今週は、月曜日・5月30日に、国土交通省中部地方整備局飯田国道事務所が行った発表を話題にしてみましょう。三遠南信自動車道の青崩峠トンネル(仮称)が、5月26日に貫通したのだそうです。
このトンネルは、静岡県と長野県の県境にある青崩峠(あおくずれとうげ)のやや西側の地下を貫く、全長4,998 m・2車線のトンネルです。掘削開始から実に4年をかけての貫通となりますが、単にそれだけでは語り尽くせない、長年のドラマを背景に抱えた路線です。
青崩峠を含む一帯は日本最大の活断層・中央構造線に沿った地域で、「青く崩れる」という名のとおり、非常に崩れやすい不安定な地質になっています。この地域を南北に結ぶ国道152号線は県境で自動車道をつなぐことができず、峠の前後は歩道しかない…という、いわゆる「点線国道」の状態がずっと続いていました。現状でも県境を細く曲がりくねった市道と県道で迂回して越えることはできますが、誰でも気軽に越えられる道だ…とはとても言えません。
そもそもこのルートは古くから「塩の道」と呼ばれ、海と山を結ぶ重要な街道だったそうです。天竜川の水運もあり、三河・遠江・南信濃の「三遠南信」は昔からつながりがあったのですが、現在のヒトやモノをつなぐ乗り物はやっぱり自動車。クルマで楽に行き来できないことには、どうにも始まりません。
この地に高規格道路を通すため、ここまでいろいろと紆余曲折があったそうですが、一時期はバイク向けの地図帳「ツーリングマップル」に「日本のトンネル技術が敗退」とまでコメントされていた地に、最先端の土木技術が投入されて、ついにトンネルがつながります。実際に通れるようになるまでは、まだ周辺の工事など必要ですが、数年後には開通するはずです。
6月3日のテレビ朝日系列「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に、「酷道」(←とても国道とは思えないような、走るのには過酷な道路を指すスラング)にハマる10歳の「道路博士」ちゃんが登場し、青崩峠まで歩いて登り、国道152号線のディープな魅力を堪能していました。番組の中ではトンネルの工事現場も見学していて、画面には「※5月26日に無事貫通」というテロップが追加されていました。
ちょうど貫通のニュースがメディアを賑わせる時期に合わせて放送されたわけで、番組スタッフの中にも相当青崩峠に思い入れのある方がいらっしゃったのではないでしょうか。浜松や南信州にルーツのある方か、土木技術マニアか…いずれにしても大金星です。
それにしても、何故これだけ大騒ぎになるのか?なのですが、そもそも静岡県西部と長野県南部との間の行き来は非常に困難です。両県は100km近くの県境を接しているのにもかかわらず、間を直接つなぐ自動車道は、すれ違い困難な道路2本(市道+県道1本、林道1本)しかありません。ちなみに鉄道はJR飯田線が県境をまたいでいますが、こちらも地域輸送を担うというよりは秘境のローカル線として有名です。
「県境の交通路」なるデータベースをまとめている方がいらっしゃいます。これによると、静岡・長野県境以外にもつながりが薄い県境はいくつかあり、例えば埼玉・長野県境には細い林道が1本だけですが、ここは11kmしか県境を接していません。また、福島・群馬県境にはクルマが走れる道は1本もありませんが、間には開発を大きく制限されている尾瀬の湿地帯がある状況で、県境を接している長さも22kmほどです。
これと比べると、はるかに長い距離を接していて、しかも古くから関係が深いとされる静岡・長野県境の分断状況がいかに異質なのか、ご理解いただけるでしょうか。もちろん、ココにも南アルプスや中央構造線という地理的な要因があるわけですが。
三遠南信自動車道のように、中山間地に高規格道路を開通させることは、中山間地域の住民にとってライフラインとしての価値があります。伊豆の先っぽに住んでいた私には、その価値も身にしみてわかるわけですが、残念ながら、青崩峠トンネルが開通するだけではその効果はあまり大きくありません。静岡県内、愛知県内、長野県内のそれぞれで工事が進んで、一本の道としてつながることが重要になります。
ただ、三遠南信自動車道の最大の難所と言われたこのトンネルが開通する道筋が見えたことで、全線開通に向けて弾みが付く…といった心理的効果は、結構侮れないのではないかと思います。ものすごいスピードで過疎化が進む中で、工事の方にもそれに負けないスピード感が必要です。山から人がいなくならないうちに実現しなくては意味がありません。
一方で、私のような浜松の街に近い地域(と言っても相当田舎ですが)の住民にとっては、これまで大回りしなくては訪問できなかった長野県南部が、ずいぶん近づくことになります。私はそれがいちばん楽しみです。
先日、用事があって浜松市天竜区水窪町の奥の方までクルマで出かけたのですが、トンネルの入口に向かう国道152号線では、改良工事が急ピッチで進んでいて、大型のダンプ車と何台もすれ違いました。青崩峠トンネルが開通する頃には、これらの工事も出来上がって、相当な時間短縮効果が期待できそうです。
例えば高遠城址公園の桜あたりは、このルートで行ってみよう!と考える人が増えるかもしれません。少なくとも私は、開通の暁にはやってみるつもりですけどね。その頃には長野県側で工事中のルートもつながってくれないかなぁ…。
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