私の所属している浜松混声合唱団では、7月2日の演奏会に向けてただ今練習中です。この浜松混声合唱団、もともとは毎年年末にベートーベンの第九を歌っていた浜松フロイデ合唱団の中から、「年間を通して歌いたい!」という人たちが集まって結成された合唱団です。一応別団体ということになってはいるわけですが、歌っている私からすると、回りにいるメンバーは変わりませんし、自主運営の旗印の下、歌以外にもいろいろな活動がありますし、団体名が違うだけでやっていることはあまり変わらないような気がします。
今年のメインステージで歌う「心の四季」の練習用CDを作っています。この練習CDも、一昨年初めて作ってから多くの団員の皆さんに活用していただいているようで、今年は最初から「練習CDはいつ頃出来るの?」なんて質問を受けることもありました。期待されるのはとても嬉しいんですが、あまり頼られすぎるのも不安です。私だって、いつ合唱を続けられない事態になるかわかりませんし。
去年までは、楽譜の内容をひたすらパソコンに打ち込んでいく…という手法で作ってきた練習CDなんですが、今年は思い切って新兵器を導入しました。河合楽器の「スコアメーカー5」というパソコンソフトです。これは、一昨年の記事でもちょっと触れた、スキャナで読み込んだ楽譜をMIDIデータに変換するソフト。文字をスキャナで読み込んでテキストデータに変換するOCRというソフトがありますが、スコアメーカーの仕事は「楽譜OCR」と呼んで良さそうです。
文字のOCRは何度か使ったことがありますが、正常に変換できる文字はだいたい全体の9割くらいで、読み取りミスをしている文字を探して直すのが意外に面倒…という印象があります。短い文章なら、まっさらな状態から打ち込んだ方が速いんじゃないの?と思うくらいです。ですから、正直なところこのソフトにはかなり懐疑的でした。
ところが、体験版をダウンロードして使ってみて、印象は180度変わりました。試しにピアノソロの楽譜(ちなみに曲は「オペラ座の怪人」だったんですが)を取り込んでみたら、臨時記号だらけの譜面から全ての音を正確に拾ったばかりか、強弱記号までほぼ完璧に変換したんです。これは使える!と踏んで、製品版を3万円弱で購入しました。「合唱団の予算から出してもらえばいいのに」とのお話もいただきましたが、それは断りました。買ってもらうとそれが「仕事」になってしまいますからね。仕事にしてしまうと辛くなる…というのは良くある話です。
もちろん、製品版でもスコアメーカーの性能は素晴らしいものです。ほとんど全ての音符を確実にMIDIデータに変換します。ただし、コピー機で複写した楽譜や手書きの楽譜は読めません。手書きのものが読めないのは文字のOCRでも同じですから仕方ないんですが、解像度が落ちたり、ゴミが乗ったり…という画像データとしての劣化にはかなりシビアに反応します。びっくりしたのは、スキャナのガラス台上に乗っていた髪の毛を拾って、そこの部分だけデータが大幅に乱れたこと。相当細かいレベルでの読み込みが必要なようです。
10数ページの曲でも、きちんとスキャンすれば1時間もかからずにMIDIデータに変換することが出来ます。練習CDの制作もずいぶん簡単になった…とお思いの方も多いかと思いますが、話はそう簡単ではありません。私が作ろうとしているのは、楽譜に書かれた内容を忠実にコピーした演奏ではなくて、パートごとの音取りに使いやすい演奏ですからね。メトロノームの刻みを入れるなどのデータ追加だけではなく、取り込んだデータ自体の調整も必要になります。特に気になるのは、強弱の差が付きすぎること。小さすぎる音は聞き取れず、音取りには役に立ちません。
ソフトという「他人」が打ち込んだデータなので、最初はデータ変換のクセを掴みきれず、内容を把握するのに時間がかかってしまった…という面もあります。確かに作業は楽にはなったんですが、時間はそれほど短縮できませんでした。
出来上がったMIDIデータを、CDに焼けるような音声データに変換するのには、自作PCドタバタ日記でも紹介したCakewalk社のSONAR 5を使いました。今後自分の曲作りに活用していく前の良い練習台になったかも知れません。
SONARでの曲作りでは、基本的にはMIDIデータもソフトウェア音源で鳴らす…という考え方になっています。CPUパワーにものを言わせた音楽制作プロセスですね。ハードウェア音源を使わない場合、CPUに十二分な計算能力があればリアルタイムよりも早くいろいろな処理が出来てしまいます。音声データ化したときに、どこにピークがあり、そこはクリップ(音割れ)しているのかどうかも、音を全く鳴らさずに、かなり短時間で確認できます。
各トラックからステレオへのミックスダウンも、同様に音を全く鳴らさずに行えます。ひととおり聞いて納得できれば、あとはこのノンリアルタイムのプロセスでステレオのデータを作るだけ。この工程は、毎回リアルタイムで演奏させて確認していた頃と比べると、ずいぶんスピーディに行えるようになりました。新しいパソコンのCPUパワーも貢献はしていますが、やっぱりその処理が出来る機能を提供しているのはソフトウェア。「パソコンも、ソフトがなければただの箱」とよく言いますが、まさに実感しています。
あとは、これをCD-Rに焼き込めば出来上がり。人数分の練習CDの円盤が出来上がりました。ところが、実際に聞いてみるととんでもない事態になっていました。あるパートのCDに、間違えて他のパート用の演奏が書き込まれていました。他のパート用のCDでは、CDに書き込むときの録音レベルの設定が不適切で、音の割れている部分があります。仕事で作っているものではない…とはいえ、あまりいい加減なものを渡すことはできません。作り直すしかありませんね。
書き込むデータを間違えたのは自分の不注意でしかありませんが、録音レベルの問題の方は、SONARの返してくるピーク感知の結果に安心してしまい、実際に聞いてみることが足りなかった気がします。どんなに優れたソフトウェアがあっても、それを使うのは結局のところ人間。ここがしっかりしないことには始まりません。まだまだ私も修行が足りませんね。出るのはため息ばかり…です。
SSK Worldにはパソコンに関連した記事が良く出てくるわけですが、パソコンを活用していく上でソフトウェアの占める役割の大きさは常々認識しています。「似て非なるXP」のときにも、一太郎2006の話題でも触れましたが、やっぱり「ソフトウェアあってこそのパソコン」です。
ただ、それ以上に大事なのは、そのソフトウェアを使う人間の側。高機能なソフトを使いこなすには、まず人間の側がそれについて行けるだけ「高機能」にならなくてはなりません。パソコンが、そしてソフトウェアが高機能になるほど、使える人間を少しずつ振り落としてきているような気もします。自分では、まだ辛うじてしがみついているつもりなんですが、もしかするととんでもない勘違いをしているのかも知れません。
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