満たす電源のリストから、アメリカ・Antec社のTrue 430を選んでみました。排気ファンとそれよりも一回り大きな吸気ファンには派手なゴールドのファンガード、真っ黒な電源コネクタ群に金メッキのピン、「FAN ONLY」と書かれた回転数制御機能付きの2つのコネクタ、ファン回転数センサー用のパルス出力、平型4ピンの外部出力端子…と、ツッコミを入れたくなる場所だらけの多機能電源です。シリアルATA用コネクタも2個装備しています。

電源を取り替えて動作試験をしてみたところ、今のところはまだ一度もS3状態からの復帰には失敗していません。どうやら電源交換の効果はあったようです。これで完全解決かどうかは、もうしばらく様子を見なくてはわからないのですが。

ねじ穴の位置を合わせて取り付け

しかし、新たな問題が

電源としての性能には問題のなかったTrue 430でしたが、ケースのWinDy A3 MV2に取り付ける段階で困ってしまいました。ねじ穴の位置を合わせてケースに載せてみると、吸気ファンが上を向く状態→になってしまったんです。このままカバーを掛けて使えないこともないのですが、吸気ファンの穴をふさいでしまうわけですから、これでは電源の健康に良くありません。数分間動作させるだけでかなり熱を持ってしまいます。

吸気ファンが下向きになるように取り付け

ATX電源のねじ穴は均等に四隅に付いているわけではないので、上下をひっくり返して付けるわけにも行きません。それでも強引に穴を開ければねじ2本で留められないこともないんですが、←電源コードの差し込み口がフレームに当たってしまいますし、この方向で取り付けるためには、かなり派手な加工が必要になりそうです。

とりあえずは吸気ファンを上向きに取り付けて、ケース上面だけを開けて使うことにしましたが、いつまでもこのままにしておく訳にもいきません。いったい私はどう対処したのか?…それはまた回を改めてのお話にしたいと思います。春の嵐はまだまだ収まらないようです。


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