9月11日に、アップル社からiPhone 5sとiPhone 5c、2つの新製品が発表されました。近年、新しいiPhoneの登場はこの時期の風物詩になりつつあります。
私は、昨年の発表のときはNTTドコモユーザーでしたから、iPhoneの発表とそれに伴うフィーバーは、まさに対岸の火事でした。しかし、今年は一転して「身内の問題」として意識せざるを得なくなっています。
ソフトバンクユーザーになったとはいえ、私自身はiPhoneは使っていないのですが、妻が現在使っているiPhone 5がどんな位置づけになっていくのかは押さえておかなくてはなりません。それに、ユーザー数の増加をiPhoneに大きく依存してきたソフトバンクモバイルでは、アップル社がiPhoneをどうするかによって同社の全体戦略も大きく左右されます。


iPhone 5sは、iPhone 5とほぼ同じデザインの筐体の中に、新型の「A7」CPUと指紋認証用のセンサーを搭載したスペックアップモデル。筐体色に、従来の黒(スペースグレイ)、白(シルバー)に加えてゴールドのモデルが加わったのも話題になっています。
A7プロセッサは、スマートフォン用としては初めての64bit CPUなのだそうです。アップルが世界初のスペックをセールスポイントにすること自体に強烈な違和感を覚えるわけですが、そもそも64bit化が今のスマートフォンにどんなプラス要素をもたらすのか大いに疑問です。
ヘビーな処理はクラウドで…という流れになっている現在、スマートフォンに64bit化が必要なほどの高負荷をかけたり、巨大なデータを直接処理したりするような場面が出てくるとはとても思えません。今回、OSは最新版のiOS 7が導入されますが、OS自身もアプリも64bit版と従来機種用の32bit版を用意しなくてはならないはずで、それだけでも負担になりそうです。
メリットがあるとすれば、既に64bitに移行しているPC環境であるMacOS Xとの整合が取りやすくなるかも知れないこと。もしかすると、今回の64bit化は、iOSとMacOSとの統合への布石なのかも知れません。もっとも、同じ64bitだとしても内部アーキテクチャーはおそらく全くの別物。簡単に統合できるものではないでしょうね。


一方のiPhone 5cは、廉価版という位置づけになっているようですが、スペック的にはiPhone 5とほぼ同等。筐体はプラスチック製の新デザインで、5色カラーを展開するのが特徴となります。このiPhone 5cにもiOS 7がプリインストールされます。妻のiPhone 5でOSをiOS 7にアップデートしても、重すぎることはなく快適に使えそうだ…と推測できます。
iOS 7は、従来と外観の大きく変わったユーザーインターフェースが特徴の一つとされていますが、今さらフラットデザインと言われても、Androidは以前からそうでした(初期のAndroid機ではその程度しか出来なかった…ということもあるのでしょうけど)。追加されたという新機能の中にも、「Androidにはできるのに」と言われてきた部分を改善したものが結構あります。64bit化はともかく、iOS 7の基本は弱点をつぶす手堅いバージョンアップと言えそうです。
手堅さと言えば、今回の2機種展開も、より幅広いユーザーの声に応えようとする、至極まっとうな方法と言えます。しかし、まっとうなのは「アップルらしくない」と言われてしまいがちなんですよね。どうも、私たちは未だに故スティーブ・ジョブズ氏の幻影を追い続けて、「One More Thing」をねだってしまうようです。それがなくなってしまうのは寂しいんですが、アップルが世界をモノカルチャーにしてしまわないための一勢力として生き残ることの方が大事です。せめてときどきは、派手な花火をぶち上げてほしいものですね。


今回のシリーズから、従来のソフトバンクモバイル、auに加えてNTTドコモでも取り扱いが始まるのはトピックの一つ。しかし、正直なところ驚きはありませんでした。事前に各方面で大きく報道されたことはもちろんあるわけですが、それ以前からNTTドコモのiPhone取り扱いに向けた兆候はいろいろありました。
以前から、iPhoneについては「取り扱う気がないわけではないが条件が折り合わない」というNTTドコモのコメントは一貫していましたが、今年に入ったあたりから微妙にニュアンスが変わってきたのを感じていました。今回販売するに至ったのは、これまで引っかかっていた何らかの条件が折り合ったということなのでしょう。
iPhoneを取り扱わないのが、NTTドコモのMNPでの流出が続いている原因だ…という論調はよく見られますが、それでも圧倒的なトップシェアを持っていることには変わりありません。さんざん取り沙汰されながらもこれまでiPhoneを受け入れなかったのは、自分たちの条件を譲ってまで受け入れなくてはならないほど切羽詰まっていなかった…ということだと思っています。
むしろアップル社の方が、iPhoneの販売拡大はNTTドコモ抜きでは困難…という点で煮詰まっていて、今回はアップル社側が譲った面が結構あるのではないでしょうか。そのことは、NTTドコモでアナウンスされている、iPhoneで利用できる予定のサービスを見るとうかがい知れます。サービスの開始は少々遅れるものもありますが、思っていたよりも遙かに多くのサービスがiPhone向けにも提供されます。例えばiコンシェルもドコモドライブネットも対象です。ずいぶん前からこの日に向けて周到に準備を進めてきたのでしょう。
NTTドコモが慌てていないことのもう一つの証明と言えそうなのが価格設定。購入価格、月々の料金共に結局3社ほぼ横並びで、価格戦略上でNTTドコモの強みとなるかも知れない「Xiパケ・ホーダイライト」は、iPhone向けには用意しませんでした。基本的に、iPhoneは「片手間」で取り扱う気のようです。それでも、他社への流出を食い止めるには十分…ということなのでしょうか。


そのNTTドコモ参入にも関連しますが、今回私が気にしていたことは、新しいiPhoneがどんな通信方式、どの周波数帯に対応するのか。今年に入って、iPhoneがNTTドコモしか使っていない周波数帯の通信に対応したとの報道があり、「ドコモ参入か?」とIT系のWebメディアが色めき立ったことがありました。
iPhone 5s/5cは、800~900MHz帯でのLTEによる通信に対応します。この帯域は国内主要3社が全て使える帯域で、特にAndroid機向けに800MHz帯を主力にLTEのエリアを拡大してきたauが、今回のiPhone三つどもえの戦いでは有利になるのでは?という話になっています。一方、900MHz帯でのLTEの提供は来年度になるソフトバンクは、今回は苦戦を強いられると言われています。
各社通信インフラが「土管化」しやすいiPhoneでは、通信環境こそが最重要ポイントで、額面上は確かにその通りなんですが、実際には3GもLTEもそんな理想的な最高速で通信が行えることはまずありません。自分のよく使う環境を研究した上で、一番有利なパターンを選ぶしかないのでしょう。
この点、実は私がホッとしているのは、今回の新iPhoneではTD-LTEにも対応しているものの、SoftBank 4Gの使っている周波数帯には対応しなかったこと。私たちソフトバンクのAndroid機ユーザーは、当面はiPhoneユーザーたちがなだれ込んでくることもなく、スイスイとSoftBank 4Gの超高速通信環境を享受できそうです。一方で、iPhoneの参加が当面は期待できないAXGPをソフトバンクがどう取り扱うのか、不安もありますけどね。


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