最近すっかり常連となりつつあるS.S.K.の映画レポート。7月3本目、今年通算15本目となる作品は「宇宙戦争」になりました。スティーブン・スピルバーグ監督の最新作で、この夏は私も既に見た「スターウォーズ・エピソード3」との「宇宙」対決が注目されていましたよね。すでに6月中に公開されていましたが、見に行くのがちょっと遅くなってしまいました。
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主演はトム・クルーズ。このタイトルで彼が主役…と聞くと、昔なら「宇宙からの侵略者たちに立ち向かう地球防衛軍のエースパイロット」を想像してしまう(相変わらず「トップガン」の印象が抜けきっていないのか)ところですが、この作品で彼が演じているのはごくごく普通の一般人。…いや、それどころか、バツイチで家の中にはほとんど食べ物の買い置きがないような生活をしている、かなりダメダメな男として登場します。その主人公・レイの家にたまたま前妻の二人の子供たちが来ているときに、異星人の侵略行為が始まり、彼は子供たちを母親のいるボストンまで送るために逃避行を始めます。
「宇宙戦争」というタイトルではありますが、「スターウォーズ」とは違い宇宙空間での派手な戦闘が見られるわけではありません。映し出されるのは暴れ回る異星人の兵器と、なすすべもなく逃げまどう人々。描き方としては戦争映画と言うよりもむしろディザスター(災害)・ムービーと呼んだ方が適当かも知れません。ふと思い出したのは、現代の地球に氷河期がやってくる映画「デイ・アフター・トゥモロー」でした。
19世紀末(!)に書かれた原作では、地球を侵略するのは火星人になっていたわけですが、人類が火星に遠隔操作の無人探査機を送り込む時代に、さすがに火星人という設定はあまりにナンセンスです。実は数枚上手の火星人が無人探査機を拿捕して偽物の映像を流している…としたら、それはそれでかなり怖い話なんですが…。ともかく、そんな事情からか、今作の侵略者たちの正体は最初から最後まで謎のままです。この「正体がわからない」ということが、恐怖を煽っている気がします。
そういえば、最初に異星人の攻撃が始まったとき、人々の反応が「何があったんだ?」の次に決まって「テロリスト?」だったのが非常に印象的でした。現代社会、特にあの9月11日以降のアメリカでは、正体不明の冷酷な殺戮者たちは現実にかなり近いところに存在します。だからこそ、スピルバーグ監督が描こうとした恐怖は、より現実的なところで観客たちに訴えかけてきたと言えるのでしょう。幸か不幸か平和そのものの日本にいると、その実感はやや乏しくなるわけですが。
ともかく、敵が誰だったかは問題ではなく、圧倒的な力の前にただ逃げるしかなくなったとき、人はどうするのか?…そこがこの作品の肝だったわけです。愛する子供たちを守るため、レイは車に群がる人々をはね飛ばし、自らの手で殺人も犯します。もちろん、極限状況にあったからこそ、最も優先したいこと以外を切り捨てなくてはならなくなり、そんな結果を生んでしまったんですが、その結果、いつの間にかダメ男だった彼は頼れる父親に変貌しています。これまでトム・クルーズが演じてきたようなヒーローではありませんが、家族にとってのヒーローではあるかも知れません。そういえば、Mr.Childrenの「HERO」も似たようなモチーフで作られた曲ですね。
結局のところ、根底に流れるテーマは「家族愛」だったのかな?と思うわけですが、考えてみると「スターウォーズ・エピソード3」でアナキンをダークサイドに追いやった原因も家族を思う父の心だったと言えますし、「デイ・アフター・トゥモロー」でも主人公は息子を救い出すためだけに極寒のニューヨークにあえて向かいます。どうやら、「父親の家族愛」はハリウッドの大好きなテーマのようです。確かに時代を超えて変わらないものであるわけですが。
映像技術としては、今見られる最高のものを見ることができたと思います。CGが多用されるのはもはや当然として、改めて感心したのがカメラの回し方。時折見られたローアングルから空を見回すようなショットが恐怖感を煽ります。このアングルは、レイの娘・レイチェルの視点をシミュレートしているわけですが、レイチェルを演じているのが天才子役のダコタ・ファニング。目の動きでデリケートな演技を見せています。末恐ろしい子です。
しかし、どうにも腑に落ちなかったのがエンディングに向かっていく最後の時間帯。あまりに展開が唐突に感じ、意味のわからないままに終わってしまいました。正月に見た「ターミナル」でも似たような感触があったんですよね。スピルバーグ作品といえば、美しい映像と劇的なストーリーが看板とされてきた気がしますが、どうしてしまったんでしょうか。たくさんの作品を撮ってきた彼が最近お疲れ気味なのか、それとも美しい映像に私たちの目が慣れてきたせいでストーリーのボロが見えてくるようになったのか。ちょっと自身では判断しかねるところです。
映画「宇宙戦争」を見に行きました。7月3本目、今年15本目の新作映画になります。先々週に見た「スターウォーズ・エピソード3」との「宇宙」対決が注目されましたが、作品の中身はそんな単純な軸では比較できないものでした。いろいろと考えさせられる作品です。
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