「ワガママVistaちゃん (3)」の続きです。電源を交換したら、S3スタンバイ状態から復帰できなくなってしまった私の自作タワー。何しろ、環境の中で変わったのは電源だけですから、ここに原因を求めたくなります。前回にも触れたとおり、3年前にもS3から復帰できないトラブルには見舞われたんですが、このときにも電源が問題になりました。
しかし、通常の起動には全く問題がなく、作業中も至って安定しています。それに、3年前とは違って、今回は「ときどき」ではなく毎回復帰に失敗しています。「アナログなトラブルはアナログな部分を疑え」は、3年前にも触れたとおり私のトラブルシューティングの方法論ですが、その論法で行けば今回は全くデジタルな症状。デジタルな部分…言い換えるとソフトウェア側のトラブルではないか?という気もしてしまいます。
そんなわけで、とりあえずは「電源の不良」という仮説は採用せずに、まずはWindows Vistaのサポート情報からS3スタンバイに関するものを収集してみました。すると、これが意外にたくさん出てきます。既に公開パッチが存在するものもありますし、マイクロソフト社にパッチを請求するとダウンロード用のURLを教えてもらえるものもあります。これらをいくつかインストールしてみましたが、状況は全く変わりませんでした。
こうなると、いよいよ電源の問題を疑わなくてはなりません。それぞれの電源を見比べながら、どこに問題があったかを考え、もう1台電源を入手することにしました。買ってきたのがこれ。オウルテックが販売するSeasonic M12シリーズの電源、SS-500HMです。
紫緒タワーのAntec Neo480と同様、必要な電源ケーブルだけを接続して使う構造になっていて、ケース内の空気の流れを妨げにくいのが特徴の一つ。底面の120mm吸気ファン、背面の六角メッシュの他に、前面に60mmの吸気ファンを装備し、電源内の熱溜まりを防ごうとしています。基本的な回路設計でも、105度C仕様の日本製コンデンサを使うなどこだわっています。購入価格は18,000円。このあたりまで来ると、十分「高級電源」と呼んで良いでしょう。価格に見合った、丁寧な作りだと感じます。
型番の数値通り、SS-500HMの最大定格出力の合計は500W。ピーク出力で550Wというスペックは、これまでの両電源と大差ありません。以前にも触れているとおり、問題になるのは合計の電力ではなくて個々の系統の内容。今回の話題になっている3種の電源で、各系統の最大電流を一覧表にしてみましょう。
model | KEIAN「静か」 KAD-550AS SLI |
SILENT KING-5 LW-6560H-5 EPS |
Seasonic M12 SS-500HM |
---|---|---|---|
+3.3V | 30A | 24A | 24A |
+5V | 36A | 24A | 30A |
+12V1 | 20A | 16A | 18A(Peak21A) |
+12V2 | 18A | 16A | 18A(Peak21A) |
+12V3 | – | 14A | 18A(Peak21A) |
+12V4 | – | 8A | 18A(Peak21A) |
+12V計 | 38A | 40A | 38A |
-12V | 0.8A | 0.5A | 0.8A |
+5VSB | 2.5A | 3.0A | 3.0A(Peak3.5A) |
Total | 550W | 560W | 500W(Peak550W) |
最近の電源では、+12Vが複数系統用意されているのが普通ですね。例えばSeasonic M12の場合、+12V2がCPU、+12V3と+12V4がビデオカード用(SLIでハイエンドのビデオカードを2枚挿し…という構成もありますからね)、+12V1がそれ以外に…という配分になっています。おそらくSILENT KING-5も同様の配分でしょうし、「静か」でもCPUとそれ以外…という配分になっているはずです。
一つ注意しなくてはならないのは、各系統の最大電流が同時に取り出せるとは限らないこと。+12Vの各系統の値と「+12V計」の値を見比べるとよくわかります。SILENT KING-5も、Seasonic M12も、「+12V計」は各系統の最大値を合計した値を下回ります。
ビデオカード専用の+12V系統を使うためには、ビデオカード側に専用の電源入力端子が付いている必要があります。しかし、私の持っているビデオカードにはこの端子がなく、給電はマザーボードのPCI Express x16スロットからになります。結局、私が使える+12Vは2系統だけ…ということになります。そうなったときに、SILENT KING-5ではせっかく+12V全体で40A使えるうちの16A+16A=32Aしか取り出せません。一方、Seasonic M12では18A+18A=36A。ピーク時になら38Aをフルに取り出せます。この余裕がひとつ目の選択理由です。
もう一つ気にしてみたのが、+3.3Vと+5Vの最大電流。SILENT KING-5では、両方とも「静か」よりもずいぶん低い値になっています。しかし、各社の電源の仕様を見比べてみても、+3.3Vと+5Vが「静か」ほど高い製品は最近では見あたりません。BIOS設定画面でモニターされたSILENT KING-5の電源電圧を見ると、+3.3Vは3.4V強ありましたが、+5Vは5Vを下回っていました。もしかして、+5Vは不足しているのではないか?と考え、こちらの値を意識してみました。
そして、忘れてはならないのはスタンバイ中の電源を供給する+5VSBの仕様。ここにも十二分な余裕があります。待機電力として5×3.5=17.5Wも必要なのかどうか、疑問に思うくらいですが、復帰動作中にはそれなりに電力が必要になるのかも知れませんね。
…と、いろいろ考えて電源を交換してみたわけですが、結果は全く変わらず。相変わらず、S3スタンバイ状態からの復帰ができない状態が続いています。スタンバイ動作を、システム全体が動作した状態で消費電力を下げるS1スタンバイに切り替えれば、正しく復帰できるので、とりあえず短時間の中断ではS1状態に移行させて、長時間復帰されないときにはハードディスクにメモリ内容を待避させて休止状態にする…という運用をしています。
S1からの復帰はS3からの復帰よりもずっと速いので、その点ではこれまでより快適になった…と言えないこともないんですが、休止状態からの復帰にはそれなりに時間がかかります。S1状態では省電力効果も低いですから、何とかしてS3状態でのスタンバイは実現させたいところなんですが…これについては継続課題ということになりそうです。とりあえずは、来年第1四半期に登場するというVistaのサービスパック1待ちですが、どうなることやら。
SILENT KING-5は、予備電源として自宅に待機させてあります。前回のような「電源が故障」というトラブルがあったときに、対応が素早くなりますからね。パソコン整備士としても、交換用のパーツはトラブルを切り分けるために必須のアイテムの一つです。
立て続けに2つも電源ユニットを購入してしまったんですが、どちらも最大定格電力は500W台のものを選択しています。現在、市場ではもっと大容量の電源がたくさん販売されています。中には1600Wというとんでもない製品もあるそうですね。定格15Aの普通の電源コンセントでは、フルパワーで稼働させられないことになります。
電源の容量不足を疑うのなら、もっと大容量のものを選べばいいのに…と思われるかも知れませんが、実際には各系統の電力を見ていくとあまり効果がないことが多いです。最近の大容量電源は、CPUやビデオカードの電源供給のために+12Vを大きくしてあるだけで、それ以外の系統は400Wクラスの電源と大差なかったりします。
また、電源は供給された電力のすべてを変換できるわけではなく変換ロスが発生します(これが発熱につながるわけですが)し、電源自身もファンなどで電力を消費しています。普通は、電源の効率は最大電力に近い出力を得るほど高くなりますから、むやみに大容量の電源を使っても、同じ消費電力では電気の無駄が増えるばかり…ということになりかねません。適切な容量の電源を選ぶことが、省エネルギーにもなるはずです。個々のパーツの消費電力を積み上げて計算できると理想的なんですが、最も電気を食うCPUやマザーボードで消費電力が公開されていないのは辛いところですね。
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