もう先週の日曜日の話になりますが、8月2日に、日産自動車から来年末に発売予定の電気自動車・リーフの概要が公開されました。
お披露目は、横浜に建ったばかりの新しい本社ビルで行われました。日産のカルロス・ゴーン社長が、元内閣総理大臣の小泉純一郎氏、神奈川県の松沢知事、横浜市の中田市長を乗せて、リーフを運転しながら登場。自動車の環境対応で一気に大逆転を狙う日産の気合いだけでなく、地元自治体の期待の大きさも印象的でした…というより、電気自動車は行政の協力なくしては普及が進まないと思うんですが、このあたりの話は今日の後半で。
リーフは、5人が楽に乗れる3ナンバーサイズの5ドアハッチバック車。すでに「環境に優しい車」として遙か先を走っているトヨタ自動車のハイブリッド車・プリウスと、真っ向から競合するサイズになりますね。プリウスをかなり意識しているのが伝わってきます。
だからこそ、日産はリーフの発表に際して「ゼロ・エミッション」(排出物なし)という表現を強調したのでしょう。リーフのために立ち上げた特設Webサイトも「日産ゼロ・エミッションサイト」です。ガソリンエンジン等を積んでいるハイブリッド車では、排出物は完全にはゼロになりませんからね。
発電の過程まで含めると、電気自動車でもゼロ・エミッションではないんですが、町中で排気ガスを全くまき散らさないわけですから、人々の住環境に優しいのは確かです。「環境」というキーワードも、いろんな方向に向けて使われるので、今自分が使っている「環境」の意味をきっちり念頭に置いておかないと、論点をすり替えてしまいかねません。注意、注意。
ハイブリッド車と対抗するときに、おそらく最大のウイークポイントとなるのが走行距離でしょう。日産では、家庭用200V電源で8時間充電、走行距離は160kmという、三菱自動車のi-MiEVとほぼ同じ数字を示しています。
ただし、日産が示したこの距離はアメリカの燃費基準である「US LA4モード」で評価するもので、日本の10・15モードと比べるとかなり厳しいのだそうです。軽自動車サイズであるi-MiEVよりもかなり大きな車体で、i-MiEV以上の性能を実現しようとするのが日産のチャレンジになるのでしょうけど、その一方で、この程度のことができなくてはクルマとして認められない…という最低限のラインが、ちょうどこのあたりになるのではないかと思います。
「アメリカの基準」ということになると、160kmという数字にはもう一つ意味が出てきます。これはほぼ100マイルに当たりますからね。2桁と3桁では印象がずいぶん変わります。アメリカ向けの販売に非常に力を入れていることがわかります。
車の構造としては、リチウムイオン電池を床下に置き、ヘッドライト等には省電力のLEDを採用、空力や足回りでも効率を追求して…ということで、これもi-MiEVの発表で聞いた説明とよく似ています。もっとも、目指すところが同じですから、今市場に投入できる範囲での技術的回答はそれほど選択肢が多くないのでしょうね。
ただ、全体のデザインを見ると、リーフは実に「今どきの普通の日産車」っぽく仕上げられています。i-MiEVの超未来的なデザインとは大違いです…もっとも、i-MiEVの場合にはベース車になったガソリン車・iのデザインを引き継いでいるだけなんですが。多くの人に受け入れてもらえるように、あえて普通っぽく抑えたのかな?という気もします。
私がリーフの発表の中で驚いたポイントは二つありました。一つ目は、同クラスのガソリン車と変わらない価格で市場に投入する…ということ。i-MiEVの標準価格が約450万円なのと比べると、とてもあり得ない話ですが、これにはいろいろ仕掛けがあるようです。
電池を別売りにして、本体分とそれぞれをリースの形態で使ってもらうことを考えているのだとか。確かに、これなら個人の負担感は減らせます。まだまだ発展途上の技術が多い電気自動車ですから、リースなら新品への乗り換えが容易なのもポイントになりそうです。もっとも、これはリーフだけの話ではなく、i-MiEVでも個人への販売はリース形態だそうですね。
そして、補助金による支援も忘れてはいけません。国の補助金があるだけでなく、地方公共団体もそれぞれに知恵を絞っています。先に出てきた神奈川県も横浜市も、電気自動車購入には追加の補助金を出していますし、充電スタンドの整備にも非常に積極的です。神奈川県でi-MiEVを買えば、200万円台で手に入ることになります。これなら十分選択肢になり得る価格帯ではないでしょうか。
そして二つ目は、初年度となる2010年度に5万台規模で生産する…ということ。来年度には国内で5,000台を販売する計画のi-MiEVと比べると、まさに桁違いの多さです。i-MiEVの場合、生産量を制約しているのは電池だそうですが、裏を返すと日産は三菱の15倍以上の容量(1台あたりの容量が1.5倍ですから)の電池を用意できる体制を考えていることになります。
本当にそんな大胆な生産計画が実行できるのか?という問題はあるわけですが、実現できるのなら2つのプラス効果があります。一つは、量産効果で価格を下げられること。特に、電気自動車では電池の価格が非常に大きな割合を占めているのだそうですが、これが下がれば電気自動車のイメージもずいぶん変わるかもしれません。
そして、もうひとつは充電スタンドなどのインフラ整備が進むことが期待できること。現状の電気自動車を普通に使ってもらえるようにするには、短い航続距離をフォローできる施設が不可欠です。5万台を売ろうとする日産は、おそらく自らの手で積極的に整備を進めるでしょう。そして、これはほかの電気自動車メーカーにもプラスになるはずです。もっとも、最初は地域限定で集中的に進んでいくのでしょうね。たとえば神奈川県とか。
それにしても腑に落ちないのが、どうしてプリウスを勝負の相手に選んでしまったのかな?ということ。現時点では、航続距離でどう逆立ちしたってかなわないわけですから、もっと短距離利用に的を絞って、町乗りに便利な小回りの利く車にした方が良いような気がします。軽自動車とまでは言わずとも、日産車で言えばマーチくらいの大きさならどうでしょうか。
そんなわけで、私はリーフにはあまり魅力は感じませんでしたね。むしろi-MiEVの方が私の思う「使える電気自動車」に近い気がしました。それでも、リーフの登場が、電気自動車という乗り物全体の普及を牽引していくようになるとおもしろいな…と期待しています。
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