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【号外】 ダンスをDanceに

今日は、先週積み残したゴールデンウィークのお話をしようかと思います。先週の金曜日・5月6日に、予定していた通り映画「Shall we ダンス?」をテレビで見ました。ごく普通のサラリーマンが、通勤電車でビルの窓際にたたずむ女性が気になって、彼女が講師をしているダンス教室に入門してしまう…というところから始まるこの作品は、周防正行監督の1996年の作品です。大ヒット作になりましたよね。

【DVD「Shall we ダンス?」】

周防監督といえば、この作品のイメージが強いせいか、ちょっとマイナーに見られている世界に光を当ててヒット作を生み出す監督というイメージを持っています。全くの余談ですが、同じ周防監督作品で学生相撲をモチーフにした「シコふんじゃった。」の最後の句点(「。」のことです)の使い方には「モーニング娘。」と共通のものを感じますね。でもこちらの方が5年も先んじています。

主人公の最初はちょっと地味で頼りない印象のサラリーマンを、「ローレライ」では潜水艦の人情味あふれる艦長だった役所広司が演じています。最初は実に不純な動機(笑)で社交ダンスを始めた彼も、気がつくとすっかりハマってしまいます。脇を固める「超」の付くくらい個性的な面々も印象的ですよね。汗も涙も笑いもこの1本で全て楽しめる、実に美味しい名作だと思います。


この「Shall we ダンス?」は、先月初めてDVD化もされて、今注目を浴びています。もちろん、その理由は今映画館で公開されているハリウッドでのリメイク版・「Shall we Dance?」の存在ですよね。音楽のカバー作品と同じで、ただコピーするだけではリメイクの意味がありません。実際に、オリジナル版もアメリカで公開されていたわけですしね。オリジナル版のイメージが頭に残っているうちに見比べてみよう…ということで、テレビ放映の翌日・7日に映画館に足を運びました。

【DVD「Shall we Dance ?(初回限定版)」】

最近、アメリカで公開されて人気のあった日本作品がハリウッドでリメイクされる…という流れが目立ちます。ハリウッドも資金力と比してシナリオ難なのか、日本以外にも様々な国から映画化権を買い取ってリメイク版を作りまくっているのだとか。ただ、これまでは日本生まれといえばアニメやゲームを原作にした実写化作品、あるいはホラー…という感じで、正直なところ見たいと思うものがありませんでした。特にホラーはちょっと(どころではなく)苦手ですし。しかし、「Shall we Dance?」はこれらのパターンとは違い、「普通の」日本映画が受け入れられた作品です。楽しみにして出掛けました。


ダンスにハマる主人公を演じるのはリチャード・ギア。物語の舞台がシカゴなのは、別に彼がかつて映画「シカゴ」で踊ったから…というわけではなく、「市街地の地上を高架で鉄道が走っている街だから」なのだとか。日本ではよく見かける光景ですが、アメリカではとても珍しいのだそうですね。オリジナル版と同じ「通勤電車から見上げると…」という導入部を作るためには必要だったわけです。

これに限らず、オリジナル版をとても大事にしていることは随所で感じられました。基本的には話の流れは全く変わりません。特に驚いたのが、「笑い」の部分が忠実になぞられていること。コミカルな動きはほとんどそのままで使われています。カツラを使ったネタあたりは、日本じゃなくてもあの見せ方でウケるのか…と妙に感心してしまいました。

そのカツラがポイントの、主人公の同僚で暑苦しいくらい情熱的なダンスを踊る男。オリジナル版では、周防作品では欠かせない俳優の一人である竹中直人が、あの濃厚なキャラクターを見せつけましたが、ハリウッド版もその「濃さ」では全然負けていません。

でも、この顔はどこかで見たことがあるな…と思っていたら、「ターミナル」で意地悪な空港警備官を演じていたスタンリー・トゥッチでした。今年はこれまでより確実に多くの映画を見ていますが、結果として同じ俳優が別のキャラクターを演じるのを見る機会が増えました。イメージが一つに固まらないのが上手い俳優なのかな?という気がします。一方で「はまり役」というものも確かに存在するわけですが。


先にも触れたとおり、オリジナルと同じではリメイクの意味がないわけですが、何が違うのか?と見ると、やっぱり大きな差は主人公の立場と妻の存在感でしょう。主人公がサラリーマンから弁護士になることで、彼の悩み、人生への物足りなさのレベルも一段高いところに上がっています。妻の存在感はハリウッド版で劇的なまでに上がっていますが、これはとりもなおさずアメリカでの女性の立場、妻の立場が日本とそれだけ違うことの現れといえそうです。

他にもいくつかオリジナル版との設定の違いがありますが、一貫しているのはこの物語を「日本人の物語」から「アメリカ人の物語」に変えていくための変更であること。アメリカという社会の中でよりリアリティのある設定に変えているようです。例えば、アメリカでは日本よりは”Ballroom Dance”がずっと身近で、主人公は「ダンスは高校の卒業パーティー以来だ」と言いますし、「ナンパのためにダンスを習う」という動機も成立してしまうんですね。

逆に、日本ではダンスを習うこと自体「恥ずかしい」というイメージがあり、そのこと自体が物語の根底に流れていました。オリジナル版のタイトルで「ダンス」だけカタカナ書きなのは、そんな居心地の悪さを見事に表現している気がします。逆に言うと「ダンス」が「Dance」になった時点で失ったものは意外に多いはずなんですが、そんな中でも独特の味わいは失わせずに、さらにアメリカらしい味付けを加えたわけですから、ハリウッド版の制作陣は実に上手くやったと思いますね。見事な「リメイク」です。


もう一つ決定的な違いは上映時間でしょうか。「Shall we Dance?」の上映時間は106分。オリジナル版はDVDの広告を見ると136分の作品です。実にハリウッド版の方が30分も短いんですよね。だからといって、ハリウッド版が話を大幅に省略しているわけでもなく、むしろ付け加えられた部分も結構あります。逆にオリジナル版の方がちょっと長いなぁ…と感じるくらいです。スピーディでドラマティックな展開を作らせたら、やっぱりハリウッドが強いと思いますね。もちろん、短ければよいわけではありませんが。


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