残酷な食べ物

最近の私にはちょっと珍しいんですが、巷でちょっと目に留まったニュースについて触れてみましょう。大手コンビニのファミリーマートで、「ファミマプレミアム黒毛和牛入りハンバーグ弁当~フォアグラパテ添え」という弁当を企画していたのだそうですが、これが発売中止となりました。
この弁当、その名の通り黒毛和牛を配合したハンバーグに、フォアグラを配合したパテ、デミグラスソースを合わせたものがメインディッシュで、690円という、コンビニ弁当としてはかなり豪華なお値段で登場する予定でした。
1月24日付のプレスリリースによると、発売を中止した理由は「一部のお客様のご意見の中に、フォアグラを使用した商品の取扱いについてご指摘をいただきました」とあります。ニュース媒体をもう少し読み込んでみると、どうやら商品の取り扱いというよりも、フォアグラという食材そのものに対して意見が寄せられた…という話だったようです。


そもそも、フォアグラは世界三大珍味のひとつとして知られる食材で、その正体はガチョウや鴨(と言いますが実際にはほとんどがアヒル)などの肝臓です。これらの鳥に大量に餌を与え、いわゆる脂肪肝の状態にしたものをこう呼びます。ちなみに、「フォアグラ(foie gras)」はフランス語ですが、「foie」は肝臓、「gras」は脂ぎっていることを意味し、日本語に直訳するとそのものズバリ「脂肪肝」となります。
世界三大珍味というくらいですから、本来は高級食材だったはずなんですが、近年はかなり大衆化が進み、日本ではファミレスなどでも普通に提供されるようになってきています。私も一応食べたことはありますが、実に濃厚な独特の味わいのある食べ物です。とんでもない味がする「珍味」もよく見られる中では、これは十分まともな味と言える気がします。
動物に強制的に餌を食べさせるという飼育方法は動物虐待に当たる…ということで、近年世界各地でフォアグラの生産や販売を禁止する動きが広がっています。ファミリーマートに寄せられた意見は、このあたりの事情を踏まえて、「フォアグラを使った料理は提供しないでほしい」というものだったようです。


生産や販売を禁止するのはそれぞれの国が判断してよい話だと思いますが、フォアグラを食べる文化を育ててきたフランスの人たちにとっては、これは自分たちの文化が否定されたような話になってしまうわけで、穏やかな話ではないはずです。フランスでは、国の文化的遺産と位置づけて、意地でも守っていく腹づもりのようです。
…と、ここまで調べたところで、よく似た話をどこかで聞いたのを思い出しませんか?。日本は、捕鯨の件で同様に諸外国からの非難の的になってきました。クジラは食用にされるだけでなく身体のあらゆる部分が利用され、日本の伝統文化を支えてきた面がある重要な資材でした。現在は調査捕鯨という枠組みの中で地道に活動を続けているわけですが、現状の流れをひっくり返すのは容易なことではありません。
クジラの場合は、絶滅の危機に瀕しているという話だけでなく、知能の高い動物だから殺すのはかわいそう…という論理がかなり幅をきかせている印象があります。先日、アメリカのケネディ駐日大使がTwitterでイルカ猟(イルカもクジラの仲間ですからね)に反対の態度を示したときに、「非『人』道性」という表現が出てきたのもその影響なのでしょうか。
「強制的に餌を食べさせる育て方が残酷」「知能が高い動物を殺すのは残酷」と理由は異なりますが、人間が食べるために動物を苦しめてはいけない…という意味では同様の主張ですね。しかし、それを言い出すと、そもそも人間が殺して食べるために狩猟をすること、家畜を育てていることは全て残酷なことをしているのでは?ということになってきます。
さらに言うのなら、いろいろな形はあるものの、私たちヒトは他の動物や植物を栄養源として摂取していかなくては生きていけません。…というよりも、私たちが食料としているものの中で、生物由来ではないものはちょっと思いつきません。誰かを犠牲にしなければ、残酷でなければ生きていけないのです。あとは、どこに線を引いて納得するのか?だけの話のような気がします。もちろん、それが一番難しいことなのでしょうけど。
特にフォアグラの場合、人為的な操作の度合いが強く、贅沢品に属するものとして捉えられているだけに扱いが難しいところがありますね。まあ、フランスの皆さんほどフォアグラが生活に密着していない私たち日本人がどうするのかは、さして重要な問題ではないような気もしますが。


今回の件でもうひとつ、ふと思ったのが、昔と比べると企業に対してこうして声を上げる人がずいぶん増えているのではないかな?ということ。先に取り上げたファミリーマートのプレスリリースによると、今月10日に商品企画を発表してから24日までの二週間で、22件の同様の意見が寄せられた…とのことでした。
しかし、実は怖いのはこうして直接当事者に対して発言する人以外の分。何しろ、今はTwitterに軽く書き込みでもすれば、それが全世界に流れていくわけですからね。ちょっと間違うと、当事者のあずかり知らないところで巨大な世論がふくれあがっている…という可能性さえあります。
それが怖いので、最近では企業がTwitter等の書き込みを監視している例がかなりあるようですね。妙な写真を公開されてしまった店が、営業停止になったり倒産に追い込まれたりする例もありました。あまりにも簡単に世界に向かって主張できてしまう現在の世界。どうも、良いことばかりではないような気がしています。まあ、今更巻き戻しはできませんからね。その中でどう渡り歩いていくかが肝心なのでしょうけど。


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