アメリカ・メジャーリーグで、今シーズン最も注目を集めていた話題のひとつが、マイアミマーリンズのイチロー選手が、通算3,000本安打を達成できるかどうかでした。
彼は、ニューヨークヤンキースに移籍してから後は、スタメン出場する機会が減ってきて、以前ほどハイペースで安打を積み重ねるのが難しくなっていました。しかし、アメリカの野球殿堂入りの目安のひとつとなる記録でもあり、押さえておきたいマイルストーンではあります。
しかし、3,000本安打を達成する前に、クリアされていくはずのちょっとややこしい節目がありました。彼が日本プロ野球で積み重ねた安打数は1,278。これに2,978を加えると、メジャーリーグでの通算安打数記録である4,256安打に並びます。日米通算での参考記録ではあるものの、イチローはこの記録に並び、抜き去っていくことになります。
水曜日・6月15日(日本時間では16日)に行われたサンディエゴパドレス戦で、イチローは1番・ライトで先発出場。第1打席はキャッチャーへの内野安打でした。この一打で、日米通算で4,256安打となり、メジャーリーグでの通算安打記録に並んだ彼は、9回にもライトに二塁打を放ち、日米通算安打数は4,257となりました。「プロとして世界一安打を数多く放った選手」になったわけです。
敵地・サンディエゴの電光掲示にはイチローの記録が表示され、チームメイトたちや観客からの歓声の中、彼はヘルメットを取って祝福に応えました。参考記録とはいえ、アメリカのベースボールファンたちの間でも、この数字に意味があることは認められているのだな、と感じました。
メジャーリーグで4,256本の安打を積み重ねた「ヒットキング」はピート・ローズ氏。イチローがヒットを打ち続けるごとに、ローズ氏が注目される機会はどんどん増えていきました。
ローズ氏は、イチローの「日米通算」安打数が自分の記録と比べられることに、一貫して不快感を示していました。「自分のマイナーリーグでの安打数も加えて比較するべきだ」とか、いよいよその日が近づいてくると「オレをヒットクイーン(2位)にする気か」「日本では彼の高校時代のヒットまで数えるんじゃないか」とか、言いたい放題です。
どんな形であれ、自分の記録が抜かれると騒がれれば、気分を害する人も多いはずです。イチローの日米通算安打数が3,085に近づくにつれて注目された張本勲氏もそうでした。
ローズ氏も、張本氏も、自分のそれぞれのリーグでの偉大な記録が塗り替えられてしまうわけでもないのに、どうしてそんな大人げない対応をするんだろうなぁ…と、不思議で仕方ないんですが、そこはやっぱり「自分が第一人者である」というプライドがあるわけで、譲れないところなのも理解できます。
もっとも、二人ともイチローが優れたプレイヤーであることを否定しているわけではありません。それを認めざるを得ないからこそ、いろんなことを言いたくもなるわけですよね。
ローズ氏がしばしば言及するのが、「日本プロ野球のレベルはメジャーリーグより低いから、合算した記録で比べるのは間違っている」ということ。日本プロ野球から多くの選手がメジャーリーグに渡りましたが、日本での実績があっても、メジャーリーグでは思うような成績を残せない者が多いではないか…という論法です。逆に、メジャーリーグで鳴かず飛ばずだった選手が、日本で大活躍する例もある、とも主張されています。
しかし、日本にいる私たちから見れば、その逆の例だって数多くあります。メジャーリーグの華々しい実績を引っ提げて日本にやって来た選手が、大した実績も残せずに、1シーズンも終われずに帰国した事例は、枚挙に暇がありません。どちらが上か、下かという問題ではなく、ほぼ同じルールで戦ってはいるものの、異なる方向に進化してきたということではないかと思います。
そう考えると、イチローのスゴいところは、日本プロ野球とメジャーリーグの両方に適応して、しかも自分の持ち味を変に曲げずに、存分に生かして活躍しているところ。特に、メジャーリーグに参戦した1年目から大車輪の活躍を見せ、新人王とMVPの両方を獲得しているのは大変なことだと思います。
イチローも、ローズ氏も、張本氏も、みんな一番でみんなスゴい…ということで良いのでは?と思います。ローズ氏が「メジャーリーグ一=世界一」という前提をちょっと見直してくれるだけで、全部丸く収まる気がするんですが…まあ、全米一を決める試合を「ワールドシリーズ」と呼んでいるお国柄ですから、非常に困難でしょうけどね。
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