健康はpriceless

「priceless」といえば、クレジットカード最大手のMasterCardが、プロモーションのキーワードとして使っているのが有名な単語ですね。CMでは、いろいろなものの価格を並べておいて、最後にそれらと関連した「priceless」なものを一つ挙げ、「お金で買えない価値がある。買えるものは…」というのがお決まりのパターン。TOHOシネマズに映画を見に行くと、本編の始まる前に毎回新作CMが流れますが、センスのいい傑作が多いですね。

price(価格)がless(ない)と書くわけですが、先のCMの流れからもわかるように、決して「無料」という意味ではありません。これは価格が付けられないくらい価値が高い…という意味なんですよね。余談ですが、ことわざの「タダより高いものはない」は一見似たような表現に見えますが、中身は全然違った意味合いです。タダには義理がついてくるので、結局高くつく…ということですよね。


「今話題の」アガリクス茸

今日は、この「priceless」という言葉を改めて意識することになったお話をしようかと思います。きっかけになったのは、家の大掃除をしていたら出てきた、こんな袋でした。袋の中には乾燥させたキノコが入っています。裏側のラベルに書かれていた賞味期限は2003年4月。まあ、乾燥キノコの賞味期限なんてあってないようなもののような気はしますが。

袋の表側には、「今話題のアガリクス茸」と書かれたラベルが貼ってあります。そもそも「アガリクス(Agaricus)」というのはハラタケ属というキノコの1グループを指す言葉で、このキノコは学名をAgaricus blazei Murril(あがりくす・ぶらぜい・むりる; Murrilは命名者の名前)と言う、ブラジル原産の種だそうです。ここでは、一応国内で通称として通っている「アガリクス茸」でこの後の話を進めようと思います。

どうしてこんなものが私の家に転がっていたのか?…それは、母がずいぶん長い間飲み続けていたからです。長い間ガンと闘っていた母が、いろんな健康食品や健康法を渡り歩いて、最後に試していたのがアガリクス茸でした。薬局で、ひと袋1,000円位する小さなレトルトパックをまとめ買いして、それを1日1パックずつ飲んでいましたが、さすがにそれを続けていては財布の中身が持ちませんから、こういう乾燥キノコを買ってきて、自宅で煎じて飲んでいました。

アガリクス茸も含めていろんな健康食品が母の病気に対して効果があったのかどうかは、今となってはよくわかりませんが、ひとつわかったことがあります。健康というものは、どんなに高いお金を払ってでも買いたいものなんですよね。決してお金の使い方は派手でなかった母が、それでもこんなものをいろいろ買ってしまったくらいですから。そして、どんなに高いお金を払っても決して買えないものである…という、悲しい現実もあります。まさにpricelessです。


そのアガリクスに絡んで、先月逮捕者が出ています。東京の健康食品販売会社と出版社が、アガリクス茸を原料にした健康食品を「ガンに効く」として書籍で宣伝していた…として、薬事法違反で摘発、両社の役員や書籍を監修した医師、執筆したフリーライターなどが逮捕されています。書籍の中で効能をアピールしたことで、「未承認の医薬品」とみなされたんですね。こうした形で逮捕者が出たのは初めてなのだそうです。

この手の書物には、「末期ガンが消えた!」などの刺激的なコピーと共に「体験談」なるものが掲載されていますが、この書籍の体験談は全てフリーライターによる創作だったのだそうです。それって薬事法違反どころではなく詐欺なんじゃないの?と思ってしまいます。

ただ、今回のことでは明確に詐欺だと言い切れる根拠がないのも確かです。というのも、そもそもアガリクス茸の効能自体がはっきりしていないんですよね。全ての体験談が創作なのかどうかはわかりませんが、好意的に解釈したとしてもせいぜい「こういう実例があった」というレベルを脱していないと思います。ただ、実際に見つかっている有用な化学成分もいろいろあるそうですし、全くウソだとも言い切れないんですよね。もちろん、根拠のはっきりしていない効能を謳うこと自体、モノを売る側の倫理として大問題だと思っていますが。

同じ業者が、今月に入って、やはりキノコの一種であるメシマコブでも同様の書籍での宣伝活動を行っていたことで逮捕されました。メシマコブの健康食品も、家に置いてあったのをよく覚えています。今回の一連の件で一番私が思うのは、健康になりたい、病気で悩んでいる人たちの気持ちを利用して、騙すようにして金儲けをしようとした思惑が見えることに対する憤りです。自分でも飲んでみましたが、はっきり言って不味いとしか言えないアガリクスの煎じ汁を、それでも美味しそうに飲んでいた母の姿を思い出して、やり切れなさを感じます。

新聞やテレビのニュースを見ていても、最近は実に刺激的な事件が多すぎるんですが、「ああ、またか」程度にしか思わなくなっていました。しかし、そんな中で、それほど派手な事件ではなかったんですが、久しぶりにニュースに対して本気で腹を立てたような気がします。そんな気持ちを書いてみました。

それにしても、先週に輪をかけて硬派…というよりも重い話題になってしまいましたね。毎週見に来ていただいている皆さん(どうもありがとうございます)には申し訳ないんですが、どうかお付き合いください。


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