前人未踏。

日本プロ野球では、この週末から、日本シリーズに出場するチームを決めるためのクライマックスシリーズ(CS)が始まっています。私は大嫌いなシステムですが、ルールですから各チームには是非とも頑張って欲しいものです。セ・リーグでは、リーグ3位で初のCS出場となる広島東洋カープが阪神タイガースを2連勝で下し、ファイナルステージへの進出を決めました。「史上最大の下克上」と呼ばれた2010年の千葉ロッテマリーンズに似た雰囲気があります。かなり不気味です。
しかし、CSの裏で、パ・リーグでは何とまだリーグ戦の試合が続いていました。まだ消化できていなかった残り2試合は、リーグ優勝を決めた東北楽天ゴールデンイーグルスと、CSに出場できないことが決まっていたオリックスバファローズとの対戦ですから、確かにここに組み込もうと思えば組み込めます。しかし、いくら何でもこれでは真剣勝負をしている2チームに失礼ですよね。本来なら、ダブルヘッダーを組んででも先に終わらせておくべきです。
ただ、この2試合は当事者たちにとっては全く別の意味を持ちます。毎年、リーグ戦が終了してからCSファイナルステージまでの日程が空いてしまい、リーグ優勝チームが試合勘を取り戻すのに意外に苦労するのをよく見てきました。しかし、今年のイーグルスはこの期間中に試合感覚を維持できる格好の機会をもらっていることになります。下位チームがイーグルスを倒してCSで「下克上」を見せるのは、かなり難しくなるのではないでしょうか。


リーグ戦が終わり、個人成績の方も確定しました。今年は、タイトル争いと言うよりも、両リーグで前人未到のプロ野球記録への挑戦に注目が集まりましたね。
セ・リーグでは、東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティン選手が、シーズン本塁打数の日本記録を更新しました。この部門では、王貞治氏が1964年に記録した「55本」という記録が強烈な存在感を持って立ちはだかり、長年これを超える記録が生まれていませんでした。
2001年には大阪近鉄バファローズのローズ選手が2002年には西武ライオンズのカブレラ選手が(球団名はいずれも当時)55本塁打で並ぶところまで行きましたが、いずれも超えられなかった…というよりは、「超えさせてもらえなかった」という方が適切な表現のような気がします。徹底的な四球責めからは「王さんの記録を超えさせてなるものか」という思いが透けてくるようで、気持ちはわからなくもないんですが、さすがにちょっとやり過ぎで、アレではスポーツとは呼べないような気がしていました。
これらと比べると、バレンティン選手の挑戦に対しては、以前と比べると他球団が幾分まともに勝負してくれた印象があります。ホームランの量産が今までにないハイペースで、さすがに全て四球で歩かせるのにも限界があったのでしょうけど、以前ほどあの55本が神聖視されなくなった…ということもあるような気がします。何しろもう50年近く前の記録です。半世紀の間に野球もいろいろと進化しているわけで、妙なしがらみで記録が塗り替えられていかないようでは、様々な可能性を潰していることになりかねません。
結局、彼は60本まで本塁打数を増やしました。半世紀の間破られなかった壁に風穴を開けたら、一気に5本も記録が伸びたわけです。来シーズンからは、壁のなくなった新しい世界で本塁打王争いが始まります。実に楽しみですね。


パ・リーグのプロ野球記録と言えば、もちろんイーグルスの田中将大投手ですよね。彼の今年の戦績は28試合に登板して24勝0敗1セーブ。先発投手として休むことなく投げ続け、一つも敗戦投手になっていない…というのはとんでもないことです。規定投球回(チームの試合数以上の投球回を投げる必要があります)をクリアした投手が勝率10割となるのは史上4度目だそうですが、これに「20勝以上」、あるいは「最多勝投手」という条件のどちらを加えても史上初だそうです。
この週末の2試合、どちらかに登板すればシーズン連勝記録(もちろんこれもプロ野球記録)を25に伸ばせるだけでなく、彼にとっては現役通算100勝目になる可能性もありましたが、彼はもうCSのファイナルステージに照準を合わせているとのことで、登板はなし。100勝目は来シーズンにお預け…となるかどうかはわかりませんね。来年にはメジャーリーグに移籍するという話もありますし。
打撃部門の各成績や投手部門の防御率、奪三振数などの記録は、必ずしもそれがチームの勝利に結びつくとは限らない記録ですが、投手の勝利数は、そのものズバリ勝利に貢献したことを示す記録です。もっとも、これがチームのリーグ優勝に結びつくとは限らないのが辛いところ。現に、先にご紹介したセ・リーグの本塁打王・バレンティン選手だけでなく、最多勝の小川泰弘投手も擁するスワローズが、リーグ戦では最下位だったんですからね。
しかし、田中投手の場合は見事にチームの成績とかみ合って、球団史上初のリーグ優勝に結びつきました。彼が投げる試合では、不思議なほどに打線がかみ合って、先制された試合でも逆転できてしまうんですよね。投手も野手もそれぞれが相手を信頼して、勝利を確信しているのが伝わってきました。私も、プロ野球記録が懸かる少し前くらいから、彼の登板日のイーグルスは全く負ける気がしませんでしたね。楽天で買い物をするのに、彼の登板日を確認して待ったこともあります。勝利した翌日はポイント2倍ですからね。
先にも触れましたが、彼の日本での投球を見られるのもあと少しかも知れません。メジャーに移籍(もはや彼のレベルで「挑戦」なんて言うのは失礼です)するときには、数々の日本記録と共に「日本一」を手土産に送り出せると良いですね。間違っても最後に「史上最大の下克上2」なんて食らわないでほしいものです。そのためには、まずはセ・リーグのCSファイナルステージで、読売ジャイアンツにカープを退けるべく頑張ってもらわなくてはならないんですが…カープが勢いに乗ったような気もしますし、どうなることやら。


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