先にも紹介しましたが、槇原敬之のカバーアルバム企画第2弾・「Listen To The Music 2」が、先週水曜日の28日に発売されました。私は、発売前日である27日の仕事帰りにCDショップに立ち寄って購入しました。CDなどの場合、新作は発売日前日の夕方くらいには店頭に並ぶことが多いですよね。それを最初から狙っていました。
「生まれ変わった時にもまた聴きたい曲」というテーマで、洋の東西、新旧取り混ぜて幅広いジャンルから選曲されています。「槇原節」の肝は彼の声そのもの、あるいは歌唱法だけでなくアレンジにもあると思っていますが、そんなところまで含めて、全ての曲が見事なまでに彼の色に染められています。
初回限定版には、追加でもう1曲が収録されています。今年の8月6日に広島で被爆60年を記念して開かれたコンサートで、オーケストラをバックに彼が歌った「見上げてごらん夜の星を」です。この曲は市民の皆さんからのアンケートで選曲されたもので、このアルバムのコンセプトからすると別枠になりますが、フルオーケストラの中でも存在感を失わない彼の声は、昨年フルオーケストラとともに行われたライブ「cELEBRATION」を思い出させます。…まあ、私はDVDで見ただけなんですが。
この「Listen To The Music 2」は、作品そのものとはちょっと違うところでも話題になりました。ネット配信による楽曲販売サービス「iTunes Music Store」で、日本人アーティストの作品としては初めてプレオーダー販売が行われたんです。
この「プレオーダー」というのはあまり馴染みのない言葉ですが、要するに予約販売を受け付ける…ということ。あらかじめ購入する旨登録しておくと、ダウンロードが可能になったときにメールで通知が届くのだとか。ちゃんと予約特典のボーナストラックまで用意されていました。しかもCDの初回限定版とは違う曲・「What A Wonderful World」です。今回の件に対する気合いの表れでしょうか。
ただ、ちょっと気になるのは、実際に配信がどのタイミングで始まったのかですね。先に触れたとおり、CDの場合は前日には製品を入手できる場合が多いのですが、ネット配信の場合は早くても発売日の午前0時から…というのが常識的な線でしょう。私は実際に購入したわけではないのでわかりませんが、入手方法によって手に入る時刻が違う…というのはあまりいい気分がしません。まあ、これについては前日に店頭に並んでしまう商慣行の方に問題があるのでしょうけど。
iTunes Music Store(以下iTMSと略しますが)は、iPodでお馴染みのアメリカ・Apple社が運営しているサービスです。当然のことながらiPodとの連携を強く意識していて、配信されるファイル形式はiPodにそのまま転送できる標準形式である、著作権保護付きのAAC形式です。
さらに、通常のWebブラウザでは利用できず、専用ソフトのiTunesからでなくては楽曲を購入できません。このiTunesは、CDなどからiPodへの取り込みにも使われるソフトですね。取り込んだ曲も、買った曲も、シームレスに取り扱うことができます。ハードウェアとソフトウェアを全て自社の技術で押さえて、高度に連携させる…というやり方は、先々週にも触れたとおりApple社のお家芸と呼べるでしょう。
しかも、Apple社の上手だったのは、iPodの側ではAACの他にMP3などの形式のファイルも再生できるようにしてあったこと。必要以上の囲い込みはせず、ユーザーの利便性は下げないようにしていたんですね。ソニーは、ネットワークウォークマンと音楽配信サービス「Mora」で同様の囲い込み戦略をとりましたが、当初はネットワークウォークマンの側が自社開発のATRAC3/ATRAC3Plus形式しか扱えず、ユーザーがこれまでに貯め込んだMP3データは再変換する必要があり、不便を強いることになりました。さすがにその後MP3も扱えるようになりましたけどね。
アメリカでは、クールなiPodのデザインセンスと、簡単に、安価で、しかもアルバムの1曲単位で購入できたりもするiTMSの相乗効果で、iPodが業界のスタンダードになりました。日本でのiTMSのサービス開始はずいぶん遅れて、ようやく始まったのが今年の8月4日。見方を変えると、日本ではiPodはハードウェアの魅力だけでここまで売れてきた…とも言えるわけです。日本での遅れは業界との交渉がなかなかうまく行かなかったのが最大の要因でしょうけど、今年に入ってから日本メーカー、特にソニーが本気を見せ始めたところで、ついに伝家の宝刀を抜いて一気に突き放しに掛かった…という風に見えます。
iTMSの開始は大きなインパクトになりました。それまで200円以上で楽曲をネット配信していた国内各社は、基本的に150円で販売するiTMSに対抗して価格を下げました。…というよりも、むしろiTMSとの契約で卸価格を下げた音楽業界側が、他社にも同じ値段で卸さざるを得なくなった…という方が適切かも知れませんが。一部のレーベルは、iTMSには卸さないことで高価格を維持しようとしているようです。ただ、各社がそれぞれ限定された形式でしか配信を行わないこともあり、それが消費者に不便を強いることは確かです。
iTMSの開始以降、最も安いiPodであるiPod Shuffleの512MB版がかなり売り上げを伸ばしたのだそうです。とりあえず試してみたい…というニーズに、十分安い価格で応えることができたのでしょうね。結果的に、これまで食い込めていなかった半導体記録タイプのプレイヤーでもシェアを拡大したことになります。そして、9月になって登場した大本命・iPod nanoの売れ行きは絶好調。4GB版はどこに行っても在庫がありません。もちろんハードウェアの魅力は大きいのですが、iTMSの開始が地ならしになったのも確かでしょう。
Appleの「2段ロケット」は見事に打ち上げに成功したようです。ほぼひとり勝ち状態になった感があります。この業界から撤退するメーカーも現れ始めました。業界2番手のソニーには、自社グループが有力楽曲の版権を押さえている強みがありますが、先にも少し触れたとおり、これは諸刃の剣と言っていいでしょう。ハードウェアメーカー、音楽配信事業、制作元…各社ともどう対応するのでしょうか。既に船のうちの一つに乗っている状態ではありますが、しばらく注目です。
「Appleの2段ロケット」の続編ということで、8月4日から始まったiTunes Music Storeに触れてみました…が、まだまだ何だか消化不良です。音楽のネット配信というシステム自体についても、思うことがいろいろありますが、また折に触れて取り上げてみたいと思っています。
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