そもそもPHSとは
久しぶりのSSK Special新コンテンツでは、ウィルコムのことを取り上げます。ご存じの方も多いかと思いますが、ウィルコムは現在新規契約の可能な唯一のPHS事業者です。NTTドコモやアステルなど他社がPHS事業から撤退するようになっても、他社とは一線を画す製品やサービスを提供して、ユーザーを着実に増やしています。通信業界内でも異彩を放ち続けていますね。
そもそも、PHSとは「Personal Handy-phone System」の略で、家庭で使っているコードレス電話をそのまま持ち出せるようにする…というコンセプトで提案されたものだそうです。余談ですが、最初は「Personal Handy Phone」の略でPHPと名前を決めたらしいんですが、某研究所の名前と同じになってしまうことに配慮して変えられたのだとか。愛称としては、現在では「ぴっち」が定着していますよね。カタカナで書くよりも、こうしてひらがなで書く方が愛嬌があって好きです。
…というのはともかく、そんな生い立ちが災いしたのか、PHSは安い携帯「電話」…というイメージが最初から作られていました。基地局当たりのカバーエリアが狭いことも、移動中の通信に弱いのも、もとが家庭用コードレス電話なんですから仕方ありません。携帯電話よりもずっと音質が良いという利点も持っているんですが、欠点ばかりが強調されて、「安かろう、悪かろう」の象徴のように言われてしまい、売り上げも全然伸びませんでした。
生き残ったH”
しかし、ウィルコムの前身・DDIポケットは、そのままの状態に甘んじることをしませんでした。PHSは、登場当初からデータ通信にも強い…というのが売りでしたが、2回線を束ねて64kbpsで通信するときに、2回線を保証するのではなく1回線ずつでも繋げられるシステムを投入。PHSは1回線だけでは基地局を切り替えられないんですが、複数回線を同時に使えるのなら、1回線ずつを順次他の基地局に切り替えて、移動中でもつなぎ続けられるようになります。DDIポケットは、この時点で既に他社の「ぴっち」とは別物でした。
その後も、パケット通信でつなぐAir H”(えあーえっぢ;現AIR-EDGE)を投入。さらに、束ねる回線も現在では最大8回線まで増やされています。他にもハード・ソフト両面からデータ通信の速度アップを図り、条件によっては「体感で1Mbpsクラス」を謳えるところまで来ています。こうして、「データ通信ならDDIポケットのH”」という評価はすっかり定着しました。
ただ、これも積極的にデータ通信を前面に出して勝負したというよりは、携帯電話会社でもあるKDDIの子会社だったDDIポケットが、音声通話サービスで真っ向から勝負して親会社と競合する訳にはいかなかった…という事情もあるようですね。まあ、結果的にはそのおかげでDDIポケットは生き存えて、現在のウィルコムにつながったと言えそうですが。
復活は音声への回帰で
その後、KDDIが持ち株を手放し、晴れて自由の身となったDDIポケットは、社名をウィルコムに変更すると共に、音声通話で一気に攻勢に出ました。「ウィルコム同士なら話し放題」というウィルコム定額プランです。
基本料金はたったの2,900円。音声通話なら高い従量制料金が当たり前だった携帯電話の世界で、これは衝撃的でした。これがきっかけで、ウィルコムの名前はコアなパソコンヲタクの間だけでなく、一気に一般社会に知れ渡ることになります。
「ウィルコム同士なら」というのがこのプランのミソ。端末は2台以上同時に売れることが多くなったのだそうです。同一名義で契約する2台目以降は2,200円…という価格設定も絶妙でした。こうして、一時は減少していたこともある契約回線数は再び増加に転じ、現在は約420万回線。携帯電話の数と比べてしまうと桁が違うわけですが、それでも移動体通信全体の4%くらいになりますから、十分な存在感があります。
小さかったからこそ
これまでの常識では考えられないような低価格の定額プランが実現できたのは、基地局当たりのカバーエリアが狭かったから。…と言うと意外に思われる方もあると思いますが、これは裏を返すと同じ面積をより多くの基地局でカバーしていると言うこと。もちろん、基地局を数多く設置するのは大変なんですが、PHSでは携帯電話と比べると基地局にかかるコストは桁違いに安いのだそうです。何しろ、家庭用のコードレス電話を基にして作られたんですから、わかる気がします。
言い換えれば、それだけ多くの回線がスタンバイしているわけですから、回線の時間占有率が高くなりがちな話し放題のサービスを提供しても、回線がパンクするリスクは少なくなります。もともと、NTTドコモの10分の1しかユーザーがいないわけですしね(笑)。
基地局の密度の高さは、回線を束ねて高速化するデータ通信にも有利です。パケット通信の場合、ユーザーが集中すると帯域をユーザー数で分割するので、ユーザー当たりの通信速度が落ちるわけですが、この影響もある程度抑えられます。auのCDMA 1X WINやNTTドコモのFOMA HI-SPEEDはメガbpsレベルの通信速度を謳っていますが、実際には数百kbpsがせいぜいなのだとか。これと比較すると、AIR-EDGEはかなり額面に近い速度が確保できているようです。
わかりましたか?
こうして考えると、ウィルコムのPHSは「携帯電話の簡易版」と捉えるべきではなく、むしろ携帯電話とは全く異なる思想で作られた通信システムだと言えるでしょう。特に、人口が集中している都市部では携帯電話に対して優位に立てる可能性もあります。「たかがぴっち」と侮るなかれ。なかなかの曲者です。
そんなウィルコムの製品たちと私との関わりは意外に古く…という話に入りたいんですが、あまりに長くなってしまいそうなので、この続きはまた回を改めてにしましょう。
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