小説「謎解きはディナーのあとで」を読みました。最初にこの作品の名前を知ったのは、テレビの情報番組で紹介されていたことから。発売されたのは昨年なんですが、書店で「これは面白い」という話になって大々的に売り出され、瞬く間に人気作品になりました。既に売上げは100万部をはるかに超え、今年になって、全国の書店員が売りたい本を選ぶ「本屋大賞」を受賞しています。
興味はあったものの、それだけ売れた作品なら、そのうち古本屋で安く手に入るだろう…と踏んで待っていたんですが、これがなかなか店頭に現れません。それだけ購入した皆さんが気に入って手元に置いてあるのでしょうか。ついに根負けして、このたび定価の1,500円+消費税で購入。新書をまともに購入したのはずいぶん久しぶりです。
小説誌に連載されていることもあり、ストーリーは1話完結で進んでいきます。レギュラーの登場人物は3人。大財閥の一人娘、正真正銘のお嬢様なのに何故か警察に勤務し、殺人事件の捜査に当たっている宝生麗子(ほうしょう・れいこ)。麗子専属の執事兼運転手である影山。そして、麗子の上司で、現場では残念な推理(笑)を連発する風祭(かざまつり)警部です。
影山は、主人の麗子から事件の内容についてひととおり話を聞くだけで、屋敷に居ながらにして事件の真相を明快に解き明かしてしまいます。このときに「この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか?」「ひょっとしてお嬢様の目は節穴でございますか?」などの執事にあるまじき暴言が、水戸黄門の印籠、遠山の金さんの桜吹雪の入れ墨のごとく決め台詞として登場。この毒舌に限らず、全編に思わず笑ってしまう場面がたっぷり盛り込まれています。
影山のような現場に行かないタイプの探偵は「安楽椅子探偵」と呼ばれ、推理小説のジャンルのひとつとして確立しています。ひとりでは完結せず、必ず現場で情報を集めてくる相棒が必要なのがこのタイプの特徴なんですが、相棒に「ご主人様」を据えてしまったのがこの小説の意外性でしょうか。本業での主従関係と、探偵としての主従関係が完全に逆転しているところが笑いを生んでいます。もちろん、一見不可解な殺人現場の様子を、推理で綺麗につなげてしまうミステリーとしての魅力も重要です。笑いを取っているだけではここまでウケなかったのではないでしょうか。
ただ、ひとつちょっと消化不良な気がしてしまう点が。それは、この小説には真犯人に「おまえが犯人だ!」と断言して、犯人が動揺したり、最後の悪あがきをしてみたり、あきらめたように自白したりする、普通の推理小説では最後のクライマックスになるシーンがなく、影山が種明かしを完結させたところで話が終わってしまうところです。もっとも、これは安楽椅子探偵独特の事情もあります。謎がわかってしまったあとでこれらのシーンが追加されても、二度手間というか、蛇足というか…という気がしませんか?。このパターンの方が間延びしなくて良いのかも知れません。
「謎解きはディナーのあとで」は、この秋フジテレビ系列で連続ドラマがスタートしています。影山役には、今をときめくアイドルグループ・嵐の櫻井翔を起用。麗子役はこれまた旬の女優、北川景子が演じます。風祭警部役は椎名桔平。彼の思いっきりコメディーに振り切った演技が、たっぷりと笑いの要素を乗っけてくれます。
最初に配役が発表されたとき、影山役だけがどうもしっくり来なかったのを覚えています。「ひょろりと背の高い男」で銀縁眼鏡がトレードマークの影山と、背はそれほど高い方でもなく、どちらかと言えばがっちりした体格(an・anで披露されたとおり実はかなりのマッチョらしいですが)の櫻井では見た目からして全然違います。ニュースキャスターも務めるなど知性的なイメージがあるのは影山との共通点でしょうけど、かといって、どちらかと言えば熱いイメージがある櫻井は、クールな印象を受ける影山とはやっぱり違うかも?と思ったわけです。
ということは、テレビドラマ化に当たってはかなり大胆な脚色があるのでは?と踏んでいたわけですが、蓋を開けてみれば全くその通りでした。ドラマでの影山は、お嬢様を陰で守るために、麗子たちが走り回る現場での捜査でも神出鬼没。いろんなところに、いろんな扮装で(笑)潜んでいます。しかし、聞き込みの会話はさすがに聞こえないようで、結局捜査内容は麗子に教えてもらうことになるわけですが。
小説版で私が感じた消化不良は、解決しようとする方向に変更が加えられています。影山の推理に納得した麗子は、すぐさま影山を引き連れて犯人のところに乗り込みます。ミステリードラマらしいエンディングできっちりとまとまることだけでなく、影山の推理が正しかったことが確認できる点でも、このシーンの意味はありそうです。
まだドラマは2話放送されただけのところですが、原作小説の面白さのポイントを伝えながら、テレビドラマならではの映像を活用した笑いもたっぷりと加えています。原作と比べて「違う」とガッカリするドラマも数多くある中で、違うことを認めながらも楽しめそうな作品に仕上がっています。
来月に、この小説の続編となる「謎解きはディナーのあとで2」が発売されます。是非新しい謎解きを、そして新しい暴言(笑)を聞いてみたいと思っていましたから、この本は是非とも手に入れて読もうと思っています。
テレビドラマは、おそらく10話くらいが放送されるのではないかと思います。「謎解きはディナーのあとで」に収録されているのは6話で、おそらくエピソードが足りません。残りはこの「2」から選ばれるのか、それとも全くの新ストーリーで楽しませてもらえるのか…そのあたりも楽しみにしています。
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