日本シリーズが終わり、一応今季の日本プロ野球の日程は終了ということになりました。しかし、全ての選手にシーズンオフがやってきたわけではありません。台湾では、8日から今日まで「侍ジャパンの国際強化試合」なるものが行われています。
「侍ジャパン」とは国際試合に出場する野球の日本代表チーム全てを指す言葉だそうで、その中で、プロが戦う野球の国際大会・WBCに出場するのが、現役プロたちで構成されたトップチームということになります。大会直前にチームを編成するのではなく、サッカーの日本代表と同じように組織として常設し、継続して強化を図っていく…という目論見らしいですね。
そもそも、オリンピックの競技種目から外されたように、野球というスポーツのグローバル性にはかなり疑問はあるわけですが、それはともかくとして、本気で国際大会で勝ちに行こうとするのならば、従来の体制よりも良いとは思います。ただ、心配なのは選手たちが本来休息できる時期にまでフル回転することで身体を痛めてしまわないか…ですが。
さて、それでもやっぱり多くのプロ野球選手たちにとってはシーズンオフが始まったわけですが、この時期になると気になるのは選手たちの他チームへの移籍がどうなるか、そして来季の年俸がどうなるのかです。特に、選手の年俸は今シーズンの成績を球団がどう評価しているかを示すと共に、選手の「格付け」という面もあります。何しろ、数字で冷酷に示されてしまうわけで、当事者たちは大変でしょうけど、私たちファンは興味津々です。
来季の年俸は、選手たちが球団経営陣と直接交渉して、ひとりひとり金額を決めていきます。この契約更改交渉は、毎年いくつものドラマを生んでいるわけですが、今年最も注目していたのは中日ドラゴンズの契約更改交渉がどうなるか、でした。来季の年俸を決めるため交渉に当たるのは、選手編成を一任されている落合博満ゼネラルマネージャー(GM)。プロフェッショナルとしての年俸へのこだわりは、日本のプロ選手の中でも随一と思われていた人です。彼の「オレ流契約更改」がどんなものになるのか…今まで通りのものになるはずがありません。
落合GMの契約更改は、まさに私の予想の斜め上に向けて突進するような出来事の連続です。まず、交渉の時期からして型破りでした。従来は、シーズンが終了するとまず戦力外の選手に通告し、若手選手から順に交渉を進め、12月の年末近くに主力選手と交渉して一区切り…というパターンで、これはドラゴンズに限らずどこでもそう変わらなかったのではないかと思います。
しかし、落合GMは契約更改を11月中に終える方針を発表。選手たちが休みに入っている12月に苦労して日程を調整するよりも、拘束期間である11月に済ませれば調整は容易で、選手たちは12月にはゆっくり休める…というわけで、言われてみれば実に合理的な話です。むしろ、何故これまでそうなっていなかったのが不思議なくらい。
しかも、報道が始まった交渉状況を見て驚くのが、主力選手が早い段階で次々に交渉の席に着いていること。もっとも、これも選手の年俸に使える予算がある程度決まっている中で、年俸が高額な主力選手の額を先に確定していけば、枠組みは決めやすくなるはずです。新戦力の補強に使える金額の目途も早くつかめます。これまた実に合理的です。
交渉内容も今までに見たことがないような展開を見せています。今シーズンは実に久しぶりのBクラスとなったドラゴンズですから、年俸が下がる選手が多くなるであろうことは、想像に難くありません。しかし、それにしても下がりようが尋常ではありませんでした。
野球協約上で定められている最大の下げ幅(年俸1億円未満は25%、1億円以上なら40%)いっぱいの選手が続出しています。それどころか、さらに大幅な減額が提示されている選手もいます。協約上は、減額制限を超える減額であっても、選手の同意があれば認められることになっていますから、契約できているのならそのこと自体には問題ありません。つまり、選手たちが大幅な減額を飲んでいるわけです。しかも、選手側が契約を保留したという話も出てきません。選手たち側に不満がないはずはないのに、どういうことになっているのでしょうか?
報道されている内容を見ると、どうも落合GMは大幅減俸と共に選手たちの心を揺さぶる言葉を掛けているようです。12球団現役最年長の山本昌投手には「50歳まで投げろ。俺が保証する」、故障から復帰を目指す吉見一起投手には「復帰がシーズン途中からでもふた桁勝つのは難しくない」、今季大きく成績を下げた大島洋平選手には「200安打で首位打者を目指せ」…。
共通するのは、選手のプライドを巧みにくすぐっていること。そんな言葉にだまされないぞ…とならず、選手たちが意気に感じてしまうのは、ひとえに落合GMが監督時代に選手たちを一貫してプロらしく扱ってきたからでしょう。特に、主力として屋台骨を支えている自覚のある選手にこそ、効いてくる言葉のはずです。
こうなると大事なのは、来シーズン以降の契約更改で、きっちりと信賞必罰が実行できるか。リーグ優勝、日本一に返り咲いたとしても、財布の大きさが極端に変わるわけではありませんから、GMには高度なバランス感覚が求められます。おそらく、来シーズン以降ドラゴンズが日本一になったときでも、落合GMは活躍していない選手には容赦なく限度額を意識した減俸を行うでしょう。そして、そうすることこそが、活躍した選手に対して年俸アップで応えられることにつながり、ひとりひとりの選手にモチベーションを維持させることになるはずです。
既成概念やしがらみ、悪弊を打ち破り、合理的に物事を進めようとする落合GMの姿勢は、ソフトバンクの孫正義社長や楽天の三木谷浩史会長兼社長とよく似たものを感じます。ただ、既成のルールは破壊してでも変革していこうとする企業トップのお二人と比べると、落合GMの行動パターンは、あくまでも決められたルールは押さえた中で、どう泳ぐことができるのか…という考えの基に立っているような気がします。
もちろん、及ぼせる影響の範囲が人によって違いますから、結果的に取れる行動が違う点を考慮に入れなくてはなりません。そう考えると、もし落合氏にコミッショナーを任せたらプロ野球界がどんな風に変革していくのかが気になります。ご本人は、「ナベツネさんが適任じゃないの?」なんてコメントしているようですが…。
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