6月も半ばとなりました。この時期になると、たまにSSK World上に登場するキーワードが「COMPUTEX TAIPEI」。その名のとおり台湾の台北市で6月上旬に行われる国際展示会です。今年も6月4日から7日まで開催されました。
台湾は情報機器やその主要部品である半導体の一大生産地ということもあり、特にPC関連のハードウェア分野で、新製品のお披露目の舞台になっていることが多いような気がします。その線は基本的に今年も変わらなかったのですが、やはり今年の場合は「AI」というキーワードを中心にして回っていたようです。
折しも、Microsoft社が先月PCローカルでAI関連処理を実行できるPCとして「Copilot+ PC」というブランディング戦略を発表しましたが、このときに一番ビックリしたのが、これまでずっとマイナーな立ち位置が続いていたArm版Windowsを前面に出す…どころか、それだけしか手駒が無い状況であえてスタートする決断をしたところでした。ChatGPTのおかげでこの分野では先行する立場にいるMicrosoftとしては、ここでさらにスパートを掛けて引き離すべく、こうした判断に至ったのだろう…と推測しますが、同社に比較的保守的なイメージを持っていた私としては意外でした。
Copilot+ PCの件では思わぬところで置いてけぼりを食った形のIntel・AMDの両社でしたが、どちらもCOMPUTEXの場で「Copilot+ PCになれる」40TOPS以上の演算能力を持つNPUを統合したSoCを紹介しました。総合的な性能はいざ知らず、とにかくNPUを何とかしなくてはWindowsという神輿を担げなくなりかねない状況で、対策を打ってきた…というところなのでしょう。
より積極的だったのはAMDだったと感じています。今回発表になったRyzen AI 300シリーズには、50TOPSの能力を持つNPUが統合され、7月にはこれを搭載した製品が市場に登場します。今月中には巷に出てくるSnapdragon X Eliteはともかく、「今年後半に」とアナウンスされているIntelのLunar Lakeよりも絶対に先行してやる!と、相当頑張ったのではないかと思います。
Ryzen AI 300シリーズのライバルたちと比較してのメリットは、NPUのみの絶対的性能が現在公表されている製品の中で最強である…というだけではなく、NPU以外の部分も非常に強力なこと。最上位モデルの(と言っても今回2モデルしか発表されていないのですが)Ryzen AI 9 HX 370には、全てのコアが最大5.1 GHzで動く12コア24スレッドのCPU、ローエンドの外付けGPUには負けないくらいの最新設計のGPUが統合されています。
一方のLunar Lakeは、電力効率に大きく振りきった設計になっているようで、NPUこそ40TOPS以上をクリアしてCopilot+ PCを名乗れる資格を得るものの、CPUはHyper Threading非対応の8コア8スレッド(4P+4E)、モジュール上に直に搭載されるメインメモリは最大32GB止まりで、アクセス速度も抑えめのようです。COMPUTEXでの記者発表では、Snapdragon X Eliteに対する優位性を訴える場面が多かったようで、Ryzen AI 9 HX 370は同じフィールドで闘う相手とは見なしていないように見受けられました。
パワフルなデスクトップ機と一緒に超省電力のモバイルノートを持つのならいざ知らず、1台で全てナントカせざるを得ない状況の私にとっては、Ryzen AI 9 HX 370の方が魅力的に映ります。しかも、Lunar Lakeよりも先に世に出てくるわけですからね。NPUをフル活用したアプリが出てくるのにはもう少し時間がかかるでしょうし、将来的にもNPUだけで全ての仕事をこなせるわけではありませんから、やはりCPUやGPUがパワフルであることは大事です。
AMDの発表に呼応して、Ryzen AI 300シリーズ搭載機を大量にお披露目して、「7月には市場に投入する」とぶち上げたのがASUSでした。地元の台湾で行われる一大イベントで、盛大に花火を打ち上げたかった…ということもありそうですが、やはり今いちばん熱い「AI」という話題に乗って先行することのメリットを重視したのでしょう。
一般用の大画面ノートからゲーミングPCまでいろいろ出てきましたが、いちばん面白そうに感じたのはProArt PX13。「クリエイター向け」を銘打たれている「ProArt」シリーズの一員で、その型番のとおり13.3型の、3K解像度の広色域対応OLEDタッチパネル画面(アクティブペン対応)が360度開いて、タブレット形態にもなる2in1機です。
Ryzen AI 9 HX 370に加えてGeForce RTX 40シリーズのGPUまで搭載されるという、超パフォーマンス志向のスペックなのに、縦横サイズはほぼA4用紙レベルのコンパクト設計で、厚みも最大で0.70 インチ(1.77 cm)に収めています。しかも、米軍調達規格のMIL-STD-810Hを多くの条件でクリアし、野外の過酷な環境にも耐えると主張しています。
さすがに重量は3.04 ポンド(1.38 kg)もあり、グローバルスタンダードとしてはともかく、私としては到底「モバイル」とは認めがたい重さです。とはいえ、いざという時にGeForce RTXのとんでもないハイパワーが使えるのなら、我慢しても良さそうな気はします。
そのスタイルだけでもレッツノート・CF-RZ4を思い出して好感度MAXなのに、タッチパッドの左上には、レッツノートシリーズ伝統のホイールパッドを彷彿とさせる「DialPad」なるものまで装備されています。これはもう、「気にするな」と言われても不可能です。
気になるのは、付属のACアダプターが200 Wもあるということで、73Whという大容量のバッテリーが内蔵されているとはいえ、バッテリーでの動作時間があまり望めないかも?というところ。もっとも、GeForce RTXを常にフル回転させるような用途はそうそうありませんから、モバイル利用のときはGeForceは止めてRyzen AI 9 HX 370の統合GPUのみでの運用にすれば、かなり電力消費が抑えられるはずです。
あとはお値段。アメリカでの予約価格が「$ 1,999.99」と書かれていたので、そのまま換算すれば日本円では同じ構成なら30万円台中盤になりそうです。やっぱり、良いモノは高くなるんだなぁ(涙)。
7月以降に日本市場にも投入される予定ということなので、どういう構成の製品が用意されるのか?も含めて、ちょっと注目しておきましょう。日本向けにはショボいラインナップしか用意してくれないという可能性も…あまり考えたくないなぁ。いざとなれば並行輸入か…それにしても、まずは軍資金がないことにはどうにもならないんだよなぁ…ぶつぶつぶつぶつ。
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