先に島根行きの話をしたときに後回しにした、松江市までの移動手段の話をしましょう。当初の予定では、浜松駅から新幹線に乗り、岡山駅で特急やくもに乗り換えて松江に向かうことにしていました。これなら、当日朝6時過ぎに家を出れば、午後1時くらいまでには目的地にたどり着けます。
しかし、せっかく島根県まで足を運ぶのですから、仕事だけして帰ってくるのはちょっともったいありません。もう少し早めに松江入りして、ちょっとは観光の真似事でもできれば嬉しいですよね。となると、前日にもう1泊した方が良いのでは?…と検討しているところで、とんでもなくエキサイティングなあるモノに気がつきました。泊まりながら、移動する方法があったんです。
東京駅を毎晩午後10時に出発して、東海道本線を西に向かっていく寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」があります。この列車は、14両編成が岡山駅で7両ずつに切り離されて、高松駅まで行く「サンライズ瀬戸」と、出雲市まで行く「サンライズ出雲」に分かれます。サンライズ出雲が松江駅に到着するのは9時30分。これなら、仕事が始まるまでにかなり余裕時間があります。ちょっとは観光もできそうだな…と思ったわけです。
そもそも寝台特急自体、私は今まで乗ったことがなく、機会があればぜひ一度乗ってみたいと思っていました。サンライズ瀬戸・出雲は、浜松駅に午前1時12分に停車しますから、深夜まで起きていなくてはならないものの、乗るのに余計な労力はあまりかかりません。これはいい機会だ!と思い、早速浜松駅で切符を購入しました。
購入した翌日に、通勤電車に揺られながらふと気がつきました。サンライズ瀬戸・出雲は、浜松駅に停車する前に静岡駅にも停車します。その時刻は0時20分。静岡駅から乗車することにすれば、この時間帯に夜更かしする時間が1時間ほど短縮できるだけでなく、寝台特急の旅をそれだけ長く楽しめるわけで、実に魅力的です。
浜松~静岡間は新幹線の定期券を持っていますから、無料で移動できます。さらに、サンライズ瀬戸・出雲の特急料金と寝台料金は、乗車区間にかかわらず同額なので、追加の出費は運賃増加分の650円のみで済みます。JRの切符は、購入した後で1回だけなら乗車区間などの変更が手数料なしにできますから、善は急げ!とばかり、すぐに変更に行ってきました。
3日は一旦静岡の職場から帰宅し、改めて夜10時前に自宅を出ました。静岡行きの最終のこだま号に乗り、静岡駅に着いたのは11時過ぎ。駅近くのコンビニで翌日の朝食を購入してから、駅に戻りました。サンライズ瀬戸・出雲には車内販売は無いので、朝食はあらかじめ調達しておくか、車両切り離しがある岡山駅のホームで買うくらいしか方法がありません。
関東地方の強風の影響で、サンライズ瀬戸・出雲は10分少々遅れて静岡駅のホームに入ってきました。在来線ホームには待合室はありませんし、この時間帯に寒風の中を待たされるのは結構キツいところですが、待つしかありません。コーヒーだけは温かいものを持参していたので、結構助かりました。
私の寝台は、「シングル」と呼ばれる個室で、サンライズ瀬戸・出雲に使われている285系電車では最も多く用意されている寝台です。幅70cm、長さ2mの寝台の脇に、靴が脱げる程度の床がある…という狭い部屋ではありますが、小さなテーブルもありますし、十分くつろげるスペースではあります。
せっかくなので、ビジネスホテル並みの広さと設備がある「シングルデラックス」に乗ってみたかったんですが、残念ながら11月上旬に最初に切符を買いに行った時点で売り切れでした。1編成に6室しか無いプレミアムな部屋ですから、仕方ないんですけどね。
シングルデラックスに限らず、全国有数のパワースポット・出雲大社に寝ている間に連れて行ってくれるサンライズ出雲は、個室寝台中心ということもあり、最近女性に人気が高いのだそうです。静岡駅のホームで待っていた乗客も、ほとんどが女性でした。
自分の部屋に入り、靴と上着を脱いで一服していたところで、ドアを叩く音が。車掌さんの訪問でした。切符の確認かな?と思ったわけですが、用事はそれだけではありませんでした。
今日は、この先にも運行に障害のある箇所があり(後で聞いた話では、どうやら人身事故があったようです)、松江への到着は1時間くらい遅れる見込み…という話でした。次の停車駅の姫路駅(浜松の次が姫路!)で、新幹線への振替輸送を選択できますが、どうしますか?と乗客に確認に回っていたのだそうです。1時間遅れで済むのなら、私は十分次の用事に間に合いますから、「このまま乗っていきます」とお返事しました。
車掌さんを見送った後、室内に備え付けの寝間着に着替えて、電気を消して、毛布をかぶって横になりました。最初は鉄道独特の揺れが少々気になって、眠れるかどうか不安だったんですが、気がついたら朝の5時半(笑)。列車は神戸の三ノ宮駅を通過していくところでした。意外にぐっすりと眠れましたね。
岡山駅で列車は半分に分かれて、サンライズ出雲は伯備線に入ります。都会の風景が、突然山里に変わります。線路もカーブが多くなり、左右に結構揺れます。しかし、普段はほとんどまっすぐ走っている電車にばかり乗っている私からすると、窓をのぞき込むと自分の乗っている列車が見える…というこの感覚は実に新鮮です。
そんな車窓からの風景を、ベッドの上に座って眺めているのも、なんだか変な感じがします。もっとも、それは不快なものではありません。あぐらをかいて座り込み、実にのんびりした時間が過ぎていきます。
道中の天気はずっと雨。米子駅に近づいてくると右手に見えるはずの大山も、厚い雲の向こうで全く見えませんでした。天気予報である程度わかっていたこととはいえ、ちょっと残念でしたね。
最初に聞いた予定どおり、ほぼ1時間遅れの午前10時30分頃に、列車は松江駅に到着しました。遅れたといっても、予定に間に合わなかったわけではありませんし、寝台列車の旅をちょっとだけ長く堪能できたと思えば、むしろちょっと得した…とも思えます。
新幹線と特急を乗り継いで移動するのと比べると、2倍近い時間がかかる寝台特急ですが、乗車時間の半分くらいは寝ているわけですし、自分では動けない睡眠時間に長距離を運んでくれるわけですから、実に合理的です。場合によっては、飛行機の最終便よりも遅く出発し、第1便の到着よりも早く着く…という芸当も可能。最近はリゾート目的の豪華列車にシフトして、リーズナブルな列車が減っている寝台特急なんですが、もう少し見直されてもいいと思います。
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