もうかなり前の話になりますが、3月9日(日本時間では10日の未明)に、Apple社の新製品発表会が開かれました。この日は、以前から話題になっていたApple Watchが発表されるはず…ということで、私も気にしていました。もっとも、気にしていた理由自体はちょっと屈折していたわけですが。
予想通り登場したApple Watchは、各方面に大きな波紋を投げかけました。ハードウェアやソフトウェアについては、かなり以前からいろいろと公式に発表があり、基本的には想定の範囲内だったわけですが、最大の衝撃だったのはやっぱり価格設定でしょう。いくら何でも、スマートウォッチに最高で約200万円の値札が付けられるとは思いませんでした。
もっとも、時計の世界ではもっととんでもない価格設定の商品がいくらでも存在するわけで、この価格もApple Watchを「時計」として見てほしい…というメッセージの一つなのでしょう。Webサイト上でのApple Watchの商品説明で、時刻の正確さについて大きなスペースを割いて解説しているのも、同様のメッセージなのだと思います。しかし、何十年も使い続ける相棒になり得る腕時計ならともかく、確実に数年で陳腐化するこの手のデバイスにそんな大枚をはたく人がどこにいるんでしょうか?…まあ、そもそも数百万円の腕時計だって、一般的な金銭感覚の人が買うモノではありませんが。
その9日の発表会で、Apple Watchに負けないくらいの大きな衝撃を持って迎えられたのが、新しいMacBookでした。Retinaディスプレイを搭載した新しいMacBook Airが登場する…という話は以前からあったようですが、この新製品は、「Air」のブランドが付いていない、実にシンプルなネーミングとなっています。
とはいえ、その「Airっぷり」はさらに進化し、12インチの超高解像度ディスプレイを装備しながら厚さは13.1mm、重さは920gと、さらに薄く、軽くなりました。WindowsノートPCの世界にはずいぶん昔から1kgを下回る製品がいろいろとあった中で、真っ向から立ち向かえる初めてのMacと言っても良いかも知れません。…もちろん、この分野は、既にiPadが先陣を切ってWindows PCたちに斬りかかり、ばったばったとなぎ倒してきた市場ではあるわけですが。
このMacBookには、Intel社の最新モバイルCPUであるCore Mが採用されています。非常に発熱が少なくできるCore Mのおかげで、モバイルノートPCは従来の制約を超えたデザインができるようになったわけですが、MacBookの場合には、その余裕を「薄くて軽い」という「Airらしさ」を生かす方向に振り分けています。キーボードは、フルピッチの大きさを維持した上でより薄い構造のものを再設計しています。タッチパッドには物理的なクリックスイッチを使わず、タッチセンサーで押し込まれたことを感知して、反応は振動で伝えるようになっています。押し込まれた強さまで感知してインターフェースに取り込んでしまうあたりが、単に代替品を用意するだけでは終わらせない、Appleの凄みかも知れません。
一方で、思い切って削ぎ落とされた部分もあります。MacBookには、外部につながる有線のインターフェースが、「USB C」ただひとつしかありません。従来使われていたUSB Type-AコネクタやThunderboltは採用されませんでした。電源供給も、ディスプレイ出力も、全てこのUSB Cから行うのだそうです。これは、形状としてはまだ策定されたばかりのUSB Type-Cコネクタのようですね。ひとつでホスト側とデバイス側の両方を兼ね、大容量の電源供給が可能で、しかもApple自身が作ったLightningコネクタと同じように裏表を意識せずに挿入できます。
こうやってインターフェース仕様をドラスティックに変更できるのは、ソフトとハードを一体で提供しているApple製品の強みですね。幅広い製品で互換性を確保しなくてはならない他のプラットフォームでは、こうは行きません。そういえば、初代iMacがレガシーなインターフェースをばっさり切り落としてUSBのみを装備したことが、その後のUSBの普及に弾みを付けた…という歴史もありました。
Core Mを採用した小型モバイルノートPCといえば、私が愛用しているCF-RZ4も同じ条件で設計された製品になります。しかし、同じようなカテゴリーを志向し、同じキーコンポーネントを使って設計されながら、出来上がっているモノは全く異なります。
フルピッチのキーボード搭載を維持しながら、より薄く、軽く…という方向を突き詰めているMacBookに対して、2in1であるCF-RZ4ではiPadと同等サイズのフットプリントを基準にして、キーボードは小さめのキーピッチにしています。そのキーボード自体も、従来製品以上のストロークの確保にこだわったCF-RZ4と、ストロークは小さくても安定して押し込める構造を考えたMacBookは実に対照的です。
薄さと軽さのために、いろいろな部分で思い切りよく革新を試みたMacBook。一方で、小さくて軽いボディの中に、従来のPCの機能を極力盛り込むことにこだわったのがCF-RZ4…という対比もできるかも知れません。以前なら、レッツノートに対してはここで「厚みにはこだわらない」という形容もついて回ったんですが、既に20mmを切るところまで薄型化が進んできたCF-RZ4にその評価を付けるのは、ちょっと違う気がします。
あえて言うなら、スッキリした外観にこだわらなかった…とは言えるのかも知れません。CF-RZ4の底面を見ると、たくさんのネジで留められているのが印象的で、最低限のネジだけが整然と並んでいるように見えるMacBookとは対照的です。もっとも、この一見無骨なデザインが、タフさを表現した機能美に見えてしまうんですが、これは私のひいき目なんでしょうね。
MacBookも、CF-RZ4も、外見から目指したコンセプトがはっきり伝わってくるのが楽しい製品です。新しいMacBookにはちょっと触ってみたいですね。
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