今日は、アクトシティ浜松の中ホールに「横山幸雄ピアノコンサート」を聴きに行ってきました。横山幸雄氏は、1971年2月19日生まれの35歳。私と同年代で、世界を舞台に活躍しているピアニストです。この日のステージは、彼のオリジナル曲から始まった第1ステージ、木管楽器との共演による第2ステージ、彼のプロ活動のきっかけとなったショパンの作品を集めた第3ステージという盛りだくさんの3ステージ構成。3時間近い長いステージでしたが、飽きることなく楽しめました。
前にも触れたことがありますが、ピアノという楽器はソロ演奏だけで音楽を完結することが出来る数少ない楽器です。そして、他の楽器や歌声などをを引き立てる脇役としても実に良い仕事をします。力強く、かつ繊細に組み立てられていく演奏にしばし酔いしれました。
演奏の良さそのものに感動する以外に、同じ鍵盤弾きとしても得るものが非常に大きかったですね。最初は「どうしてそんなに速く指が動くんだろう?」と思っていたんですが、実はスピードよりもっと大事なのは打鍵の強弱。「ピアノは打楽器」という話も前にしたことがありますが、ピアノが音を制御できる瞬間は鍵盤を叩く瞬間と離す瞬間だけ。特に、最初に叩く強さをどうするかでほとんどが決まってしまいます。そして、彼の演奏はこの「叩く瞬間」を実に大切にしている気がします。速いだけでこの丁寧さが無ければ、単に雑な演奏になってしまいます。
この日は、第2ステージの最後に、一度退場した管楽器の面々がステージに戻ってきて、木管四重奏で横山氏に「Happy Birthday To You」を演奏していました。いかにもありがちな演出ではありますが、盛り上がって楽しかったですね。彼に渡された真っ赤な箱の巨大なプレゼントの中には何が入っていたのか?…非常に気になります。
先週の話題にも出てきた練習CDは、無事14日の火曜日に団員の皆さんの手に渡りました。皆さんからは、温かい拍手をいただきました。私のした仕事がちょっと報われた気がして嬉しかったですね。もちろん、これが本当に報われるのは、7月2日の演奏会で素晴らしい演奏を観客の皆さんに披露できたときです。この練習CDを普段から活用していただけることを期待しています。
練習CDを作るときに、楽譜をスキャナで読み取って、演奏情報であるMIDIデータに変換する…という手順を踏んでいることにも先週触れました。楽譜OCRソフトの「スコアメーカー」が、データを内部独自形式から他のソフトとの互換性があるスタンダードMIDIファイル形式に変換するときに、各パートに割り当てられた楽器によって変換方法がちゃんと変えられています。
管楽器を割り当てた合唱のパートでは、時間軸に沿って音量を連続的に変化させることの出来る「エクスプレッション」というデータで強弱が表現されています。一方、ピアノ伴奏のパートでは、発音ごとにその強さを表現する「ベロシティ」というデータのみで強弱が表現されています。余談ですが、ベロシティ(Velocity)という単語は「速度」という意味を持ちます。これは、電子楽器で打鍵の強さを鍵盤の手前と奥、2カ所のタッチセンサーの反応時間の差を使って読んでいることから付いた名前だそうです。
音を出している間ずっと神経を使わなくてはならない管楽器と、音を出す瞬間に神経を集中させる鍵盤楽器の違いが、MIDIデータの差として簡潔に表現されています。この辺りの配慮は、さすがは楽器メーカー、それもピアノメーカーである河合楽器だと言えそうですね。
昔から鍵盤楽器に親しんできた私ですが、管楽器や弦楽器にあこがれる…という趣旨の話は昔から何度もしていますし、実際にいろいろと浮気もしてきました。それでも、今日のコンサートでは、音を出す瞬間に賭ける独特の緊張感がピアノの持ち味であることを再認識しました。この楽器と仲良くなることが出来て、本当に良かった…というのが、今の私の素直な気持ちです。
実は、人間関係でも初対面の印象が肝心で、後から修正していくのはなかなか難しい…というのは、鍵盤楽器と似ているのではないかな?とも思っています。言い換えるなら、鍵盤楽器は人生そのものの縮図といえるのかも知れません。これまでも数多く体験し、おそらくこれからも幾度となく訪れるであろう人生のFirst Touch。いつでも力強く、かつ繊細に叩いていきたいものです。
鍵盤楽器は人生の縮図…と、偉そうな結論を書いていますが、やっぱり私は根っからの鍵盤弾きのようです。同じ鍵盤弾き(と呼ぶにはあまりにレベルも立場も違いすぎますが)の演奏を聴いてきた後で、いろいろなことを考えさせられました。考えてみると、この手の演奏会を聴きに行ったこと自体ずいぶん久しぶりです。
最初にも触れていますが、この日の「横山幸雄ピアノコンサート」の第3ステージは、全てショパンの作品で構成されていました。アンコールのラストも、ショパンの「革命のエチュード」。彼は、1990年のショパン国際コンクールでの入賞を機に本格的な音楽活動を始めたそうですから、ショパンはまさに彼のプロとしての原点だったわけです。First Touchを大切にしていく彼の気持ちを、こんなところでも強く感じましたね。
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