昨日・12月12日に、浜松フロイデ合唱団のベートーヴェン「第九」演奏会が開かれました。会場は今年もアクトシティ浜松の大ホール。2,000人以上が入れる客席が、今年も前売りの段階でほぼ完売だったそうです。団員の皆さんの地道な宣伝活動のたまものであることは知っていますが、もう30年近く連続で、浜松で第九の演奏会を続けているわけで、知名度もそれなりに上がっている気がします。
私も、去年に続いて妻の紫緒と一緒に演奏会に足を運びました。残念ながら、まだ娘は留守番です。今回は、いつものように演奏会のお手伝いをするのには日程的に間に合わなかったので、開場時間の午後2時15分を過ぎてようやく会場に入りました。お手伝いなしの、完全に「お客様」の立場は初めてになります。
ホールの入り口では、ボランティアの皆さんがチケットの半券を切っています。かつて一緒に歌った方々、歌ったことはなくても一緒に演奏会のお手伝いをした方々…よく知っている顔ばかりです。一人一人に「こんにちは」「お久しぶりです~」などなど声をかけながら、演奏会プログラムを受け取ってホールに入ります。
そういえば、以前ボランティアで来たときに、プログラムで緊急事態が発生したことがありました。団員時代のこともそうなんですが、大変な思いをしたときほどよく覚えているものです。
ちなみに、この演奏会プログラムは、以前私が団員として編集を担当していたときに作った、A5判のスタイルがそのまま残っています。以前はB5判やA4判で作られていましたが、東京のコンサートではA5判で作っている…という話を聞いて、団員の皆さんで話し合って決めました。女性の小さな鞄にも収まってくれるのが良いところ。挟まっているチラシもA4判が多いので、半分に折るとちょうど収まります。
自分たちの座席を確認してから、ドリンクコーナーに向かいました。コーヒーやジュースだけでなく、何とシャンパンも飲めてしまう、観客たちが一服できる空間です。サンドイッチやアイスクリーム、ケーキなど食べるものも用意されています。
私たちは、ホットコーヒーで一服。このあと2時間近く続く演奏会に備えました。少々強行日程で疲れが溜まっている気がしたので、途中で寝てしまわないように…ということもありました。もっとも、これは杞憂に終わったんですけどね。
同じ「第九」を演奏していても、毎年いろいろな要素が絡み合って違ったものが聴ける…というのが、演奏会に足を運んで聴く醍醐味だと思っています。今年は、演奏会に来る前に、一つ気になる情報をもらっていました。それは、楽譜のこと。今年の演奏会では、浜松フロイデ合唱団としては初めて、「新ブライトコプフ版」の楽譜を使ったんです。
第九の楽譜にはいくつかの異なる記述をされた版が出ていることは、以前私もちょっとマニアックな記事で紹介しています。一世紀以上使われてきた老舗の伝統的な楽譜であるブライトコプフ版、新しい研究成果を反映したベーレンライター版…という紹介をしましたが、ブライトコプフ社が彼らの研究成果を元に2005年に出版したのが、この「新」ブライトコプフ版。老舗の逆襲です。
第1楽章が始まって3分もしないうちに、「あれ?何か違う」と感じました。合唱団の方からは、「合唱は旧ブライトコプフ版とあまり変わらないみたい」と聞いてはいましたが、どうやらオーケストラにとってはかなりいろいろな部分が異なっているようです。その後も、所々でこれまでに聞き慣れた音とは何か違う!と気付いた箇所がありました。譜面とにらめっこしているわけでなくても、完全に暗譜しているわけでなくても、ちゃんとわかるものです。
もっとも、楽譜の版の違いと同じくらいか、むしろそれ以上に違いを生んでしまうのが指揮者の意図の違い。今年の指揮者・岩村力氏は、力強い表現を前面に出した指揮で、1時間強の演奏を駆け抜けました。もうちょっとクラシックらしい強弱のメリハリがあってもいいのかも知れませんが、これはこれで聴いていて楽しかったですね。合唱の皆さんも楽しそうでした。
岩村氏のプロフィールを見ると、とても指揮者とは思えない、とんでもない一文があります。冒頭にあるのが、「早稲田大学理工学部電子通信学科」の文字。彼は、ここを卒業した後で、ちゃんと(?)桐朋学園大学音楽学部演奏学科も出ています。
「音楽を組み立てるのが大好きな理系大学出身者」であることでは私も同じなんですが…と、同じ土俵に載せたら皆さんからお叱りを受けそうですね。でも、音楽と理系的思考は結構近いところにあるものだと思っています。音楽というのは、芸術とはいえ結構理詰めで作られているんですよね。そこを理解した上で、どう組み立てるか、逆にあえてどう崩していくのか…というのがおもしろいところです。
合唱団として演奏に参加していたら、できればお話をしてみたかったですね。エネルギッシュな指揮のスタイルといい、何だか自分に近いニオイ…クオリティはともかくとして…を感じました。
演奏が終わった後は、出演者の通用口前に詰めかけて、団員の皆さんの「出待ち」をしました。同じことを考えていた元団員の皆さんとも顔を合わせることになりました。今年も恒例の同窓会です。次々に出てくる皆さんは、一様に達成感に満ちた爽快な顔をしていました。久々に見る顔ばかりで、もちろんとても嬉しかったんですが、一方であのステージに立てた皆さんがうらやましかったですね。
団員の皆さんからも、「いつ戻ってくるの?」という言葉をいくつももらいました。「なるべく早く」とだけ応えて苦笑いするしかありませんでした。一緒に歌える環境に戻れさえすれば、すぐにでも復帰したいのですが、それがいつになるのかは、残念ながら今のところは全くわかりません。今はそのときを楽しみに待ちつつ、いろんな感覚が麻痺しないように頭と体を動かし続けて、その日に備えましょう。
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