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映画のリアリティ

映画「カンフーハッスル」を見に行きました。元々映画を見るのは結構好きな方で、Weekly SSKでも時々話題に上ることがありますが、これまではテレビ放送を見たりDVDを借りてきたりして見る方で、実際に映画館に出かけるようになったのはここ2、3年くらいです。あと、映画のDVDを買うようになったのも一昨年あたりからですね。

今年は「もっと映画館を好きになる年」と銘打って、月に2回くらいは映画館に通ってみようかな?と思っているところです。今月は先に「ターミナル」も見たので、これでノルマはクリアということになります。ジャンルにはあまりこだわらず、「これは面白そうだな」と感じた作品、話題の作品を見ていくつもりです。


その「カンフーハッスル」は、奇想天外な設定と派手なアクションで一世を風靡した「少林サッカー」のチャウ・シンチーが再び監督・主演を務める、香港のカンフー・アクション映画です。日本では「ありえねー」をキーワードにプロモーションが行われていますが、言葉通り現実にはとてもあり得ない映像のオンパレードを、ワイヤーアクションなどの特殊撮影やCGを駆使して見せつけてくれます。ちなみに、日本語吹替版には「ありえねー」という台詞が出てくる場面があります。まだ見ていない方はちょっと注意して聞いてみましょう。

私にとっては、「香港映画」というとジャッキー・チェンのイメージが一番強いですね。…もう少し上の世代になるときっと監督と同じ「ブルース・リー」という答えになるのでしょうけど。武術をベースとした体を張ったアクションで、質の高いエンターテイメントを見せてくれるのが彼らの作品でした。「少林サッカー」にしてもこの「カンフーハッスル」にしても、そんな遺伝子を存分に受け継いだ楽しい作品になっていますね。こういう人間の動きを楽しむ作品は大好きです。

見ていると、映画におけるCG技術の金字塔・「マトリックス」を意識しているシーンを数多く見かけます。この作品のアクション指導をしたユエン・ウーピンは「マトリックス」を手がけた人ですから、当然のことかもしれません。そして、見ていてもう一つ連想したのは日本のテレビアニメ「ドラゴンボール」。例えば空中を飛び回り、目にも留まらぬ組み手から再び距離を置いて両者にらみ合う…というような構成は「ドラゴンボール」の格闘シーンとよく似ている気がします。まあ、あの作品に限らず日本のアニメーションは世界中に影響を与えているのかな?と思うわけですが。

ただ、非現実的な映像の中でも武術としてのカンフーの動きは大切に撮られていたような気がします。監督自身にもカンフーに対しては強いこだわりがあって、「カンフーハッスル」では香港アクション映画を支えてきた往年の俳優やスタッフたちが制作に大挙して参加しているのだとか。「ありえねー」の中にもリアリティを大事にしていた部分なのかもしれません。登場する人物たちの操る武術の中には実在しないものも多いんですが、それでも対決がちゃんと成立していたような気がするのはこれが理由だったかもしれません。


「カンフーハッスル」を見終わった後で、思い出した映画がありました。それは昨年に日本でも公開されたタイ映画の「マッハ!」。タイ伝統の格闘技・ムエタイをフィーチャーしたアクション映画なんですが、この作品の宣伝文句は「CGやワイヤーアクションに映像の早回し、さらにはスタントマンによる吹き替えも一切使わない」ということでした。映像は全て出演する俳優たちやセット、大道具、小道具等で撮影されたものである…という、いわば映っているものが実際にそこにある…という意味でのリアリティに徹底的にこだわった作品です。

私はこの「マッハ!」も公開時に映画館で見ているんですが、その後昨年11月に発売になったDVD「マッハ ! プレミアム・エディション」も持っています。購入した理由は、特典ディスクに収録されているメイキング映像が見たかったから。と言っても、この映画の場合は最先端のCG技術などが披露されるわけではなく、何年間もの練習風景と本番の撮影シーン…これは「公開された作品の別アングルからの映像」とも言えるわけですが…で構成されます。衣装の中に防具を仕込んだり、セットに細工をして痛くないようにしてあったりはするわけですが、それでも非常に痛そうにしていたり、ときには怪我もしています。壮絶な撮影シーンです。

そうして撮影された作品には、確かに迫力があります。しかし、この映像の完成度は、主演したトニー・ジャーの超人的な身体能力と技術に負うところが大きいわけで、本当にそこまでしなくちゃならなかったの?という気がしなくもありません。全てがリアルであることを主張した(もちろんそのこと自体がこの映画の挑戦だったわけですが)ばかりに、逆に映画としての非現実性が強調されたような気がします。もちろん、この作品はアクションの技術的レベルの高さだけで純粋に楽しめるんですけどね。


最初に少し触れた「ターミナル」(DVD「ターミナル DTSスペシャル・エディション」)では、現代のアメリカの空港を舞台に、入国しようとしたら祖国でクーデターが起きてしまったせいでパスポートが無効になっていて、入国も帰国もできなくなってしまった男をトム・ハンクスが演じます。作品の背景設定は、現代の現実世界で十分に起こりえる事態ですし、撮影では空港ロビーを丸ごとセットとして作ってしまった…というくらい映像のリアリティにはこだわりを見せています。しかし、その上に展開される出来事の数々はあまりに非現実的な気がして、どうも感情移入ができませんでしたね。「感動する作品だ」と思って出かけた割には全然泣けなかったのは、そのあたりが原因かも知れません。

映画というのは、程度の差こそありますが基本的には非現実を描くものだと思います。その中でのリアリティというのは、個々の要素の問題ではなくて、むしろ全体のとしてのつじつまが合っていることが重要な気がします。そこさえ整っていれば、それが作品全体のリアリティになるのだと思います。例えば「ラストサムライ」はそうした意味でのリアリティは非常に高かったと思いますし、「ロード・オブ・ザ・リング」も完全な空想世界におけるリアリティを最先端の技術で徹底的に追求していたのだと思います。少なくとも、私にとってはそれが感情移入できる面白い映画の条件のような気がしますね。


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