火曜日・19日に、東芝から「HD DVD事業を終息する」との発表がありました。ハイビジョン画質で映画を1本まるまる記録できる、いわゆる「次世代DVD」の規格で、ソニーや松下電器らが推進するBlu-ray Disc(ぶるーれいでぃすく、以下「BD」)との競争を繰り広げてきたHD DVDですが、この規格を主導してきた東芝の判断で、事実上勝負は決したことになります。
火曜日の東芝のプレスリリースによると、「異なる規格が併存することによる同社事業への影響、消費者への影響の長期化をかんがみ、早期に姿勢を明確にすることが重要と判断した」とのことです。今回の争いを、かつての家庭用ビデオテープ・βとVHSとの規格争いの再来として、「消費者不在」との批判があります。確かにその通りだとは思いますが、この争いを実質2年間で早期に終息させ、自社の経営や消費者への影響を最小限にとどめることを選んだ東芝の判断は、現時点としてはベターだった気がします。
DVDの生産設備との互換性を重視して低コスト化を狙ったHD DVDに対して、名前も、仕様も新しく、より「次世代感」のあるBDが競り勝ったのは当然の流れかも知れません。そもそも、名前からして既に決着が付いていたような気がします。紫緒にも言われて改めて思ったんですが、「えいちでぃーでぃーぶいでぃー」と「ぶるーれいでぃすく」を読み比べれば、全然印象が違いますよね。
HD DVD撤退に向けての決定打になったといわれるのが、映画ソフトをBDとHD DVDの両方で販売してきたワーナー・ブラザーズが、今後は販売をBDのみで行うと決定したことでした。昨年には、パラマウントがHD DVDのみでのソフト販売を発表するなど、今回の規格争いではハリウッドの映画会社の動向が注目され続けました。
というのも、次世代DVDの行方を決める上で最も重要だったのが、映画などの映像ソフトが販売されるかどうかだったんですよね。というよりも、次世代DVDの使い道は他にはほとんど残されていなかったと言って良いでしょう。テレビ番組の録画やパソコン等でのデータ保存などの書き換え用途には、もっと大容量で安価なハードディスクという媒体があります。
HD DVD陣営にはマイクロソフト社も名前を連ね、パソコンへの標準搭載でドライブの売り上げを伸ばせる…との読みもあったようですが、容量がせいぜい数十GBの次世代DVD(BDも含めて)に役割がどれほどあるかは疑問です。それこそ、市販映像ソフトの再生用でしょうか。BDにも、HD DVDにも、簡単なゲームくらいなら十分こなすインタラクティブ機能がありますから、DVD時代のように敢えてパソコン用にマルチメディアソフトを発売する意味も無さそうです。
正式発表の前、先週土曜日・16日に「東芝がHD DVDから撤退の方針」というニュースが駆けめぐりました。IT関係のニュースサイトだけでなく、テレビでも取り上げられて、一気にこの話が注目を集めるようになりました。ワーナーの発表後にも、まだ強気の姿勢を崩していなかったことを考えると、唐突な展開だとは思いましたが、撤退への判断そのものについては驚きはありませんでした。実際のところ、既にワーナーにとどめを刺された状態だとは思っていましたからね。
昨年末の家電量販店を見ていると、店頭に並ぶのはBDレコーダーばかりで…というより、東芝以外はほとんどBD陣営なんですから仕方ないんですが、既に決着は付いていたように見えました。しかし、最大の市場であるアメリカではそれほど極端な差はなかったようですね。もしここでちょっと双方のバランスが変わって、もともと東芝とは密接な関係にあったワーナーがHD DVDのみの支持に傾いていれば、今回の勝敗は逆転していたのかも知れません。
そういえば、東芝ではHD DVDレコーダーの新製品の発売が延期になっていました。今になって振り返ってみると、これは単なる延期ではなく、事業終息に向けて販売を見合わせていたのかも知れません。
東芝の発表を受けて、業界全体でHD DVD終了への動きが本格化しています。発売が予定されていたHD DVDソフトが次々に発売中止になっていますし、既に家電量販店ではHD DVD関連商品を撤去しているところもあります。次世代DVDのレンタルを見合わせていたレンタルショップでも、BDのレンタルを始めようという動きがあるようです。
エディオングループの各店では、HD DVD製品を購入した人に対して、差額のやりとりでBD製品への交換を実施するのだそうです。ずいぶん思い切った策を打ったな…とびっくりしました。HD DVD機器を購入した人は、規格争いが行われていることを理解した上で購入しているはずですから、そこまでする必要もないのでは?という気もします。もっとも、昨年末あたりに、東芝のなりふり構わないディスカウント戦略の中、店頭で「お安くしますから」と押されて買ってしまった人は、ある意味被害者とも言えるわけで、救済する必要はあるのかも知れません。
全ての販売店がエディオンのような対応を出来るわけでもないでしょう。既にHD DVDを購入してしまった人たちに対して、今後東芝がどんなフォローをしていくのかが問われます。とりあえず、補修用部品は8年間用意されること、HD DVDの記録メディアも当面供給されることは決まっているそうですね。企業の真価が問われるのは、こうした「誤ったときの対応」なのだと思います。
これで、DVDの次を担う光ディスクはBDということになりました。しかし、映像ソフトの供給には将来的にはネットワーク配信が使われるようになって、BDの時代は長く続かないのでは?という声もあります。
確かに、現時点でも光ファイバーの回線にはハイビジョン画質の映像を送れるだけの能力がありますし、実際にサービスも登場し始めています。しかし、ダウンロード販売するのならともかく、ストリーミングで配信することを考えると、インターネットには基本的に帯域保証がないことが問題になります。この春からNTT東日本・西日本が提供を始める次世代ネットワークには、このための仕組みもちゃんと用意されるようですね。
究極的にはネット配信が広まるのでしょうけど、それでもBDが普及していくだけの時間的余裕はあるような気がします。もっとも、家庭用に供給する画像の細かさは、テレビの仕様も考えると現在のハイビジョン程度で十分でしょうから、BDが「最後の光ディスクメディア」になる可能性は十分に考えられますね。
東芝では、BD製品の投入は「現在のところは考えていない」とか。DVDレコーダーでは高い評価を得ていたメーカーですから、BDに参入する手もあるでしょうし、逆に「脱・光ディスク」を志向した戦略も考えられるでしょう。大容量の記憶媒体としては、小型のハードディスクも、フラッシュメモリも自社で作っているわけですからね。一時的にはかなりの損失があるはずですが、HD DVDに投入してきたものも含めて、持っている技術を上手く活用できれば、むしろ大逆転のチャンスなのかも知れません。がんばれ、東芝。
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