嘘の入ったリアル

最近、CDを聞いている話が続いていたんですが、今回は見る話。先月発売になっていた、DVD「ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン (通常版)」を見ました。制作が発表されてからずっと気になっていた作品で、ようやく出てきたか…という気持ちだったんですが、実際に見るのはちょっと遅れてしまいました。

「ファイナルファンタジー」といえば、今や日本を代表するコンテンツの一つとなったスクウェア・エニックスによるロールプレイングゲームのシリーズで、初代「ファイナルファンタジー」がファミコン用ソフトとして登場したのは1987年。その後続編が次々に発売され、旧スクウェアの看板ソフト、そして同社の象徴としての地位を確固としたものにしていきました。この映像作品の元になった第7弾・「ファイナルファンタジーVII」はそのちょうど10年後、1997年に初のプレイステーション用ソフトとして発売された作品で、3次元CGで表現された世界を歩き回れるゲームシステムや奥の深いストーリーが印象的でした。

私にとっては、この「FF VII」は初代のケータイ移植版を除けば自らプレイした最後のファイナルファンタジーでもあり、そのためにさらに印象が強まったのかも知れません。何故これで最後だったのか?…一番大きいのはこの種のゲームにじっくり取り組めるだけの時間がなくなったことだと思うんですが、その後の進化が演出重視になり、私の期待とはちょっと違う方向に進んでしまったことも影響していると思います。もしかすると、ただ単に年を取っただけなのかも知れませんけどね。


「ファイナルファンタジー」シリーズの映像化といえば、2001年に公開された映画「ファイナルファンタジー」があります。これは私も映画館まで見に行きましたが、正直なところ満足度はあまり高くなかったのを覚えています。全編3次元CGによる、超リアル志向の映像のクオリティは確かに高かったんですが、あまりにリアルすぎて、3次元CGで作る意義を感じられなかったんですよね。完全オリジナルストーリーで、ゲームのシリーズとの関連性を全然感じられなかったこともあるかも知れません。

その点、この「アドベントチルドレン」は「VII」の後日談として制作されているところが決定的に違います。もちろん、ストーリーはゲームとつながっているわけですが、それ以上に世界観がつながっていることの影響が大きいですね。かなり非現実的な造形の多かったゲーム世界を大事にしたまま、肌や髪、あるいは金属、布、皮革…といった質感がリアルに表現されています。これならCGで作る意味がある…という「嘘が入ったリアル」を絶妙なバランスで見せてくれます。

正直なところストーリーはそれほど詰まっているわけではなく、派手な戦闘シーンの連続を楽しむアクション・ムービー…と言っていいと思います。アニメーションの激しさでごまかせる戦闘シーンだけでなく、穏やかな場面でも映像のきめ細やかさには目を見張るものがあります。かつての3次元CGムービーによくあったような、目がどこかを泳いでいるような雰囲気も感じません。ようやくバーチャル世界の3次元キャラにも魂が入り始めたようです。制作側の執念と言っても良いほどのこだわりを感じますね。

ただ、その一方でちょっと物足りなかったのは音声。キャラクターの口の動きが台詞と合っていない気がするのは、吹き替え版の実写映画でも起こることなので気にしても仕方ありませんが、爆発音や激突音などの効果音に厚みが感じられません。もうちょっとサブウーファーが鳴ってもいいような気がするんですが…。映像のクオリティに音声がついて来られていないような気がしました。あれだけ「本物」に近い映像を見せるのなら、音の方ももっと本物に近づけないと。

DVDの構成で親切だな、と感じたのが、ゲームのストーリーをダイジェスト版で見せるムービーが付いてきたこと。これを見ておくことで、本編の世界を知ることが出来ます。ストーリーを思い出して懐かしむだけでなく、8年前の3次元CG技術と現在との差を感じられるのも面白いですね。当時はここぞという場面で使われていた、あらかじめ計算されていたムービーも、あの程度のクオリティでなら現在はリアルタイムで動かせるかも知れません。


カボチャ小僧、整列?;クリックするとCG Worldへ

私自身も、趣味で3次元CGを作っています。現在の「Happy Halloween!」サイトデザインで随所に登場しているカボチャの提灯(と言えばいいのかな;現在はCG Worldに展示中)も、3次元CGで作ったものです。シンプルな中にも味がある形に作れたかな?と思っています。

目と口のところから明かりが漏れているように見えるのは、実際にカボチャ型の立体の中身をくりぬいて、その中心に光源を配置する…という方法で実現しています。こう書くとずいぶん堅苦しいんですが、要するにバーチャル世界の中で模型を作っていることになります。一つ出来てしまえば、例えばこうして並べていくだけでちょっと面白い作品が作れてしまいます。こうした面では、「絵を描く」のとは全く異質の作業です。

あとは作り上げた模型のカメラアングルを決めて、そこに色を付ける方法を決めて計算させればできあがり。このときに、光がどのように反射したり屈折したりするかを計算させる…というのがレイトレーシング(光線追跡法)と呼ばれる手法です。何しろ自然界の現象を真似しているわけですから、実にリアルな映像を作ることが出来ます。

ただ、その中に置く模型は必ずしもリアルに作られている必要はないんですよね。例の「カボチャ小僧」もリアリティという面ではかなりいい加減ですし、もっと攻撃的に、意図して現実とかけ離れたものを作ってみるという考え方はあると思います。構造から強度計算をする必要は全然ありませんし、反射率や屈折率も現実世界での物質の物性に縛られませんし。変わったところでは、影を他の物体に落とさない「ドラキュラ」なんて設定も出来ます。

他にも3次元CGの作品はいくつかCG Worldに公開していますが、私は徹底的にリアリティを追求するよりもむしろ「リアルに作った嘘」を楽しめるといいんじゃないかな?と思って作っています。「本物そっくり」にこだわり過ぎると、どこまで行っても満足できない気がしますね。…まあ、そこまで緻密に作り込めるだけの手間暇がかけられない…というのが本音ですが。

先月発売されたDVDビデオ「ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン」を見ました。全編リアル志向の3次元CGのみで作られた2時間弱の映像作品です。4年前に見た映画「ファイナルファンタジー」から映像そのものに格段の進歩があったとは思わないんですが、CGならではの映像作りのスタンスを見つけて、独自の存在感は増している気がします。

この作品の原作になっているのが、8年前に発売されたゲームである「ファイナルファンタジーVII」ですが、最近になってこの作品世界を使っていろいろな商品が登場しています。それだけ作品世界がじっくりと練られて作られていたからこそのことだと思いますね。最近のアニメ映画もそうなんですが、これも既に子供向けの枠は飛び越えている作品のような気がします。

原作は世界中で1,000万本近くが売れているのだとか。CDでも、ビデオ作品でも、グローバルにこれだけ売れているものはなかなかないはずです。ストーリーにこだわって「見せる」ロールプレイングゲーム…というのは、日本発のコンテンツの一分野として誇れるものだと思います。


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