似て非なるXP

微妙で決定的な差

ようやくまともに使えるようになった、自作タワーPCの2つのWindows XP。前にも何度か触れているとおり、デスクトップを見ているだけでは全然区別が付きません。もちろん、少し細かく見ていけば違いも見えてきます。例えば、x64版にはInternet Explorerが32bit版と64bit版の2種類入っています。しかも括弧書きの注釈が付いているのは64bit版の方。実は、これは結構重要なポイントなんですが、この辺りについてはちょっと後回しにさせてください。

x64版付属の2つのInternet ExplorerでSSK Worldのトップページを表示させてみましょう。一番上にブラウザやOSの情報が表示されていることには、皆さん既にお気づきかと思います。見ると、それぞれこんな風になっています:

32bit版↓
HTTP_USER_AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.2; WOW64; SV1)

64bit版↓
HTTP_USER_AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.2; Win64; x64; SV1)

参考:32bit版Windows XPでの表示↓
HTTP_USER_AGENT: Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; .NET CLR 1.1.4322)

それぞれを細かく見ていくとこれはこれで結構面白い(「x64」や「WOW64」の文字も見えますね)んですが、注目したいのはOSのバージョン番号。64bit版のWindows XPは、内部的には「Windows NT 5.2」であることがわかります。つまり、「Windows NT 5.1」である32bit版のWindows XPとは別のバージョンとして扱われていることになりますね。

これには、Windows XP Professional x64 Editionが、32bit版のWindows XPではなくx64版のWindows Server 2003(これも内部バージョンは「Windows NT 5.2」)をベースにして作られた…という事情があるようです。この方がOS自体の安定性では有利そうですが、アプリケーションのインストーラが厳密にバージョン番号をチェックしていたりすると、実際にはx64版でも動作するかも知れないのにインストールで弾かれてしまう…という事態になります。この点を修正するだけで、動作するソフトはもう少し増えるのかも知れません。

ソフトを生かすためのハード

私の手元には、x64専用版が提供されている市販のソフトウェアが2本あります。どちらも、ギガバイト単位の大量のデータをメモリ上に展開することで高速化が期待できるソフトで、64bit化の恩恵を最も受けられる分野といえます。一つは、前から愛用していて、先にも話題に出している3次元CG作成ソフトのShade 8 Professional。x64版は、Webサイトからのダウンロードで提供されています。32bit版をインストールした後でないと使えない、20MB弱のファイルです。共通で使えるリソースは共有しているのかも知れませんね。

もう一つは、今回新たに購入した音楽作成ソフトのSONAR 5 Producer Edition。こちらは、1枚のDVD-ROMに32bit版と64bit版が収められています。パソコンの処理能力が許す限り、いくつでも無制限にオーディオトラックやソフトウェア音源を駆使しての音楽作りが可能です。また、マスタリングを従来のステレオ2チャンネルだけではなく、サラウンド情報を含んだ5.1チャンネルなどの形式で行うことも可能です。ただし、その能力を十分に発揮するためには、それなりのオーディオインターフェースが必要になります。例えば5.1チャンネルで出力するためには6系統の出力が必要…ということになりますからね。

EDIROL UA-101・前面
このために私が導入したのは、EDIROL(ローランドのPC向け音楽機器のブランドですね)のUA-101。x64対応でなくてはならない…ということで、もともと選択肢は極端に絞られていました。USB2.0接続で、最高192kHz/24bitでの録音・再生、最大10チャンネルの入出力(このときは最高96kHz/24bitになりますが)に対応します。

EDIROL UA-101・背面

前面にも、背面にも大量の端子が並んでいます。音声入出力以外にMIDI IN/OUT端子もありますから、キーボードからの演奏データ入力も、外部音源のコントロールもこの箱一つで出来てしまいます。SONARも含めて、PCベースのパーソナルな音楽制作環境としてはほぼ最高レベルと言っていいでしょう。個人の趣味レベルにはオーバースペックでは?という話もあるわけですが…。

自分だけ対応してもダメ

…ちょっと話が横道に逸れましたが、とりあえず両ソフトを両方のWindows XPにインストールして動かしています。x64版の方がパフォーマンスが高いのかどうかは、まだはっきりしません。おそらく、現状ではまだ差が出るほどの負荷を掛けていないからではないでしょうか。

気になるのは、ShadeもSONARも32bit版では使えるのにx64版では使えない機能があること。「機能限定版」とまで言うとちょっと言い過ぎかも知れませんが、結構大事なところが抜けているように感じます。例えば、ShadeでもSONARでもx64版ではQuicktime形式へのエクスポートができません。SONARでは、32bit版でしか使えないソフトウェア音源やエフェクターがありますし、売りの一つである高性能のディザリングエンジン(録音結果をミックスして落とし込むときに、極力元の情報を織り込みます)もx64版では使えません。

ただ、これにも仕方ない面があります。x64版で非対応になっている機能は、他社のソフトウェアを利用しなくてはならない機能ばかり。例えば、Quicktime形式で出力できないのは、Apple社がまだx64用の書き込みモジュールを提供していないからのようです。この場合、知的財産権の問題もあり、勝手に移植するわけには行きませんから、それぞれのモジュールが対応するのを待つしかありません。

こうした事情は、最初に出てきた64bit版のInternet Explorerでも見られます。プラグインモジュール(ActiveXコントロール)も64bit版のものが必要になり、現状では未対応のものが結構あります。致命的なのは、インタラクティブなページを実現する方法の一つとして事実上の業界標準となっているFlashがx64に未対応であること。せっかくの数少ない64bit版ソフトなのに、堂々と標準に据えられない(特に指定しなければ32bit版が立ち上がります)のはこの辺りが理由なのでしょう。

高機能なCPUを生かすためには対応したOSが必要。しかし、そのOSを生かすためには対応するアプリケーションソフトが必要…結局のところ、「パソコンはソフトあってこそ」ということを改めて認識しています。使えない周辺機器があることもありますし、現状では私の家でもx64版のWindows XPが立ち上がる機会はそれほど多くないかも知れません。もし「32bit版ではできない」という作業があれば、状況は変わってくるはずなんですが。

一見同じに見える32bit版と64bit版のWindows XPですが、やっぱり中身は全然違います。ドライバだけでなく、32bit版プログラムと64bit版プログラムの連携ができない…というところがポイントですね。一応基本が同じ32bit OSであったWindows 2000のときには、こんな問題に当たった記憶がありません。

今年中には次期WindowsであるWindows Vistaが登場するはずですが、そのとき販売されているデスクトップPCのほとんどは64bit CPUを搭載することになる一方で、ノートPCではまだ32bit CPUがかなり残ることになりそうです。PCは、ハードウェアは、ソフトウェアは、それぞれどんな対応をすることになるのでしょうか。今起こりつつあるのは、10年前にWindows 3.1からWindows 95に切り替わったときに匹敵する…いや、それ以上の大きな変化なのかも知れません。


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