私の愛機・レッツノートなどの属するモバイルノートの世界には、昨年あたりから大規模な地殻変動が起きています。原因は、普通のノートパソコンよりも一回り小さくて大幅に安価な、「ネットブック」と呼ばれるジャンルの製品が登場したこと。それも、店頭の値札が9,800円とか、100円とか、さらには1円、0円なんてものもあるんですから尋常ではありません。もっとも、これらの価格は同時にインターネット回線等の契約を前提としたもので、2年間利用料を払い続ければ、結果的にそれなりの出費にはなりますが。
実質的な価格でも10万円を大きく割り込むネットブック。特にCF-Rxシリーズと比べると、見た目は大して変わらない大きさの製品が半額以下で売られている…という状態で、これは大きな脅威です。実際に、ネットブックのあおりを受けて、CF-R8の店頭価格もかなり下がっているそうですね。
個人的には、今大安売りされているあのパソコンたちが「ウルトラモバイル」なんて肩書きをつけて売られているのは、「不当な広告」として訴えたくなるくらいの気分です。本当に「モバイル」しようとすれば、バッテリーでの動作時間は全然足りませんし、筐体の作りもあまり頑丈ではなく、持ち運びには不安を感じます。
触ってみれば、レッツノートやThinkPad、DynaBookなどの従来のモバイルノートとの違いはすぐわかります。彼らとの10万円以上の価格差も納得できるはずです。実際に、店頭で手にとって比べてみた結果、これら「高級」モバイルノートを買っていく方も結構いらっしゃるようですね。
NECや東芝といった日本のトップメーカーたちもネットブックに参入する中で、ここまで沈黙を守っていたソニーが、ひと味違う新製品を投入してきました。VAIO type Pです。
type Pは、長形3号の封筒とほぼ同じ(245mm×120mm)横長のフットプリントを持つ小型ノート。十分ブラインドタッチが可能であろう16.5mmピッチのキーボードと、1600×768ドットの超横長のディスプレイが組み合わされています。キーボードのサイズに合わせてディスプレイを新設計したのだそうですね。標準バッテリー装着時で20mmを切る薄さ、600g前後の重量。これで4.5時間動作のスタミナは、この大きさにしてはがんばっています。
ワンセグチューナーやFOMAハイスピード対応の無線WANモジュールが内蔵できる一方で、有線LANや外部ディスプレイの接続はオプション。SDメモリーカードが直に読めるスロットは持っているものの、PCカードやExpressカードのスロットはなし…という仕様は、思いっきりパーソナル向けに振られていると感じます。外出先でブログを更新したり、SNSへ書き込みをしたり…という用途にはジャストフィットの製品ではないでしょうか。
実際に現物を触ってみないとわからない部分もありますが、私にとっても「欲しい!」と思わせてくれる製品ではあります。レッツノートのラインナップが最近面白味に欠けるのと比べると、なおさら魅力的に見えてきます。
type Pの広告を見ると、これまでにはなかった「ポケットスタイルPC」という表現とともに、ネットブックたちと同じ「ウルトラモバイル」という言い回しも見られます。ネットブックたちを意識しつつ、同じ土俵に引き上げておいてから突き落としている…とでも言えばよいのでしょうか。「あなたとは違うんです」とでも言いたげな(笑)ソニーの主張を感じます。
仕様書を見ていくと、VAIO type Pに使われているCPUは、名称こそネットブックたちと同じAtomプロセッサですが、さらに省電力、小型の製品が作れるZシリーズ。外見を見れば既に明らかなんですが、こんなところからも、そもそもコンセプトが全然違うんだ!という声が聞こえてきます。
ただ、ネットブックとの違いをどんなにアピールしても、価格だけは強気一辺倒とは行けなかったようですね。Sony styleのネット直販モデルなら最小構成で7万円台から。標準的な構成だと10万円前後になります。他に例のない形の液晶ディスプレイをはじめとして、カスタム部品がかなり多いでしょうから、ソニーとしてはこんなに安く売りたくないはずです。これはもう「戦略価格」ではないでしょうか。逆に私たちの側から見れば、こんなに安く買えるなら相当お買い得です。
ところで、Atom Zシリーズといえば、ウィルコムが販売している手のひらサイズのWindows Vistaケータイ・WILLCOM D4と同じCPUです。WILLCOM D4のハードウェアを作っているのはシャープ。現在の日本で、こうして何かしら「とんがった」製品を世に出してくれるだけの力が残っているのは、もはやこの2社だけなんでしょうか。
VAIO type Pを見て、私は新しさよりも懐かしさを感じました。我が家には、これとほぼ同じサイズのモバイルガジェットが転がっているんです。それは、NECのモバイルギアII。文字入力にこだわったキーボードと超横長のプロポーションは、実にそっくりです。10年以上前には既にあったスタイルなんですね。
もっとも、その中に納められた機能は全然違います。モバイルギアシリーズの方が、「文字入力のためのデバイス」という割り切りが徹底していました…というよりも、当時の技術の中では割り切らざるを得なかったのでしょうけど。2002年には製造終了となっていますが、そのコンセプトに共感するコアなファンたちは今もなお数多くいます。
type Pが現代のモバイルギアになれるのか?…ハードウェアの性能では素質十分、あとはそれを使いこなす人たち次第かな?と思っています。モバイルギアに対する弱点になるであろうバッテリーでの動作時間、動作の機敏さ(まだ実際に触れていないので断言してはいけませんが、Windows Vistaで俊敏に動くとはとても思えません)あたりが、ヘビーなモバイルユーザーたちにどう評価されるかが鍵になりそうですね。
ところで、この「モバギ」、残念ながら私の所有物ではありません。実は、妻の紫緒がかつて使っていたもの。ちなみに、Windows95時代に彼女が初めて買ったノートパソコンはThinkPadだったそうです。何とも硬派な趣味。私と結婚することになったのも理解できる気がします(笑)。
ところで、以前から気になっているのが、レッツノートのパナソニックがネットブックに対してどういう対応を見せるのか?ということ。これだけいろいろな展開が起きている中で、あれだけのモノを作れる底力のあるメーカーが、「あれは別ジャンルだから」と高みの見物を決め込んでいるのでは寂しすぎます。
「ビジネスモバイル」を標榜して現在の地位を築いたレッツノート。ワイド液晶の導入にすら最近まで及び腰だったくらいですから、type Pほどの「ぶっ飛んだ」モデルの登場は望めないかも知れませんが、彼らの考えるモバイルノートの、さらに一歩進んだ形を見せてくれれば、ネットブックの間に埋もれることはないはずです。
ネットブック勢に押されての捨て台詞ではなく、胸を張って「あなたとは違うんです」と言う声を聞きたいものです。…もっとも、あまりにビジネスに徹したキープコンセプトだと、私が買い換えの対象に選ぶかどうかは不透明になってきますけどね。
コメントを残す