携帯電話各社から、この冬から春にかけての新しい製品ラインナップが発表されています。現在注目されているのがスマートフォンの展開。各社とも数多くの新機種を投入し、なかなか賑やかな新製品発表が行われていたようです。
そもそも、スマートフォン(smartphone)というのは直訳すれば「賢い電話」。本来は通話するための道具であった電話の枠を超えて、データ通信を活用したネットワーク機能、コンピューターとしての高度な情報処理機能を備えたことを指して「賢い」と形容したのが本来の意味で、この意味で言えば、日本で今販売されている携帯電話のほとんどは「スマート」フォンと言えないこともありません。
しかし、ここでいうスマートフォンはもうちょっと狭い意味で使われています。iPhoneに搭載されているApple社のiOS、あるいはGoogle社のAndroidやMicrosoft社のWindows Mobileなど、ソフトウェア開発がオープンにされたOSを装備し、ユーザーがソフトウェアを選択してインストールすることで、多様に機能を拡張できる情報端末のことを指しているのが普通です。
狭義のスマートフォン自体も、歴史自体は意外に古いもので、私も既にW-ZERO3シリーズでスマートフォンには触れています。当時はあくまでもキワモノ的存在だったことを考えると、スマートフォンもずいぶん出世したものです。各社とも、将来的にはスマートフォンが従来の携帯電話のシェアを奪い、さらには多数派を占めて主流になっていく存在であると考えているようです。
狭義のスマートフォンに対して、これまで日本で販売されてきた多機能な携帯電話を指して「ガラパゴスケータイ」という表現がしばしば使われるようになりました。「ガラパゴス」というのは、皆さんもご存じ、南太平洋に浮かぶガラパゴス諸島が語源で、周囲の環境から隔離されて独自の生態系が形作られたガラパゴス諸島のように、日本独自の規格の中で携帯電話の機能が高度化してきたことを指しています。
機能や性能自体は、海外から入ってきているスマートフォンと遜色ないはずなんですが、日本独自の規格であるために、日本のメーカー各社は国内向けの開発でエネルギーを使い切ってしまい、グローバルな競争をするだけの余力がなくなった…とも言われます。既に飽和状態と言って良い日本の携帯電話市場で、限られたパイを奪い合いながら、各社とも苦しい戦いを続けてきました。近年は開発部門を統合するなど市場再編もずいぶん進んできました。「2年縛り」が一般的になり、機種をどんどん乗り換える動きが鈍ったことも悪影響を与えたような気がします。
確かに、スマートフォンは今でも海外メーカーの製品が主であり、ようやくこの冬・春モデルあたりから国内各社の製品が出始めました。来年には、まだ製品が出ていないNECやパナソニックなども含めほぼ出そろいそうです。各社ともスマートフォンへの対応は以前から考えていたのでしょうけど、高度な電子機器の開発が一朝一夕に完了できるわけでもありませんから、仕方ないところです。もちろん、そんな中でシャープの展開が迅速なのは、W-ZERO3シリーズからの蓄積があったからこそなのでしょう。今回は目の付け所のシャープさが実りました。
日本独自の規格であることは悪であり、すぐにグローバルな流れに乗らなくては…というような論調もときどき見られますが、話はそう簡単ではありません。そもそも、日本で携帯電話向けのインターネット接続サービスが始まったのはNTTドコモのiモードが最初です。これは世界初のサービスでもあり、始まったのはまだ前世紀の1999年2月22日のこと。もう10年を超える歴史があります。
小さな携帯電話に使えるような省電力プロセッサの能力が乏しかった当時、インターネットを携帯電話端末で利用するためには相当絞り込んだ仕様で運用するしかなかったはずで、前例がなかった以上、それが「独自の規格」になるのは当然のことでした。その後、端末の高性能化が進む中で、iモードの仕様自体も徐々にグレードアップはしてきたものの、10年前からのユーザーのことを簡単に切り捨てるわけにも行きません。基本的には互換性を保ちながらやって来ました。auも、ソフトバンクも、基本的には同じ事情を抱えているはずです。
また、独自規格であったからこそ、多様なサービスを提供することができた面もあるはずです。おサイフケータイやワンセグなどは、そもそも日本生まれの規格で、端末自体が国内向けだったからこそ、大々的に導入が進んだのではないかと思っています。また、iチャネルやiコンシェルのようなプッシュ型のサービスは、通常のインターネットの枠組みだけでも、RSSなどで似たようなことは実現できるのかも知れませんが、iコンシェルのように高度にパーソナル化しようとすると、もう一段進んだ仕掛けが必要になりそうです。
携帯電話にパソコン向けのサイトも表示できるフルブラウザが搭載され、さらにはスマートフォンが登場してきたわけですが、世界に先んじて日本が切り開いてきたモバイルインターネット利用の歴史には重みがあります。海外でも国内と同じ携帯電話を使いたい…というニーズは増えていて、グローバルに使えることも重要にはなってきましたが、多くの海外には出かけない利用者にとっては、国内で熟成され、安定した高度なサービスが受けられることはメリットのはずです。
これまでのスマートフォンに対する各社の対応を振り返ってみると、各社の置かれていた立場が見えてきて面白いですね。そもそもキワモノで勝負せざるを得なかったウィルコムは別として、一番大胆に導入を進めてきたのはソフトバンクでしょうけど、これは他社に先んじてiPhoneの国内販売権を得るなど、ひとえに孫正義氏の経営のパワフルさに起因していると言えそうです。もっとも、国内シェアは3位で、守らなくてはならないガラパゴス的部分はそれほど多くない…と考えていた節もあります。
昨年まで、最もスマートフォンへの対応に消極的に見えたのはauでした。従来のケータイで顧客満足度が最も高いと言われていた中で、当たるかどうかわからないスマートフォンにエネルギーを割く余裕がなかったのかな?と思っていました。もっとも、スマートフォンへの流れが見えてきた今年になって、一転してスマートフォン重視の流れを鮮明にしたわけなんですが、いずれにしても、全方位作戦をとれるほどの体力はない!という自己分析があったのかも知れません。
その全方位作戦をとれるだけの体力があるのがNTTドコモ。そして、簡単には捨てられないガラパゴスケータイの資産を最も多く抱えているのもこの会社です。2010冬~2011春の新製品ラインナップで、多くのスマートフォンとともに従来型のケータイを数多く用意しています。iモード向けの新サービスも登場しています。いくらスマートフォンが大ブームになったとしても、利用者の比率を考えると、主流になるのはまだまだ先…という考えのようですね。
これから、各社ともスマートフォンの割合を拡大していこうと考えているようですが、一つポイントになるのは、「ガラパゴス」時代のサービスをどれだけ取り込めるかでしょう。せっかくの高機能なスマートフォンなのに、従来のケータイから乗り換えたら不便になってしまったのでは話になりません。
おサイフケータイやワンセグ受信機能など、ハードウェアでの対応が必要な機能がありますが、これらについては既に対応が進められていて、心配なさそうです。しかし、これよりも難しいのが、従来から提供している情報サービスをどう移植していくのか。初期はメールアドレスの利用すらできなかったほどですから、意外にハードルの高い話のようです。個人的には、NTTドコモがiコンシェルのサービスをスマートフォンにどう実装できるかに注目しています。便利なサービスですからね。
もっとも、スマートフォンの時代になると、通信会社の枠に縛られずに多様なソフトウェアが使えるようになるはずですから、大事になるのは提供されているサービスよりも、通信そのものの品質になるような気もします。そうなったときに、どこに有利に働くのでしょうか?少なくとも、ソフトバンクにはかなり不利になりそうな気がしています。
現在使っているケータイ・F-03Bを購入してからもうすぐ1年になります。「2年縛り」がありますから、早くとも機種変更はまだ1年後ですが、そのときにいったいどんな状況になっているのか。全く先が読めません。
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