津波と向き合う町へ

昨日投稿した記事で、今日も出かけることを予告していましたが、天気はあいにくの雨。残念ながら今日は取りやめとしました。明日は天気が回復する予報。せっかく振替休日でもう1日休みがあることですし、できれば今日の予定の仕切り直しとしたいところです。

浜松まつり凧揚げ会場昨日・5月4日は、家族で浜松まつりの凧揚げ会場に出かけてきました。振り返ってみると、夜の練りには一昨年立ち会いましたが、凧揚げ会場に来たのは結婚する直前の2006年以来ですから、実に8年ぶりになります。

凧揚げ会場の熱気は、8年前から変わりませんね。あのラッパの音とかけ声を聞くと、やっぱりワクワクするものがあります。一方、6歳の娘は当然ながらここに来るのは初めて。凧揚げ会場では、ただならぬ雰囲気にやや圧倒されていたように見えました。

中田島砂丘 そんな彼女がいちばん楽しそうにしていたのは、凧揚げ会場からの帰りに中田島砂丘に立ち寄ったとき。自宅の庭では砂遊びに熱中していることが多い彼女にとって、この「でっかいすなば」はまさにパラダイス。何度も砂をすくって楽しんでいました。砂丘の砂は、我が家の砂場に入っている川砂よりもきめが細かいので、手触りの違いも楽しめたはずです。かなり好感触だったので、また連れてきましょう。


津波避難マウンド 凧揚げ会場への入口となる遠州灘海浜公園には、こんな巨大な「すり鉢」が伏せてあります。これは、浜松市が設置した「津波避難マウンド」で、今年3月に完成したばかり。浜松ではここともう1カ所が市内では初めて作られたものだそうで、張り付けてある芝生もまだマットの継ぎ目がしっかり見えます。自宅の庭に芝生を張って以来、公園などの芝生の張り方が妙に気になります。もはやビョーキです(苦笑)。

…というのはともかく、この津波避難マウンドは山頂の高さが海抜13.0メートル。山頂は、1,000人の住民が避難することを想定して、真っ平らに造成されています。山頂に登るための階段だけでなく、車いす等を押して登れるように、マウンドを1周して登るスロープも作られています。もちろん、芝生を張った斜面を直接駆け上がっても大丈夫です。

3年前の東日本大震災以来、全国各地の沿岸部で、津波避難用のタワーやマウンドが数多く作られています。鉄骨造りの無骨なタワーが多く、「住民の命を守るため」とは言いますが、地域の景観は明らかに乱し、かえって恐怖感をあおっているのでは?と感じることも少なくありません。タワーと比べると、この「丘」は広大な敷地が必要になりますが、景観面では幾分ましなような気がします。平常時から、住民の憩いの場としての活用がしやすそうですしね。


津波避難タワーと言えば、静岡県内の吉田町が、歩道橋を兼用する施設として道路をまたぐ形で設置したことが話題になっていますね。吉田町は面積約20平方km、人口約3万人の小さな町。限られた予算の中でどのような対策が打てるのかを考えて、こんなアイデアが出てきたのだと思うんですが、法律などの様々な制約がある中で、実現にまでこぎ着けるのはきっと大変だったのではないでしょうか。

タワーを建てるための土地を取得しなくて済むのが町にとっては最大の利点だそうですが、完成した写真を見ても、普通のタワーより威圧感が少ないような気がして好印象です。普段から歩道橋という日常生活に身近な施設として使われることも、タワーへの親近感が高まる意味で良いと思います。

ただ、写真を見て気になるのが、浜松のマウンドのようなスロープがなく、階段でしか登れないこと。緊急時の弱者への配慮という面だけでなく、平時の歩道橋としての使い勝手でも、ちょっと辛い気がします。


試験施工中の防潮堤凧揚げ会場から、西に向かって徒歩10分。砂丘に面した場所に、大がかりな工事現場があります。浜松まつりの期間中の5月3日~5日は、ここで静岡県が建設中の防潮堤の現場見学会が開催されていたので、せっかく来たついでに見に行ってきました。それにしても、海岸沿いに一直線に徒歩10分…というのは、精神的にかなりキツいです。妻と娘につき合わせたのは申し訳なかったですね。

防潮堤も、津波避難施設と並んで、東日本大震災後に全国各地で建設が進められている津波対策施設のひとつです。しかし、浜松で建設されているものは他とちょっと成り立ちが違います。この防潮堤は、浜松市で創業された住宅メーカーである一条工務店が、「地元に貢献したい」とのことで寄付した300億円を原資に、静岡県と浜松市が協力して建設を進めています。ひとりの静岡県民、浜松市民としては、せっかく民間企業からいただいた寄付を、役所がどんな風に使おうとしているのかは非常に気になるところです。

この防潮堤は、先ほどの津波避難マウンドと同じ海抜13.0mの高さで作られます。浜松市天竜区から運んできた土砂と現場の土砂にセメントと水を混ぜたCSG (Cemented Sand and Gravel) と呼ばれる材料で本体が造られ、その両側に、土を被せた緩やかな斜面を造ってあります。斜面には、マツなどを植えることになっています。これで、一見普通の緑の丘の中に、コンクリート並の丈夫な堤が隠された状態になるわけです。

実際に、遠目で防潮堤を見るとただの土の山に見えるんですが、上に登ってみると、本体の地面はコンクリートのようにカチカチ。なるほど、確かに津波の威力を十分に受け止めてくれそうです。私自身は、海岸からかなり遠い場所に住んでいて、津波被害には余り縁がなさそうではありますが、こうして着実に対策を進めていただいているのを直に見せていただくと心強いです。あとは、海岸近くに住んでいる住民のためにも、できるだけ早く全体を完成させてほしいですね。


東日本大震災以来、地震の被害と言えば津波!というイメージが非常に強くなりました。その後、とんでもないスケールの被害予測が各地で発表されて、海岸近くに住む人たちは避難をあきらめたり、さらには深刻な人口流出が起こったり…という状況を引き起こしています。

海岸を起点にして発展してきた例が多い現代都市で、全ての人々を津波の被害が予想される場所から移住させるのは非常に困難です。その場で被害を受け止められるような対策は必要でしょう。しかし、ものものしい避難タワーに取り囲まれて、ビクビクしながら生活するのも何だか違うような気がします。

いざという時の防災施設が、日常の風景の中に自然に存在して、あくまでもさりげなく私たちを守ってくれるのが理想だと思っています。もちろん、そのためには、ひとりひとりの住民が災害に対する対応方法を身体の一部として身につけておく必要もあるわけですが。地震被害は津波だけではなく、いろいろな危険がある…ということも、忘れずにおきたいものです。

防潮堤や津波避難マウンドなどが、浜松の「さりげない防災施設」として日常に溶け込むようになってほしいですね。そしていつか、津波におびえたり、津波と闘ったりするのではなく、向き合って日々を生きる文化が定着してくれば、少しは過ごしやすい世界になるのかも知れません。


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