梅雨も明けて猛暑が続くある日のこと、仕事中の私のところに妻の紫緒から携帯電話のメールが届きました。タイトルは「私のパソコン」。電源スイッチを押して起動しても、「カチンカチンと音がしてすぐ止まってしまう」と書かれていました。もちろん、これではまともに使えません。
ともかく、さらに症状を聞いてみました。電源スイッチが反応しなかったり、電源が入ってもすぐにその音がしてシャットダウンしてしまったり…という状態のようです。音はある程度の間隔を置いて聞こえているのだとか。また、起動時の画面もいつもと何だか違う、という話もありました。
パソコン整備士の端くれとしては、電話やメールだけである程度症状をつかむのは重要なスキルだと思うのですが、仕事中にそれに集中してしまうのも大問題です。ともかく、帰りの電車の中でちょっと原因を考えてみました。
もちろん、最大のポイントは発生している音なんですが、パソコン本体から聞こえてくる「カチンカチン」はそれほど多くありません。さしあたり思い当たるのは、ハードディスクが機械として壊れてしまったときのあの嫌な音、あとは電源系統でリレーの動作する音くらいです。
紫緒の使っているパソコンは、かつて私のパーツのお下がりで組み立てたPentium 4機。万が一この音の発生源がマザーボードの電源ブロックだったりしたら、今さら置き換えられるパーツも売っていませんし、総取っ替えするしかなくなってしまいます。そうなったら、エアコンを買ったばかりで、さらに今出費するのはちょっとキツいなぁ…と思いつつ、電車に揺られていました。
帰宅してから、早速紫緒PCの診断をしてみました。確かに、起動中にエラーメッセージが出ています。見ると、環境設定が初期化されている旨のメッセージです。かなり古いマザーボードですから、内蔵時計などに使うリチウムボタン電池(CR2032)が消耗していることも考えられます。とりあえず交換してみることにしました。もしかすると、電源が途中で強制的に切られてしまうのも、設定の不整合が起きているせいかもしれません。
音については、自分で聞いてみたところ、ハードディスクの障害とは異質のものだとわかりました。これはリレーが立てている音です。となると、やっぱり大本命なのは電源周りの不具合ということになるんですが、この日はちょっと帰宅が遅くなり、そこまで検証する時間が無くなってしまいました。電池を用意した上で明日に仕切り直し…ということにしました。
翌日、ボタン電池を入れ替えて再起動し、BIOS設定を初期化してみましたが、やっぱり電源は入らなかったり、途中で切れたり…でした。試しに、正常に動作している私の自作デスクトップの電源を取り外し、紫緒PCにつないで起動してみると、見事に起動に成功。これで、原因が電源にあることがほぼ確実になりました。
電源は、主に熱によるストレスが原因で、パソコンの部品の中ではもっとも劣化が早いものの一つです。夏になるとトラブルが発生するのは宿命なのかも知れません。
ここで、シンプルに交換用のATX電源を買ってきて取り付ければそれで終わりなんですが、話はそう単純ではありません。以前から、紫緒のパソコンについては更新したいと思っていました。特に気になっていたのは電力あたりのパフォーマンスの低さ。現在でも能力的には十分だと思うんですが、あまりにも電気食いなんです。
紫緒からは「小さくてオシャレなのがいい」という要望を受けていますから、Mini-ITX規格のマザーボードを使うキューブ型のケースが視野に入ってきますが、この場合、今ATX電源を買ってしまうと新しいパソコンに使い回しが利かない可能性が高くなります。それも何だかもったいないので、この際だから更新を検討してみようと思ったわけです。
この形態でとにかく低消費電力に…ということなら、ネットブックにも使われているAtomをCPUに使った製品がありますが、彼女は写真画像を編集したり、3次元CGのソフトを使ったりもするので、そこそこのパワーは必要になります。今後数年は使っていくことも考えるとAtomでは不安です。私がパソコン整備士として最新のプラットフォームに触れておく…という意味でも、現在なら最低でもCore i3あたりを使っておきたいところです。
今持っているパーツを流用しつつCore i3を使うなら、最低限必要なのはCPU、LGA1156でビデオ機能内蔵のCPUに対応したマザーボード、DDR3のRAM、あとはやっぱり電源(ケースに付属するのか、それともACアダプタになるのか)…となりますが、先にも触れたとおりエアコンを買ってしまった直後で、これだけのものを買えるだけの経済的余裕は、我が家には残念ながらありません。今回は、涙を飲んで電源のみの交換で急場をしのぐことにしました。
結局、市内のパソコンショップで、サイズの「ストロンガープラグイン」SPSN-060Pを買ってきました。壊れてしまった電源の容量である560Wに近い出力で、必要な線だけを接続できるプラグイン仕様のもの…という基準で選んでみました。140mmの巨大なファンも目を引きますが、もう一つ面白いのはケースファンを2個接続できるようになっていること。内蔵のファンと同期して回転数が制御されるようになっています。
サイズと言えば、電化製品のPOSデータの集計を発表しているBCNランキングで、PC電源部門の最優秀賞を2007年から4年連続で受賞しているブランドです。BCN AWARDは製品の品質を評価しているわけではなく、基準になるのは売り上げなんですが、よく売れている製品には何かしら理由があります。大衆の選択というのは侮れません。
サイズの製品ラインナップを見ると、価格重視のものから高級品まで、幅広いニーズに応えるバリエーションを揃えていて、これが受賞のポイントのような気がします。SPSN-060Pの場合は、600Wで7,000円台という安さの割にはきっちりとした作りで、付加機能もあり、コストパフォーマンスの高さが魅力になります。
紫緒のパソコンには動作チェック用につないだ電源をそのまま収めて、SPSN-060Pは私のパソコンに取り付けることにしました。いずれにしても、これは紫緒のパソコンを新調するまでのショートリリーフだと思っていますからね。そのときには、2台の電源のどちらかが予備となるわけです。
もちろん、動作には全然問題なし。ケースファンの回転数制御もしっかり機能しているようです。もっとも、もともとファンの回転音は耳を近づけてみないとわからないくらい静かなんですけどね。しかも、最近はあまりパソコンに高負荷をかける仕事がなく、回転数が上がることは日常作業ではほとんどありませんし。
電源の更新ということで、もう大昔から懸案となっているS3スタンバイからの復帰で状況が変わるかも?と思ったんですが、残念ながらこちらの方も現状のまま。やっぱりS3スタンバイからは復帰できません。ほとんどあきらめモードです。いつの日かプラットフォームを入れ替えるときまでは、このまま行くしかなさそうです。
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