天城越えは通らずに

5月になりました。連休中も、伊豆ではいろいろな観光イベントが催されています。一昨日から始まった松崎の「花畑で摘み放題」もその一つなんですが、この日は花を摘んだ後にそのまま浜松にある紫緒の実家に向かいました。伊豆のゴールデンウィークを満喫せずに帰ってしまうのはちょっともったいない気もしますが、まとまった休みが取れるときには、やっぱり帰省しておきたいところです。墓参りや親戚回りもしておかなくてはなりません。

以前から何度か話題にしているとおり、下田から浜松に車で向かうルートといえば、国道135号線か国道414号線で河津まで行き、河津七滝ループ橋から新天城トンネル、湯ヶ島の温泉街、修善寺と414号を北上し、有料道路経由で沼津まで行って東名高速に乗る…というのが常識的かつ最速です。しかし、花畑のある松崎をスタート地点に変えると、別の選択肢があります。

それは、松崎市街から国道136号線を堂ヶ島、黄金崎、恋人岬…と北上して土肥まで行き、土肥港から駿河湾フェリーに乗って清水港に向かうルート。フェリーの所要時間は65分ですから、出港時間に合わせさえすれば、下田まで戻ってから「天城越え」するルートよりも、土肥から引き続き国道136号線を走り、船原峠(トンネル)を越えて国道414号線と合流するルートよりも早く浜松に着けることになります。

単純に交通費だけで考えれば、「休日は高速道路1,000円で乗り放題」のご時世に、10,000円近く払ってフェリーに乗るのはちょっともったいない気もしますが、フェリーに乗って日常とはちょっと違う時間を過ごすところも含めて楽しんでみよう!ということで、今回はこの「天城越えを通らないルート」で帰省することにしました。


フェリーの予約時間までにはちょっと余裕があったので、途中で寄り道をしながら行きました。松崎町の伊豆の長八美術館では、漆喰を盛り上げて絵画を立体的に表現した「鏝絵(こてえ)」を見ることができます。松崎といえば有名な風景の一つが「なまこ壁」の建築ですが、これは立体的な模様を左官職人たちが漆喰で盛り上げたもの。海からの強風に耐える強度の確保が本来の目的なんですが、職人たちはなまこ壁の仕上がりにこだわって腕を競ったのだそうです。その技術を芸術作品に生かしたのが鏝絵。美術館の入口で虫眼鏡を渡されるほどの細かい細工に注目しましょう。

土肥では、フェリー乗り場のすぐ近くにある土肥金山に立ち寄りました。江戸時代、国内では佐渡の次に多くの金を産出していた金山で、かつての坑道では人形を使って採掘の様子が再現されています。資料館には、重さ250kgの世界最大の金塊があって、直に触れることもできます。砂金採り体験も面白そうでしたが、時間が足りなかったので、これはまた次回にしましょう。


フェリー乗り場には出港の30分ほど前に到着しました。カーフェリーといえば北海道旅行のときに乗って以来で、あのときには乗船券を買うために車検証を持参したり、運転手以外の乗客は個別に乗船したり…と、かなり大げさな「搭乗手続き」だった記憶がありますが、あれと比べるとずいぶんシンプル。窓口で乗船券を購入して、全員で車に乗ったまま乗船します。まあ、スケールが全然違いますからね。

駿河湾フェリーしばらく待っていると、派手に塗装された船が入港してきました。目を引くのが、どこかで見たことのあるオレンジ色のペットマーク。あれはJリーグ・清水エスパルスのマスコット、パルちゃんですね。エスパルスの親会社である鈴与は、自社の関連事業に「エスパルス」の名前を冠して知名度のアップを図っています。そもそも、駿河湾フェリーの運営会社も「エスパルスドリームフェリー」。もっとも、現在エスパルスの名前が付いているのは、他には清水港の複合娯楽施設・エスパルスドリームプラザくらいのものですが。

実は、北海道旅行の往路で猛烈に揺れる船旅を経験して以来、カーフェリーによる船旅にはちょっと抵抗もあったんですが、今回は内海の駿河湾をゆく船と言うこともあり、乗り心地は良好でした。ただ、さすがに揺れは皆無というわけではなく、船室内を歩き回っていた娘も、右へ左へと揺すられながら、ちょっとふらふらしていました。

富士山はどこだ?フェリーは駿河湾をほぼ直進していくので、道中はずっと右舷側に富士山を見ながら進むことになります。デッキからはその美しいシルエットを望むことができる…はずなんですが、この時期はどうしても霞がかかってしまい、視界が悪くなります。かすかに見える頂を探すのにも一苦労でした。もっと寒い時期ならきっと綺麗でしょうね。ただ、寒風吹きすさぶ展望デッキに出てくるのはちょっと辛そうですが。


心配していた船酔いも全くなく…と言いたいところでしたが、最後の最後がちょっと危なかったですね。下船するときも、乗船の時と同様に車に乗り込んで待つことになりますが、全く窓がない場所で、しかも船は港に入るために複雑な動きをしていますから結構揺れています。一見全然揺れていないように見えるのに、胃袋だけ捕まれて揺すられているような、相当気持ち悪い感覚があります。さすがに吐き気までは催しませんでしたが、船を下りた後もしばらくの間は、浮き上がっているような妙な感覚が残っていました。

清水ICから東名高速に乗れば、浜松までは1時間少々。ここからなら、平日でも高速料金は半額で1,000円強です。下田から浜松まで直行するよりも少し早いくらいの所要時間で到着できることになります。これまでは、夜遅い時間帯に帰省の異動をすることが多かったので、明るいうちに浜松に着いてしまうのはちょっと違和感がありましたが、運転はやっぱり昼間の方が断然楽です。船の上で1時間休憩できることも含めて、身体への負担はずいぶん軽減できました。せめて運賃(繁忙期だったので車はドライバー込みで7,000円、旅客がひとり2,200円)が半額くらいになってくれれば、たまには利用したいんですけどね。


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