1ヶ月間熱戦が続けられてきたワールドカップサッカー・ドイツ大会は、明日未明の決勝戦で終わりとなります。「かば姉ちゃん」ブログでも話題になっていましたが、今朝の3位決定戦・ドイツ代表対ポルトガル代表戦では、上川徹氏が主審を、広嶋禎数氏が副審を務めました。日本人が決勝トーナメントの笛を吹くのは史上初めてだそうです。
予選で1試合任されて問題のあった審判は決勝ではクビになってしまうのがワールドカップサッカーのシステム。その中でここまで生き残って大一番を任されたわけですから、世界のトップとして認められたと言って良いでしょう。試合でも、毅然としたジャッジで期待に応えてくれました。選手たちは残念ながら予選リーグを突破できませんでしたが、彼ら審判は「日本サッカー」全体のレベルの高さを世界に印象づけてくれたと思っています。
日本代表の選手たちにとっては、今回のワールドカップは先月23日の対ブラジル代表戦で終わりました。この試合では、終了後にピッチに倒れ込み、そのまましばらくの間動けなかった中田英寿選手の姿が印象的でした。90分間常に走り回り、果敢にミドルシュートを狙い、チームメイトを鼓舞し続け…本当に疲れたんだろうなぁ、と思っていました。
しかし、そのとき彼の頭に去来していたのは、そんなシンプルなことではなかったようです。今月3日に、彼は自身のWebサイトで引退発表を行いました。それも「日本代表を引退」というわけではなく、プロサッカー選手としての現役を引退すると言うのです。これには、さすがに多くの方々がびっくりしたようです。各メディアは、このニュースをトップ扱いで報じました。そして今日まで、彼がどうしてその決断を下したのか、それぞれの立場から探し続けています。
私自身も、これにはかなりびっくりしました。そして、とりあえずニュースソースである彼のWebサイトのメッセージを読んでみました。他に出ている記事は、どれもこのメッセージを解説したか、他の人にコメントを求めたかのどちらかですからね。もともと、彼はあまりマスコミを通して思いを伝えない男です。「自分の思っていることが正しく伝わらない」と、かつて喧嘩別れしていますからね。そんな彼がただの悪者にならずに済んだ理由の一つが、このWebサイトかも知れません。多くの人たちとダイレクトに、しかも双方向につながることのできる表現手段です。
読んではみたものの、正直なところわからない部分が多かったですね。それでも、一つ感じられたのが、実にクールな表情を見せてきた彼も、実は胸の中には熱く燃えるものを抱えていたということ。それまでは押し込めていた様々な感情、「試合に勝つため」としまい込んでいたものが一気に吹き出したのが、あの対ブラジル代表戦の後の行動だったようです。
以前から今回のワールドカップを最後の舞台にしよう…と決めていたそうですね。最近になって、日本代表のチームメイトに声を掛けたり、歩み寄ろうとする姿勢を見せていたのを思い出します。テレビ画面の前でも、これまでより多く語るようになりました。そんな彼の行動を見ていて思い出したのは、3月の野球の世界大会・WBCでのイチロー選手の姿。熱い思いを内に秘めながら、一見実にクールに実績を積み重ねてきたところ。世界大会の場で、チームメイトたちと気持ちを一つにしよう!とコミュニケーションを求めたところ。最後に思いが一気にほとばしってきたところ…どれも本当によく似ています。
しかし、結果的に日本代表は予選敗退。中田選手はイチロー選手にはなりきれなかった…という論調もあったようですが、彼は彼なりに、ピッチで走り回っているのと同じように、自身の思いを伝えようと必死で頑張ってきたはずです。それがなかなか伝わらず、自分の限界を感じた…ということも、Webサイトのメッセージには記されていました。
思いを伝えるための技術というのも必要ですし、受け取る側にも受け取ろうとする気持ちが必要です。仕方ないところもあったと思います。何より、サッカーは気持ちが伝わらなかったときに一人で力押しするのが非常に難しい競技です。今回数多く放たれた中田選手のミドルシュートは、そんな気持ちの表れだったはずですが…。
彼は現在29歳。普通に考えれば、「引退なんてまだ早すぎる」という年齢です。しかし、そうした声は驚くほど少ないですよね。彼の決断に任せよう…という空気があるのを強く感じます。これまで残してきた数々の功績を考えて、「お疲れさま」という気持ちもあるのかも知れません。
しかし、世を忍んで隠居するにもあまりにも早すぎる年齢です。彼自身も「新たな自分探しの旅に出たい」と書いています。こう書いていると言うことは、次に何をするのか、まだ明確には決めていないようですが、いろいろな噂は出ていますよね。
よく言われているのは、ビジネス界への転身の話。実際に、彼は現時点でも東ハト(このたび山崎製パンの子会社になりますが)の非常勤執行役員…なんていう肩書きも持っています。税理士の勉強もしていたそうですし、実際にやる気十分という話が伝わってきます。日本語、英語、イタリア語などを使いこなし、サッカー界以外でも幅広い人脈を作っている彼。サッカーの試合でも全体を見通す洞察力を見せてくれました。何かやってくれそうです。
当面、彼が本当に「旅」に出られるかどうかはわかりません。周りの人たちが放ってはおかないはずです。しかし、せっかく自分の好きなように人生の歩き方を選べるようになったんですから、「サッカー解説者」なんて陳腐な肩書きに収まらずに、思いっきり幅の広さを感じさせるところで活躍してほしいと思っています。そうしていろんなものを見てきた後で、彼がまたサッカーに近いところに戻ってきてくれたとき、日本サッカーはまた一段高いレベルにステップアップできるかも知れません。
ワールドカップサッカー・ドイツ大会でも中心選手として活躍した中田英寿選手が、7月3日に引退を発表しました。彼のプレーがもう見られなくなるのは寂しさも感じますが、彼が自らの意志で決めたことです。悔いのないように、思いっきりよく新しい道へと進んでほしいところですね。
ところで、まだ余力を残しているように見えるのに引退する…ということでは、日本プロ野球・北海道日本ハムファイターズの新庄剛志選手ともよく似ています。しかし、引退までの道筋の付け方は両者で全く違いました。どちらが良いとか悪いとかではなくて、それぞれに自らの役割をよく理解した上での行動ではないかな?と思っています。言い換えると、セルフプロデュースが上手いということ。こういう人は、第2の人生に転身しても上手くやっていけるはずです。
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