先日Android 11 (ColorOS 11) にバージョンアップしたばかりのOPPO Reno3 Aですが、このときにカメラアプリも新しいものになっています。
Androidには「標準のカメラアプリ」が存在しないことをご紹介したことがあります。とはいえ、これはスマートフォンのハードウェアの中でカメラが最も差別化しやすい部分であり、各社が自慢のカメラのために気合いを入れたアプリを用意するので、標準アプリを用意しても使われないから…ということのような気がします。
当然、Reno3 AのカメラアプリもOPPOが気合いを入れて送り出したもののはずです。とはいえ、今回外見にはあまり変化がありません。グリッドの他に水準器を表示できるようになっていたり、Google Lensがメイン画面から直接呼び出せるようになったり…という、小規模な(結構利便性には効いてくるのですが)変化に留まっています。しかし、実はいちばん大きく変わっていたのは、記録される写真の方だったりします。
バージョンアップ後にカメラアプリで撮影したJPEG画像を、普段からフォトレタッチに使っているGIMPで開こうとすると、これまでには出てこなかったこんなダイアログが表示されます。カラープロファイルとして「Display P3」が埋め込まれているので、これを「sRGB」に変換するかを確認するものです。従来はsRGBが使われていたから、この表示は出なかったわけです。このカラープロファイルの設定こそが、今回最大の変更点かも知れません。
いきなり全然わからない用語がドッサリ出てきたぞ!と思った方も多いかと思うので、噛み砕いて解説しましょう。何を隠そう、私もその中の一人です(苦笑)。書き留めておかなくては、間違いなくふたたび忘却の彼方でしょう。
目から入ってくる自然界の様々な色を写し取り、表現しようとするために、人類は様々なものを生み出してきました。しかし、すべての色を完全に写し取って再現できる仕組みは、今のところ登場していません。
特に、色を含んだ情報が電気信号、さらには電子データを介してやりとりされるようになった20世紀後半以降、情報を作り出す機器であるカメラ、情報を表現する機器であるディスプレイ等が、自然界のすべての色の中でどの範囲を正確に記録できるのか、表現できるのかを、共通認識として持っておく必要が生じてきました。これを定めたものが色域(しきいき)規格、あるいは単純に色域と呼ばれます。
色域をビジュアルで表現するためにしばしば使われるのが、「色度図(しきどず)」と呼ばれるグラフです。その中でも最もよく見かけるのが、CIE 1931(その名のとおり1931年に作られました)というもので、アルファベットのDが横倒しになったような図形が、ヒトが知覚できるすべての色の範囲を表現します。それぞれの色域は、このDに内包される三角形として表現されることが多くなります。これは、色が3つの原色を元に混合されて表現されることと無縁ではありません。
以前、BS 4K放送のことを話題にしたときにも、この色域の話に触れています。あのときに登場したRec.709やRec.2020は、動画のために決められた規格ですが、もう少し一般的にディスプレイで表現できる色を規定したもので、現在国際標準となっているのが、sRGBと呼ばれる色域です。Windowsが標準として使う色域もsRGBとなっています。
sRGBは、当時のブラウン管の表示できる色をベースに決められたのだそうですが、現在ではsRGBよりも広い色域を表現できる機器が増えてきたため、独自の色域を決めて流通させるメーカーも出てきました。いちばんよく見かけるのが、Photoshopなどのソフトウェアで有名なAdobe Systems社が決めたAdobe RGB。そして、今回の話題に出てきたDisplay P3はApple社が決めたもので、iPhoneやMacなどのApple社の製品では標準で使えるようになっています。
色度図上の三角形の位置や大きさをsRGBと比較すると、Adobe RGBは緑色の領域が、Display P3では緑と赤の領域が拡張されているのがわかります。これらに対応することで、sRGBより鮮やかな緑や赤を記録したり、表現したりできる…と言って良いでしょう。
しかし、この「対応」というのは、カメラやディスプレイなどのハードウェア、さらにはカメラアプリやディスプレイドライバー、Webブラウザーなどの画面に表示するためのアプリなどのソフトウェアと、すべての段階で必要となります。各段階で対応する色域が異なっていると、せっかく広い色域で記録した画像データのポテンシャルが生かせないどころか、妙な色合いの画像が表示されることになりかねません。
色域情報を共有するために、画像データに埋め込まれたり、機器やアプリが用意していたりする色域の情報がカラープロファイル(ICCプロファイル)です。対応する色域が異なっている機器やアプリの間でも、そのことを踏まえた上で変換しながら使えば、少なくとも色合いが破綻しないように取り扱うことができます。
Androidでも従来はsRGBが標準の色域として使われていましたが、Android 8.1以降から、それ以外のカラープロファイルを持った画像も扱えるようになりました。しかし、デバイス・アプリの双方が対応しなくては、広がった色域の恩恵は受けられません。それどころか、Android 10までのバージョンでは、壁紙にsRGB以外のカラープロファイルを持つ画像を指定すると操作不能になる…という、深刻な不具合がありました。これでは気軽に使えませんよね。
Android 11では壁紙の不具合は解消され、Display P3やAdobe RGBで記録された画像データでも正しく扱えるようになりました。おそらく、Reno3 AのAMOLEDディスプレイやカメラのセンサーは当初からDisplay P3に対応済で、活用したいのはやまやまだったのでしょうけれど、Android側の不具合を鑑みて、あえて使わないようにしていたのでしょう。今回のColorOS 11へのバージョンアップで、それがようやく解禁された…ということのようです。
しかし、Display P3などの広い色域のポテンシャルを生かせるかどうかは、個々のアプリが対応しているかどうかに左右されます。Googleが、Androidの開発者向けサイトの「Android にワイドカラー フォトが登場: 対応するために知っておくべきこと」という記事で、Display P3への対応を試せる画像を公開しています。これを使ってReno3 Aでの対応を確認してみたところ、「写真」アプリはDisplay P3対応なのですが、Chromeアプリ(とWebViewコンポーネント)は非対応のようです。つまり、Webサイト上でDisplay P3色域の画像を置いても、ChromeではsRGB色域に変換された上で表示されるので、従来と変わらない…ということになります。そこで妙な色合いにならないように調整しているのが、まさにカラープロファイルなのですが。
Reno3 Aのカメラアプリで撮影した写真をGIMPで編集することで、同じ写真をsRGBとDisplay P3の両カラープロファイルで出力する…ということができます。切り替えて比較できるようにしてみましたが、比較的最近のiPhoneやiPad、あるいはMacなどでご覧いただければ(これらの環境ならディスプレイも、SafariブラウザもDisplay P3対応のはずです)、Display P3の方がより鮮やかでメリハリのある写真に見え…ませんか?一応iPadで見てみたら違いが見えたのですが、見比べているうちにわけがわからなくなってきます(汗)。
そんなことを考えながら見返してみると、Facebookアプリでは、アップロードした写真の緑色が妙に派手に出るようになった気がします。Twitterアプリも似たような感じです。色域情報が正しく解釈されていないような臭いがぷんぷん漂ってきますね。一方で、カメラアプリのバージョンアップで、あえて派手目に出力するように変更された可能性も否定できませんが。
Googleも、先に触れた開発者向けドキュメントで、Android向けに使われる広色域のプロファイルとしてDisplay P3を採り上げています。今後はスマートデバイス間の共通カラープロファイルとして、Display P3が事実上の標準になっていく可能性はあると思います。もちろん、これはApple社が広色域デバイスの普及に合わせていち早く自社規格を立ち上げ、誰でも体感できるようにした…という先見の明が奏効したものと言えるでしょう。
その点、対抗して自社規格を立ち上げるようなことはせずに、この「Appleの色」にあっさり相乗りしようとするのがGoogleのしたたかさというか、現実主義というか…。エネルギーを割くべきところは他にある、ということなのでしょう。
そんな空気感を読みながら、今回Reno3 Aのカメラでも「次世代の標準になる」と目してDisplay P3対応を行ったのではないかな?と思っています。自分で撮った写真を見返すときだけでなく、iPhoneに送ればそのままキレイな写真が見てもらえますから、すぐにでも役に立ちますよね。他のアプリ等での対応にはもう少し時間が掛かりそうですが、色の表示と色域のことは意識しておこうと思います。
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