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エクストラロードの空気圧

先日、我が家の愛車・ブラックパール2世号のタイヤを交換しました。普通は、タイヤを交換するときには、明確な意図があってあえてサイズを替える(ホイールサイズを大きく、タイヤをより扁平にするインチアップが代表的ですが)場合でもない限り、全く同じサイズのモノを選びます。もちろん、今回もサイズは全く同じものに替えたのですが、実は細かく見ていくと内容がちょっと違ったりします。

新車装着タイヤのTURANZA ER33には、「205/60R16 92H」という記号が書かれていましたが、これがサイズなどのスペックを示す数値になります。一方、今回履いたPRIMACY 4+には「205/60R16 96W」と書かれています。意味は下の表の通りです。

205タイヤの幅205mm
60サイドウォール高さとタイヤ幅の比(扁平率)サイドウォール高さ:タイヤ幅= 0.60(60 %)
Rタイヤの構造ラジアルタイヤ
16タイヤ内径(= ホイール直径)16インチ
9296ロードインデックス(荷重指数:タイヤ1個あたりの最大負荷重量を示したもの) 630 kg710 kg
HWスピードレンジ(速度記号:最大負荷重量で走れる最高速を示したもの)時速 210 km時速270 km
タイヤに書かれた記号の意味

見比べると、両者は寸法としては全く同じタイヤなのですが、ロードインデックスとスピードレンジで示される性能は大きく異なることがわかります。これを見ただけだと、「PRIMACY 4+ってスゲぇじゃん」となるかも知れませんが、実は話はそう簡単ではありません。


PRIMACY 4+: 「EXTRA LOAD」表記

PRIMACY 4+のサイドウォールには、「EXTRA LOAD」という表記が見られます。これは、EXTRA LOAD(エクストラロード)という規格に沿って作られたタイヤであることを示しています。商品カタログなどでは、「205/60R16 96W XL」のような形で「XL」を付け加えて、エクストラロード規格であることを表記していることが多いようです。

ブリヂストンの日本車新車装着用タイヤであるTURANZA ER33は、JATMA(じゃとま:日本自動車タイヤ協会)規格に則って作られています。一方で、ミシュラン・PRIMACY 4+の一部サイズで採用されているエクストラロードは、ETRTO(「えとると」って読むのは日本だけらしいです:European Tire and Rim Technical Organizationの略)で定められている、ヨーロッパ系の規格です。

エクストラロード規格のタイヤは、JATMA規格のタイヤより最大の空気圧を高めることで、同じサイズでもロードインデックスが高くなっている代わりに、同じ空気圧だとJATMA規格のタイヤよりも最大荷重が下がってしまう。だから高めの空気圧で入れなくてはダメ…なんて説明をされることがあります。現象として起こっていることはだいたい合っていると思うのですが、エクストラロード規格だから最大荷重が下がる…という言い方をしてしまうと、ちょっと説明が違う気がします。

ETRTOにはエクストラロードではない「スタンダード」規格もあり、これがもともと同じロードインデックス(Load Index; 以下「LI」)・同じ空気圧だとJATMAより最大荷重がやや低めに決められています。LIが示すのは「最大荷重」である一方で、基本的には空気圧を高くするとタイヤの耐荷重は上がりますから、最大空気圧のときの最大荷重をLIとして表示することになります。ETRTOスタンダードでは、JATMAより最大空気圧をやや高いところに設定しているので、同じLIのタイヤで同じ空気圧に調整すると、JATMAよりも耐荷重は低めになるわけです。

エクストラロードは、ETRTOスタンダードの空気圧と最大荷重の関係をそのままに、最大空気圧を高い側に拡張したものになっています。その結果、最大空気圧が上がることによりLIも大きな数字になりますが、ETRTOスタンダードと同様に、同じ空気圧だとJATMA規格で作られたほぼ同サイズのタイヤよりも少し最大荷重が低くなる…ということになります。


タイヤ空気圧と最大荷重(参考:タイヤの規格 | 安全・技術・規格 | 一般社団法人 日本自動車タイヤ協会 JATMA空気圧別負荷能力対応表 – タイヤ交換 – タイヤを知る(乗用車用) – 株式会社ブリヂストン (bridgestone.co.jp)タイヤについて (kurumanu.com)

JATMA、ETRTOそれぞれが、LIごとに空気圧と耐荷重の関係を示した一覧表を作っています。空気圧と最大荷重を軸にとってグラフを描くと、ETRTOスタンダードのLI 92とエクストラロードのLI 96が同じ線を辿り、エクストラロードの方がより高い空気圧まで線が真っ直ぐ伸びている…という形になります。

ETRTOスタンダード(最大空気圧250 kPa)でLI 92(最大荷重630 kg)だったタイヤを、最大290 kPaまで空気を詰められるようにしたら、エクストラロード規格でのLIは96(最大荷重710 kg)になった…という見方もできますね。同じ空気圧なら、どちらも耐荷重性能は同じです。見方を変えると、空気圧がきちんと管理されていないと、期待した性能は得られないとも言えます。

JATMAのLI 92は、両者より少し上に線が引かれます。とはいえ、これはJATMAの方が性能が高いということではなく、単に沿っている基準が違うために同じ「LI 92」の表記でも中身が違うだけのこと。どちらの規格でも、同じ空気圧で同じ荷重を支えられるタイヤは作れます。どの規格に沿った製品かを確認した上で、空気圧を調整する必要がある…というのが基本ということになります。


フロントドアを開けると貼ってある指定空気圧のステッカー

同じ耐荷重を確保するためには空気圧をどうコントロールすれば良いかは、各規格の一覧表を使って容易に変換できます。我らがブラックパール2世号(ステップワゴンe:HEVスパーダ)の場合、指定タイヤのLIが92(JATMA)で、指定空気圧は240 kPa(規格上の最大値)ですから最大荷重は630 kg。これと同程度の耐荷重を確保するために、LI 96のエクストラロード規格で必要な空気圧は250 kPaということになります。

このあたりを勉強しておいた上で、コストコタイヤセンターでちょっと質問してみました。

私「タイヤを替えると、空気圧、変わるんですよね?」

店員さん「クルマの標準の空気圧で大丈夫ですよ」

コストコタイヤセンターにて、PRIMACY 4+装着直前に

240 kPaと250 kPaでは4 %程度しか違いませんし、使っているうちにそれ以上の空気が抜けてしまうのが普通ですから、一般的に最初は少し高めの空気圧で調整しているのではないかと思います。そうした意味では、店員さんの回答は間違っているとまでは言えませんが、規格に沿った管理という意味では、やっぱりちょっと違う気がします。

「指示をいただければその通りに調整しますよ」とのことだったので、「前後とも+10 kPaでお願いします」と頼んでおきました。これでETRTOの規格どおりの空気圧ということになります。ただし、何もしなくてもタイヤの空気圧は少しずつ下がっていくので、こまめなチェックは必要です。コストコでは、せっかくタダでいろいろメンテナンスをしてくれるのですから、徹底活用しましょう。毎月通っちゃおうかなぁw。

もっとも、窒素ガスが充填されているので、普通よりは圧力が下がりにくくなっているはずなのですが…。このあたりの話も、突っ込んでいくと結構面白そうなので、また改めて話題にしたいところです。



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