全然ゆるくないなぁ。

私は現在電車通勤をしている関係で毎日のようにJR浜松駅近辺に行くんですが、ここ1、2ヶ月で頻繁に見かけるようになったのが「出世大名家康くん」。何でも、江戸幕府を開いた徳川家康の生まれ変わりだとかで、丸っこい風貌の愛嬌のあるキャラクターではありますが、袴の模様はピアノの鍵盤柄、頭に乗っているちょんまげはよく見てみるとウナギ。浜松をPRするのだ!という意気込みがイタいほど伝わってきます。

家康くんは、浜松市公式のマスコットキャラクターで、「はままつ福市長」という肩書きも持っています。浜松は、戦国時代に徳川家康が浜松城を築いて17年間本拠とした地で、浜松城は「出世城」の異名を持ちます。これにあやかって、浜松市は「出世の街」というプロモーション活動を展開中で、彼を広報に積極的に起用しているわけです。

浜松市の様々な施策に関する広報で、街頭に家康くんが登場するのは当然と言えば当然なのですが、それにしてもあまりにも出番が多すぎる気がしていました。しかし、これにはいろいろと事情があったようです。


現在、全国各地の「ゆるキャラ」たちの人気投票・ゆるキャラグランプリ2013が開催されています。国や地方公共団体等が、イベントや地域興しなどのために作っているマスコットキャラクターたちが、独特の雰囲気から散発的に人気を博するようになり、いつしか「ゆるキャラ」というくくりで呼ばれるようになりました。行政主導のモノだけではなく、民間企業等でこの「ゆるさ」を狙って作られたキャラクターたちも、最近はみんなひっくるめてゆるキャラと呼ばれているようです。

昨年のゆるキャラグランプリ2012で、家康くんは7位入賞と大健闘しました。しかし、当人たちとしては相当悔しい結果だったらしく、今回は何としても1位を獲りたい!とのことで、相当気合いを入れて「選挙運動」を繰り広げています。

ゆるキャラグランプリ2013は、インターネットから登録ユーザーあたり1日1回の投票が可能。というわけで、市内の各所には、家康くんへの毎日の投票を呼びかけるポスターやのぼりが大量に掲示されています。最初にお話ししたとおり、浜松駅前での街頭宣伝にも余念がありません。「本業」である市の広報キャラクターとしての活動だけでなく、そのものズバリ「投票をお願いします」と訴える姿も何度か見かけました。他にも、市内各地で街頭に立っているようです。地元企業・スズキの軽自動車のテレビCMでも、ゆるキャラたちを従えて一番目立つ場面で登場しますが、これも選挙運動と無縁ではないでしょう。ゆるキャラグランプリなのに、全然ゆるくない…どころか、ガチガチの選挙態勢です。

浜松市の気合いの入り具合を実感したお話をひとつ。先日仕事の関係で出席した会議で、浜松市役所の某課長さんが挨拶の壇上に立ったんですが、開口一番「実は、現在ゆるキャラグランプリというのが開催されておりまして…是非とも毎日1回、投票をお願いします」。配付された資料を確認すると、投票を呼びかけるチラシが同封されていました。

広報や地域興しとは全く関係ないはずの部署の課長さんです。挨拶の最後にちょっと付け加えるくらいならともかく、冒頭にこんなお話をされるのにはびっくりしました。市を挙げて取り組んでいるのはわかるんですが、それにしてもちょっと常軌を逸していないか?という違和感があったのを覚えています。


選挙活動にはいろいろとお金がかかります。浜松市が市民の税金を大量に投入して、単なる人気投票にこれだけの労力を割くというのはいかがなものか?というのが、私の持った違和感の根底にあるのだと思います。

なぜそこまでするのか?…なんですが、どうやら2011年のゆるキャラグランプリ1位・くまモンの実績が念頭にあるようです。熊本県をPRするマスコットキャラクターとして登場したくまモンは、ゆるキャラグランプリの1位獲得で全国的にゆるキャラの代表として認知され、キャラクターグッズの展開等で大きな経済効果を生み出しています。

浜松市としては、自分たちも家康くんで1位を獲得して地元の景気回復の後押しをしたい…とでも思っているのかも知れませんが、大きな勘違いがあるような気がします。くまモンが現在の地位を築けたのは、ゆるキャラグランプリを制覇したからではなく、元々のキャラクターが魅力的だったり、プロモーションの進め方が巧かったりしたからで、その結果としてゆるキャラグランプリでの実績が生まれたのではないでしょうか。

家康くんも、キャラクターとしての魅力はないわけではないはず(だからこそ昨年は全国7位だったのでしょうし)なんですが、「1位さえ取れれば」という浜松市の思い入れが前面に出すぎているように見えます。既に、週刊誌等で問題視する取り上げ方も見られます。これでぶっちぎりの首位を獲ったとしても、プラスのイメージは得られないかも知れませんし、首位を逃せば「税金の無駄遣い」との指摘を受けかねません。どちらにしても、家康くんにとってはあまり嬉しくない状況になりそうな気がします。なんだかかわいそうですね。


浜松市の他にも、今回のゆるキャラグランプリでは「組織的な選挙戦」を繰り広げている自治体がいくつか見られるそうです。役所同士の本気のぶつかり合いになれば、人口が多く財政力も強い大都市が圧倒的に有利。純粋な人気投票からはほど遠いものになってしまう危険性が高くなります。ゆるキャラグランプリというイベント自体が、存在意義を問われかねない事態になっていると感じます。

ゆるキャラグランプリの投票は11月8日まで。果たしてどんな結果になるのでしょうか。注目しておきましょう。


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