伝えたかったものは

土曜日・5日は、浜松混声合唱団の演奏会を聴きに、アクトシティ浜松の中ホールに出かけました。去年は家の用事でこの演奏会には来られませんでしたから、2年ぶりの「夏の演奏会」になります。

娘が生まれて以来、何故か演奏会のある時期に誰かが体調を崩していることが多く、他に預けるのも難しかったので、夏の演奏会、年末の「第九」演奏会とも、客席で聴けるのは私か妻のどちらか片方だけ…ということが続いていました。今回は、小学生になった娘を学童保育で預かってもらえたので、久しぶりに妻と二人での演奏会鑑賞となりました。実は、「未就学児お断り」というルールになっている浜混の演奏会の場合、娘は今年から観客として一緒に連れて行けるようになったんですが、2時間の長丁場で彼女を行儀良く座らせておく自信は、私にはまだありません。

年末に浜松フロイデ合唱団で「第九」を歌っていた団員たちが、「一年を通して歌いたい」と1984年に立ち上げたのが浜松混声合唱団。翌年から毎年夏に演奏会を開催し続け、今年はその設立から30年の節目を迎える年になります。今年も、収容人員1,000人ほどの中ホールは満員御礼。プログラムには「定期と名前を付けず毎年『○○演奏会』として歌ってきた」なんて言葉もありましたが、30年間ホールを埋め続けてきたことには間違いなく価値があります。


今年の演奏会では、アンコールで「群青」という曲が歌われました。この曲は、福島県南相馬市立小高中学校の生徒たちが思いを託した言葉を、学校の音楽の先生が繋いで曲を付けた作品です。彼らのふるさと・小高区は、福島第一原子力発電所から20km圏内に位置し、2011年の東日本大震災以降、住民全員が今も避難生活を余儀なくされているのだそうです。

今年5月に、浜松フロイデ合唱団主催で行われた「一日合唱体験レッスン」でも、この曲が取り上げられ、私も他の参加者の皆さんと一緒にメロディーを歌いました。震災以降、数多くの「震災復興支援ソング」が作られていますが、被災地の若者たちが発信する率直な思い…という点で、外から見ている人たちが作る「応援ソング」とはひと味違う存在感がある曲だと思いました。

さすがに、合唱団の皆さんは斉唱ではなく力強い混声合唱で、この曲を聴かせてくれました。「きっとまた会おう/あの町で会おう」…その日がいつ来るのかは残念ながらまだ見えてきませんが、中学生たちの前向きな思いに勇気づけられます。


例年のとおり、第1ステージは比較的一般に馴染みのある曲を中心にした選曲。第2ステージは地元の浜松学芸高校でバイオリンを教える椙山久美さんのゲストステージでした。第3ステージは、一昨年の浜混演奏会でも取り上げられていた作曲家・信長貴富氏の作品から4曲。今年のプログラムも実に盛りだくさんでした。

それなのに、なぜ最初にアンコール曲の話から入ったのか?…なんですが、それは、この日の全ての合唱の中でいちばん私の心に伝わってくるものがあった曲が、この「群青」だったからです。アンコール曲の出来が素晴らしいのはとても良いこと。しかし、問題だったのは、他のどの曲もこの曲の持つパワーに対抗しきれていなかったことです。

正直なところ、アンコールに入る前までは、今年の演奏会は、選曲は悪くないと思うのに何だか物足りない…という印象がありました。各パートの音程や音量など、技術的にも気になるところはいくつかありましたが、それよりも、歌詞が私たちのところまで全然聞こえてこないんです。

観客ひとりひとりに配布されるプログラムには、第3ステージの各曲の歌詞が刷られていますから、極端な話、曲を聴かなくても歌詞は分かります。私も、合唱団に在籍していた頃にJASRACとの間で許諾手続きをしたことがありますから、プログラムに歌詞を載せるのが意外に面倒な作業なのは知っています。あの浜混の皆さんが、歌詞を載せていることで満足していたり、甘えていたりするとはとても思えませんが…もしかすると、「歌詞を聴かせる」レベルまで仕上げるための十分な練習時間が取れなかったのかも?と思ったりもします。


第3ステージのプログラムは、昨年3月に京都で開かれた、震災の復興祈念コンサートで演奏されたものだそうです。となると、「群青」とはテーマがつながっています。おそらく、団員の皆さんの中でも、第3ステージとアンコールはひと続きのもののようなイメージだったのではないでしょうか。

一般に馴染みはなくても、団員たちの思いを持って選曲した作品を、観客に伝えたくてあえて歌い、聴いていただくのが第3ステージの曲。本来なら、そこがいちばん前面に出てこなくてはなりません。

もし、私が受けた印象と同じように、団員の皆さんがいちばん伝えたかった曲が「群青」だったのだとしたら、この曲はアンコール曲ではなく、第3ステージのフィナーレに据えるべきだったと思います。アンコールはあくまでもおまけ。一番大事なところは、本編の中にしっかり入れておいて欲しいですよね。万が一観客席から呼んでもらえなかったら、そのまま終わってしまいますよ。


そんなわけで、今年の演奏会からは、いまいちのメインディッシュの後に超豪華なデザートが出てきたフルコースのような、ちぐはぐした印象を受けました。しかし、あのデザートが出せるポテンシャルがあるんですから、きっとまた楽しい演奏会を聴かせてくれるはずです。31年目に入る浜混の活動に、改めて期待しましょう。

それ以前に、「また一緒に歌おう!」という声も多くいただくんですが、まだまだ子供に手がかかるのに、私以上に「歌いたい!」と思っているはずの妻を差し置いて、私だけ練習になんてとても行けません。いつかは合唱に復帰してみたいという気持ちは確かに持っていますが、少なくともそれが実現するのは今すぐではありません。いろんな条件が整うまでには、もうしばらく時間がかかりそうです。


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