おめでとう、イチロー

先週木曜日・3月21日に、MLBシアトル・マリナーズのイチロー選手が現役を引退する…とのニュースが流れました。今さら説明するまでもない、日米通算4,367安打の世界一のヒットメーカー。日本では9年プレーし、アメリカで19年目のシーズンを迎えていた彼ですが、とうとうこの日を迎えることになりました。

この日の彼は、日本で久々に開催されたメジャーリーグの公式戦に出場していたわけですが、私は出張先のホテルの自室でテレビにかじりつき、おそらく最後になるであろう試合での彼の姿を見続けていました。

最後の打席はショートゴロ。全力疾走で1塁ベースに駆けていく彼の姿を見ながら「内野安打になってくれ」と祈りましたが、残念ながらそれはかないませんでした。そのあと守備についたところで、選手交代を告げられてベンチに戻っていく彼を、スタジアムにいた全ての人たちがねぎらう姿は、コレまでに見たことのないような胸の熱くなる場面でした。

昨シーズンは5月以降試合には出ることなく、この日本での開幕戦の出場を視野に入れ、カラダを作ってきたはずの彼でしたが、残念ながら、その後長く続くレギュラーシーズンで生き残るだけの実績は上げられませんでした。もっと調整を続けて何とかなるのかどうかはわかりませんが、目標にしていたところにたどり着けなかったらそこまで…と決めていたのでしょうね。


試合終了後、午前0時近いところから、イチローは記者会見に臨みました。1時間以上、記者の方々からの数多くの質問に答え続けたわけですが、無二の実績を積み重ねてきた彼にしか言えないであろう数々の言葉に、つい最後まで聞き入ってしまいました。

そんな中で、ある記者の方が「引退おめでとうございます」と声を掛けて質問を始めたことが、ネット界隈で話題になっていました。「『おめでとうございます』は失礼だろう」という声が多く上がり、質問した記者が釈明する事態になっていました。しかし、テレビでそれを聞いていた私には、そのときには全然違和感がなかったんですよね。

先日、職場の送別会で定年退職される上司を送り出したのですが、式辞で掛ける言葉は「ご勇退おめでとうございます」ですよね。コレに違和感を感じる方は、それ程多くないのではないかと思います。

期限まで勤め上げた職場の上司と、まだまだプレーし続けたかったイチローでは立場が違うではないか?というお声もあるかと思います。それもそうだとは思うのですが、彼は自ら現役を退くことを決めたわけで、クビになって退くことが圧倒的に多いプロ野球選手の中では、ほんの一握りの者にだけ許される、幸せな終幕を迎えられたのだと思います。記者会見での「後悔などあろうはずがありません」という言葉も、その思いの一端ではなかったでしょうか。


そのときに思い出したのが、イチローも為し得なかった「50代で現役」を実現した元中日ドラゴンズのレジェンド・山本昌氏が、42歳で通算200勝を達成したときに、当時の監督だった落合博満氏が寄せたコメント。ユニフォームを「脱がされる」のではなく、自分で脱ぐところまでたどり着けた選手に掛ける言葉は、やっぱり「おめでとう」が似合うような気がします。

実際に、メジャーリーグでもこうした場面で「Congratulations」という言い回しが使われることが結構あって、イチローに対してもそれは例外ではありません。私も、この言葉の選択は良いセンスだと思います。おめでとう、イチロー。


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