ローマで水泳の世界選手権が開かれています。水泳競技は、昔から日本人選手が国際大会で活躍している分野ですから、いつも結構楽しみにしています。ただ、振り返ってみると、今回はテレビでは全然観戦していませんね。テレビ朝日が力を入れて中継をしているはずなんですが…。決勝レースが深夜から早朝になってしまうのが辛いところです。
金曜日・7月31日に行われた、男子200メートル背泳ぎの決勝では、入江陵介選手が1分52秒51の日本新記録で銀メダルを獲得しました。まだ19歳、初の世界選手権出場…と、これからも期待される選手ですが、今回彼に集まっていた注目はそれだけではありませんでした。彼にとっては、「彼自身の泳ぎ」の実力を証明しなくてはならない舞台だったんです。
2008年に入ったあたりから、スピード社の作った新型の水着・レーザーレーサーを着た選手たちが、次々に世界記録を塗り替える活躍を見せるようになりました。表面に貼り付けられたポリウレタン製のシートが体を締め付けて、水の抵抗を軽減するのだそうで、これまでの水着とは全く違う着想で作られています。
日本水泳連盟では、スピード社とは契約をしておらず、選手には試合でのレーザーレーサーの着用を認めていませんでした。しかし、北京でのオリンピック大会が迫っている中で、これに対抗できるような水着の開発も間に合わず、「オリンピックで勝つためにはレーザーレーサーを着なくては」というムードが高まり、水着が話題の主役となりました。
北島康介選手が「泳ぐのは僕だ」Tシャツを着て大会に登場し、さらに物議を醸したりもしたこの騒動ですが、結局日本水連は北京オリンピックでの水着着用を「自由化」。レーザー・レーサーを着た選手たちが活躍しました。北島選手もアテネ大会に続いて2個の金メダルを獲得しましたね。
オリンピック終了後には、他の各社からも新型の水着が登場し、競泳の世界は「水着の性能競争」の様相を呈してきました。そんな中で、入江選手は5月に行われた国際大会で当時男子200メートル背泳ぎの世界新記録となる1分52秒86をマークして、一躍注目を浴びることになります。
しかし、水着にばかり注目が集まる状況に、今度は国際水泳連盟が待ったをかけます。水着に関する基準を見直すことにして、これに合わせてこれまでに作られた世界新記録の認定も保留したんです。入江選手の出した世界新は、水着が認可されず、公認されませんでした。
入江選手は、世界選手権では「幻の世界新」を上回る泳ぎで彼自身の実力を証明してくれたと思います。今度は、表彰台の一番上に立てるような、勝負にもこだわった泳ぎを見せてくれることを期待しましょう。3年後、2012年に開催されるロンドンオリンピックの頃は、順調に行けばまだ彼らの時代のはずです。
国際水連は、来年1月から適用する新しい水着の基準を発表しています。「素材は織物のみ」とされ、レーザーレーサーのような水着は使えなくなります。また、体を覆える範囲も決められ、全身を包んだボディースーツのような水着も使えないことになります。
この新しい基準で、最近の水着を巡る問題を沈静化させるある程度の効果はあると思います。しかし、それは一時的なものになるのではないでしょうか。ちょっと条件を絞りすぎた気もしないではありませんが、それでもこの制約の中でまた人々を驚かせるような新しい水着が出てくるかも知れません。水泳競技に限らず様々なスポーツで、服装や道具の進化が記録の向上に結びついた例はいろいろとあります。それを過剰に縛ってはいけないような気がしますね。
それに、どんなに道具が進化しても、結局一番大事なのは競技者です。元々高い能力を持つ人たちに、最後の一押しをしてくれるのが道具ではないかと思います。泳ぐのは水着ではありません。究極的には人間同士の戦いだからこそ燃えるんです。新型の水着だって、開発をしているのはやっぱり人間である訳ですしね。
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