先週の9月8日(日本時間)に、Apple社から新型のポータブルオーディオプレーヤー・iPod nanoが発表され、その日から販売が開始されました。うちの弟・ささっちもブログで取り上げていましたが、やっぱり気になる新製品です。
パソコンの世界では、Macが熱烈な支持者を得ながらも、なかなか本流にはなれなかったApple社ですが、ポータブルオーディオプレーヤーの世界では、iPodの大成功でハードディスク世代のトップランナーになりました。iPod nanoは、そんなApple社が冬に発売したiPod Shuffleに次いで送り出すフラッシュメモリ内蔵タイプの製品です。この世代でもトップを維持するどころか、さらに突っ走ろうとする意欲たっぷりの製品に仕上がっています。
たまたま立ち寄った近所の家電量販店に、このiPod nanoの実物が手に取れる状態で展示されていたので、じっくり見てきました。「鉛筆ほどの薄さ」という(だいたい、鉛筆という入力デバイス自体絶滅の危機に瀕しているような気もするわけですが…)筐体は持ってみると確かに薄くて、これがモックアップではなくちゃんと動作することに、ちょっとした感動を覚えました。裏面の鏡面処理の外装との2トーンカラーが、さらに薄さを強調しています。42gという数字を見るまでもなく、持ち上げればこれまでのiPodと比べると格段に軽くなっているのがわかります。
ハードディスク版iPodのイメージそのままのデザインで、作りもしっかりしていて高級感があります。モノとしての完成度の高さが印象的な製品です。昔からApple製品では「所有する喜び」が上手に演出されているんですよね。かつて、Macintoshが自動車よりも高い値段で売られていた頃は、その価格自体が演出に寄与していたと思います。しかし、価格破壊が進んだ現在でも、モノ作りの基本的なポリシーはあの頃から変わっていないように見えます。低価格化と高級感の両立は大変なことだと思いますよ。うわべだけでは高級感はなかなか出てきませんから。
価格破壊といえば、iPod nanoで一番驚いたのはその価格。2GBモデルで21,800円、4GBモデルは27,800円。他社の同様の製品と比べると破格の安さで、もはや「お買い得」どころの騒ぎではありません。だいたい、4GBモデルのあの価格では、普通なら4GBのコンパクトフラッシュですら買えません。大量生産が前提だとはいえ、それでもかなり挑戦的な価格設定のような気がします。
私は、最初に新製品発表を見たとき、この製品がハードディスク内蔵なのかフラッシュメモリ内蔵なのか判断できませんでした。Appleの公式サイトを探しても、記録媒体が書いてある場所がなかなか見つからなかったんです。「4GBで27,800円」がフラッシュメモリで実現できるわけがない。でも今どきハードディスクで2GBなんて製品が出てくるとも思えない。いったいどうなってるんだ?…となったわけです。結局、製品仕様の備考欄に小さく書いてあるのを見つけました。
ただ、一つ言えるのは、買う側にとっては記録用にどんなデバイスを内蔵しているかは重要なことではなく(取り外せるメモリーカードを使う場合はまた話が変わってきますが)、どのように音楽を聴けるかの方がずっと大事だということ。iPod nanoの製品紹介には「音飛びがない」と明記されていて、首に掛けたりアームバンドに固定してジョギングしたり…というスタイルが提案されています。これを読めばフラッシュメモリを使っていることは推測できるわけですが、別にそれを知らなくてもアームバンドは使えます。
考えてみると、ハードウェア性能をあまり意識させないまま、使い勝手で製品アピール…というのはMacの頃から変わらないAppleらしい手法でもあります。MacintoshはかつてCPUを680×0系からPowerPCに乗り換えるという劇的なハードウェア変更を行いましたが、OSの操作性は全く変えませんでした。来年にはIntel製CPUへの乗り換えも予定されていますが、今度もハードウェアの違いはOS側のソフトウェア・エミュレーションで吸収します。ただし、これはハードウェアとソフトウェアをともに自前で用意しているからこそできることなんですよね。操作性は劇的に変わったのに、もう20年以上も同じ規格を引きずっている部分があるWindows PCとは対照的です。
ところで、私は既にフラッシュメモリ世代のポータブルオーディオプレーヤーとして、ソニーのウォークマンスティックを使っています。もともと、「ディスプレイなし、シャッフルプレイ専用」という超シンプル設計で低価格路線を取ったiPod Shuffleよりもちょっと高い価格帯に、高級感のあるデザインと基本的な機能の充実を売りにして投入された製品です。実際に、ウォークマンスティックは結構売れたようですが、iPod nanoはこのウォークマンスティックと真っ向から競合するクラスに放たれた刺客…と見ることもできそうです。そういえば、今年は「刺客」も流行語大賞候補になりそうですね。
この動きを知ってか知らずか、ソニーはiPod nanoの発表と同日に次世代のウォークマンであるAシリーズの製品群を発表しました。メディアの中には「ポータブルオーディオ2強対決」のように取り上げたところもありましたが、冷静に見れば、一人勝ちのiPodに食い下がろうとするかつての王者ウォークマン…というのが順当なところだと思います。だいたい、iPod nanoが即日発売なのに、ウォークマンAシリーズが登場するのは11月になってから…という時点で対決にすらなっていません。
iPod nanoとウォークマンAシリーズの製品情報サイトを見比べると、ちょっと面白いことに気付きます。iPod nanoの紹介には驚くほど機能の紹介が少なくなっている一方で、ウォークマンAシリーズでは新機能紹介が大きなスペースを占めています。機能面では基本的にiPodそのものであり、違うところだけ示せばよいnanoに対して、新機能をアピールして追撃しなくてはならないウォークマン…というところが明確に出ているような気がします。逆に言えば、先行しているApple社側にはそれだけ余裕があるとも言えるわけですが。
仕様一覧を見ると、ウォークマンの方が勝っている部分も結構ありますが、それでも総合的に見るとやっぱりiPod nanoは魅力的な製品に仕上がっていると思います。今使っているウォークマンスティックも気に入っていますが、それでも「iPod nanoって欲しいかも」と思ってしまったくらいです。ソニーもモノ作りの高い技術を持っていますし、特にスペックに現れない部分での高級感の演出にも強いメーカーだと思っていますが、少なくともこの分野ではiPodとの立場を簡単にはひっくり返せないところまで引き離された状態だと思います。
今日のタイトルに改めて注目していただきたいのですが、iPod nanoの登場は、Apple社が特に日本において自らの優位を強固なものにするために打ち上げた、2段ロケットの第2段だと思っています。お察しの方も多いかと思いますが、第1段は既に8月に打ち上げられています。これについては、話を始めるとあまりに長くなってしまうので、また回を改めて触れてみようと思います。そして、実はこちらの方が事の核心を突いているのかも知れません。
先週発売された、Apple社の新しいポータブルオーディオプレーヤー・iPod nanoに注目してみました。モノ自体の完成度はもちろん、他にもいろいろと感じるところがあります。
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