昨日・1日から、日本シリーズが始まりました。読売ジャイアンツ対埼玉西武ライオンズ。それぞれ、リーグ戦を勝ち抜いたチームがクライマックスシリーズの激戦も制して、ここに駒を進めてきました。この対戦に決まったこと自体は良かった気がします。それよりも、リーグ戦優勝チームには、あんな余計なプレッシャーを掛けられずに日本シリーズに進んで欲しいと思うわけですが。
昨日の初戦は、2対1でライオンズの勝利となりました。両チームのエースピッチャーがしっかりと投げて、両チームの打線は苦労しながら最低限の点を取り、たまたま1点差が付いた…というくらいの緊迫した試合になりました。今日の第2戦も、同じような息詰まる展開になりましたが、ジャイアンツがラミレス選手のサヨナラホームランで勝利を収めました。地力のあるチーム同士の対戦で、長く楽しませてもらえそうな気がしますが、結果はどうなることやら。
日本シリーズに先立つこと2日、10月30日の木曜日には、ドラフト会議が行われました。新人選手を各球団に配分するための会議…ということになるわけですが、球団間の戦力の均衡を図るために特定の球団に有望な選手が偏らないようにしよう…という大義名分の一方で、選手たちから職業選択の夢と希望を奪っていることにもなるわけで、様々な問題を抱えています。
そんな中で、ドラフト制度のシステムは試行錯誤が続けられてきました。上位で指名する選手に事前の交渉を認めたり、高校生と大学生・社会人の指名を分離してみたり。一時期は、ドラフト会議前に有望な選手の行き先は自由競争でほとんど決まり、戦力均衡の意味では有名無実化している状態でした。各球団が契約金等とは別に「裏金」を渡していた問題も明るみになりました。
紆余曲折のあった後、結局今年はほぼ元通りの姿に戻ったようです。高校生、大学生、社会人全てひっくるめた中から、各球団が指名したい選手を順に発表。指名の重複した選手との交渉権は、くじ引きで決まります。結果は悲喜こもごも。相思相愛で意中の球団に行ける選手もいれば、「愛」が伝わらずに他の球団にプロポーズされてしまう選手もいます。
我らが中日ドラゴンズの今年のドラフト1位指名選手は、日本通運の野本圭外野手。走・攻・守の3拍子揃ったプレイヤーで、楽天イーグルスとのくじ引き一騎打ちで交渉権を勝ち取りました。彼は、プロなら12球団どこでもOK、そこでレギュラーを取るんだ…という考え方だったようで、こういう人の場合はドラフト制度の下でもあまり問題は出てきません。しかし、特定の意中の球団がある選手の場合は、もうちょっと話はややこしくなります。
読売ジャイアンツの今年の1位指名選手は、東海大相模高校の大田泰示(たいし)内野手。高校通算65本塁打の実績を持ち、将来の主軸として期待されるプレイヤーです。彼は、ジャイアンツの原辰徳監督の高校の後輩ということになります。というよりも、「原辰徳に憧れて」同じ高校に進んだ…ということだそうですね。記者会見でも喜びを爆発させていました。しかし、彼はもしジャイアンツ以外から指名を受けたらどんな顔で会見に臨んだでしょうか。既に東海大学進学の内定をもらっていたそうですから、プロ入りは蹴ったかも知れません。
同じようにジャイアンツ入りを熱望しながら、一昨年のドラフト会議では北海道日本ハムファイターズに指名され、誘いを断って社会人野球のホンダに進んだのは長野(ちょうの)久義外野手。2年間活躍を続けてドラフトを待った今年は、千葉ロッテマリーンズに2位で指名されました。ジャイアンツにも彼を指名したい意向はあったようですが、ドラフト会議は早い者勝ちですから仕方ありません。マリーンズからの誘いも断って、ホンダでまたジャイアンツからの指名を待つ選択肢もあるんですが、彼はいったいどうするのでしょうか。
5年前にドラフト会議を考えてみたときには、「こんなドラフト会議なんて要らない。いっそのこと自由競争にしてはどうか」なんてことも書いていますが、最近はちょっと考えが変わってきました。やっぱり実力のある選手は多くのチームに散らばった方が良い…というのが大前提です。特定のチームに全て集まってしまったら、シーズン中は彼らの対決が見られなくなってしまうんですから。
それにしても、大田選手や長野選手の話に触れると、「栄光の巨人軍」神話は相変わらず健在だと感じます。今や、ジャイアンツは圧倒的な最強の戦力を擁するチームでも、絶対的な人気を誇るチームでもありません。もちろん、普通に強豪チームではあるかもしれませんし、東京という大勢のファンを獲得できる地盤に本拠を置いているわけですが、かつてほどのブランド力はないような気がします。
それに、かつてのテレビ中継といえばジャイアンツ戦しかなかった頃とは違い、今は実力が発揮できさえすれば、ジャイアンツにいなくてもちゃんと注目してもらえます。これには、スカパー!などによる各球団の試合の露出度向上、交流戦の開催などいろいろな要因があると思いますが、最大の転換点は、オリンピックやWBCなど「日本代表」として戦う機会が与えられたことではないでしょうか。人気投票であるオールスターとは違い、実力のみで選ばれた選手たちが檜舞台で戦います。がんばって活躍できれば、どこにいてもちゃんとスポットを当ててもらえます。
他には、メジャーリーグに移籍するという選択肢が与えられたことも、似たような効果になっている気がします。大事なのは、どのチームでプレーしているかではなく、選手自身がどれだけ能力をアピールできるか、その一点です。そう考えると、憧れの球団でプレーすることが果たして最良なのか?…むしろ、自分の魅力をアピールできる場所を選ぶことが必要なわけで、各球団から必要とされて選ばれるドラフト指名というシステムは、選手たちにとっても有利な気がします。
長野選手は、並の野球選手で終わるつもりがないのなら、このままジャイアンツのラブコールを待ち続けるよりは、今マリーンズの誘いを受けた方がよいと思いますね。メジャーリーグをよく知るバレンタイン監督がいますし、国際試合の経験者も多く所属しています。地元のファンの応援も熱いですしね。何より、ジャイアンツ以上に自分を必要としてくれた球団です。どうしても…ということなら、活躍を続ければフリーエージェントでジャイアンツに移籍する道だって開けるわけですし。
ただ、人並み外れた努力を続けた人間が夢を実現する…という面からすると、意中の球団でプレーすることも確かに大事なことです。このあたりは価値観の違いでもありますから、一方的に断じられる話ではありません。
ところで、今年のドラフト会議を語る上で、忘れてはいけない選手がひとりいます。新日本石油の田沢純一投手です。アメリカ・メジャーリーグに挑戦したい意志を明らかにしていた彼は、結局どの球団からも指名されませんでした。彼の希望は叶ったわけです。
彼は、複数の球団と交渉を進め、条件の合う球団を選ぶことができます。ドラフト会議で行き先を決められてしまう選手たちとは大違いです。このあたりの不公平感も、システムとして解消していくことが必要だと思います。
まあ、実際にメジャーリーガーになるまでには厳しい競争があるわけで、彼の選択も楽なものではないはずなんですけどね。日本プロ野球の経験なしでのメジャーリーガー…ということ自体は前例もありますし、期待しておきましょう。
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