5月28日に、レッツノートの2024年夏モデルが発表されました。今回の大きなトピックとしては、4月からカスタイマイズレッツノートとしてオンラインのみで販売されていたCF-FV5が、店頭販売モデルも含め展開されるようになったことがあります。FVシリーズは全てCore Ultra搭載のAI PC…という形になりました。
ひとまわり小さい双子の兄弟・SRシリーズとQRシリーズは、第13世代のCore iシリーズ搭載のCF-SR4/QR4のまま。ただし、型番だけ更新した継続販売…ということではないようです。よく見ていくと、主要なコンポーネントは入れ替わっていないのにもかかわらず、バッテリーでの動作時間が延びています。
特に、JEITAバッテリ動作時間測定法(Ver.3.0)でのアイドル時の動作時間は3割ほど延びました。これを「バッテリー駆動時間が約30%延長」と宣伝しています。確かに、人間が対面で使っているときは大部分がアイドル状態ではあるものの、ちょっと言い過ぎの感もあります。昔からこの会社はこういうマーケディング上の数字の扱いが上手だよなぁ(あまり誉めてない)。
パナソニックコネクトのプレスリリースによると「低消費電力の液晶を新規開発」とあり、Webニュースメディアの中には「液晶モジュールのロジック設計を見直すことにより」なんて表現もあります。アイドル時のディスプレイの消費電力を低減する…といえば、すぐに思いつくのはシャープのIGZO。同じようにアイドル時のリフレッシュレートをギリギリまで下げているのかも知れません。
SR/QRについては、標準で同梱されるACアダプターが、以前からオプションとして用意されていた、少し軽量なUSB PD接続のものになったのも変更点です。確かに、これも「持ち歩くときの負担を減らす」モノではあると思うのですが、単に売れ残っていただけなのでは?と勘ぐってみたりもします。
パナソニックストアプラスで販売されるカスタマイズレッツノートでは、CF-FV5に64 GBのRAMを搭載するモデルが用意されたのが目立ちます。普通にビジネスのために使っている方にとっては、いくら何でも過剰な容量では?(メモリが多ければわずかながら消費電力も増えますし)と思うのですが、コレが必要なニーズはないわけではありません。
例えば、外出先で動画編集やRAW画像の現像などをやろうとすれば、このくらいの容量があれば余裕のある作業ができそうです。これだけメモリがあれば、膨大な数値シミュレーションや3次元点群データの処理なども視野に入ってきます。あとは、Core UltraのNPUを活用したAIのローカル処理でも活躍…と言いたいところだったのですが、今の巷の状況を見ていると、どうやらそういうことにはならなさそうです。
Microsoft社が、5月20日(現地時間)に、同社のAIアシスタント「Copilot」をローカルで快適に動かすための「Copilot+ PC」というモノをお披露目しました。必要な能力として、NPUの演算性能を「40 TOPS以上(Trillion Operations Per Second; 1秒間に40兆回以上の演算ができる)」と規定しました。現在のCore Ultraに載っているNPUの能力はせいぜい10 TOPSそこそこだそうで、これではとてもMicrosoft社の要求には応えられません。
それどころか、現時点でこの基準に当てはまるのはQualcommのSnapdragon X Elite/Plusだけという状況で、この日に各社からデビューしたCopilot+ PCは全て「Snapdragonを搭載したArm版Windows機」ということになりました。ソフトウェアの互換性を考えると、これまで積極的に選びに行きにくかったArm版Windowsですが、多くのグローバルメーカーが一斉に新型機を登場させたことで、状況が変わっていくかも知れません。
もちろん、IntelやAMDだって指をくわえて見ているわけではありません。今年後半には、Copilot+ PCになれる性能を持った製品を投入することをアナウンスしています。現在の100番台のCore Ultraは、まだデビューから半年も経たないのに、もう「時代遅れ」扱いにされそうです。日本市場向けのPCメーカーたちの動きがあまり積極的に見えないのは、もしかすると「次」に勝負をかけているのかも知れません。
パソコンは基本的に「欲しい!と思ったときが買い時」だと思っていますが、さすがに今何かに飛びつくのは危険な気がします。とはいえ、Web会議用の動画処理やノイズキャンセリングなど、現状のNPUでも効果を実感できるアプリケーションはあるわけで、Core Ultra搭載機を「AI PC」に期待して導入するのではなく、従来の「高性能なモバイルノートPC」の延長線上のモノと理解して導入するならば、現状でも十分アリかも知れません。極端に高価でもありませんし。
余談ですが、40 TOPSという演算性能は現在のSoCに内蔵されているNPUとしては高速ですが、GPUにとっては楽々実現できる性能です。NPUのポイントは「電力効率の高さ」であり、バッテリーで長時間動かしたい軽量モバイルノートPCのために、GPUの代わりに働くモノとも言えます。実際に、デスクトップPCへのNPUの導入はさらに遅れていますよね。GPUをぶん回して計算させればずっと速いのですから、それでいいじゃん?となります。
あとは、どんなハードウェアに対応するソフトウェアを用意するか?という話になりますが、GPUにしてもNPUにしても、デバイスドライバーで抽象化されたものを共通の手順で扱える仕組みがあります(例えばGPUがNVIDIA GeForceでもAMD RADEONでもIntel Arcでも基本的に同じ3Dゲームが遊べるのはこのおかげ)から、いずれは「とにかくその端末にとっていちばん合理的な方法で計算する」という形にまとまってくるのではないでしょうか。まあ、そもそもAIを活用するアプリがまだ全然揃っていませんし、もう少し時間はかかりそうですが。
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