音楽の伝え方

Music Worldに公開している音声データのフォーマットをまた変えてしまいました。変えた理由は、これまで採用していたmp3PROがあまり広まらなかったこと。音声データをそのまま聴いてもらうために、当初主流だったMP3に取って代わるべく数々の新しいフォーマットが登場しましたが、どれも圧倒的な主流にはなりきれていません。プラットフォームを選ばず、多くの人に余計な苦労をかけずに聴いてもらえるのは、やっぱりこの分野のパイオニアであるMP3なんですよね。もちろん、これからも業界の動向によっては変えていく可能性はあります。

例えば、Windows Media形式はMP3の半分くらいのファイルサイズに圧縮される形式で、音質的にも私の作る曲とは相性がいいようです。Windows環境なら標準で再生できる形式で、私の使い道ではかなり理想に近いフォーマットだと思っているんですが、その名前のせいでWindows環境以外を排除しているような印象を与えてしまうことが気になるんですよね。例えばMac用のWindows Mediaプレイヤーというものもちゃんと存在するんですが。


こうして、私はいつも皆さんにどんな風に私の曲を聴いてもらうか、伝え方にいろいろと頭をひねっているわけですが、今回はこれとはちょっと違う意味の「音楽の伝え方」について考えさせられることになりました。それは、自分の音楽をどのように演奏してもらうかを伝える方法。私の曲は、アレンジの結果ひとりでは演奏できなくなる曲がほとんどですから、自分以外の誰かに演奏を手伝ってもらわなくてはなりません。

これまでは演奏をお願いする相手はコンピュータでしたから、数値を使って音の出し方を伝えていました。例えば音程は60(ピアノの「中央のド」に相当します)、音の強さは127段階で115、テンポは1分間に4分音符114個で、1拍の480分の365だけ伸ばす…といったデータが大量に並びます。もちろん数値をひたすら打ち込む作業は大変ですから、楽器のキーボードから弾いた内容を取り込んだり、画面上にマウスで譜面を描いたり、はたまたマイクから鼻歌を入力するとメロディーに変換したり…といった様々な方法が用意されているわけですが。


前にWeekly SSKで話題にしたアンサンブルの皆さんとの2度目の練習に参加しました。今回は、Music Worldで公開している私のオリジナル曲・「坂道上って」をバイオリン2本とピアノ、キーボード1台ずつの編成向けにアレンジし直して、皆さんに演奏してもらおうと考えていました。自分の曲が生楽器で鳴るなんてこれまでは考えたこともなかったのでドキドキしましたね。

私が準備したのは、いつものようにパソコンに打ち込んだデータでMU1000 EXを演奏させたデモMD、そして4パート分と全パートをまとめたスコアの計5種類の楽譜。パソコンに数値で指示するのと同様に、人間に演奏方法を伝えるために使うのがいわゆる五線譜ですね。楽器を超えてほぼ共通語となっていますからとても便利です。おかげで、バイオリンのように自分が弾けない楽器にも指示が出せるわけです。

ただ、それぞれの楽器について知らないとその楽器のための譜面は書けません。例えば演奏できる音域、演奏に使える音域(←微妙な表現の差に注意)は押さえておかないと、どう逆立ちしても鳴らせない音を譜面に書いてしまうかも知れません。また、楽器ごとに特有の奏法がありますから、それを表記するための方法が用意されていて、同じ記号でも微妙にニュアンスが違ったりします。日本語の中に様々な方言があるように、楽譜にもそれぞれの楽器特有の書き方があるわけですね。今回、特にこれまで馴染みのなかったバイオリンについては、譜面の書き方だけでなく楽器そのものについても結構勉強して、演奏方法については極力譜面に書き込むことにしました。

それでも、強弱の細かい付け方やフレーズのつなげ方、さらには曲全体のイメージなど、譜面だけでは全てが伝わるわけではありません。そうした点は、演奏してくれる人たちと話しながら、少しずつ試しに演奏しながら合わせていくことになりました。人と人との関係ですから、コミュニケーションでお互いの中に曲の共通認識を作っていくことも大事にしたいですね。それこそがアンサンブルの旨味でしょうし。ただ、こうして指示を出すこと自体初めてだったので、どうも私の側に遠慮があったような気がします。こういうときには作曲者としてもっと自己主張するべきなんですが。


余談なんですが、この譜面をメンバーの皆さんに見せたとき、バイオリンから「難しい」との声が上がった理由に驚きました。それは「フラットが多い」というもの。フラット2個が付く変ロ長調の曲ですから、キーボード弾きの私にとっては決して難しい方ではないキーなんですが、バイオリンの場合、初心者がシャープ3個のイ長調から始めることもあり、フラットの付く曲はどちらかというと苦手なんだそうですね。しかも、この曲は臨時記号でもフラットが多発しますし。

逆に、管楽器の中にはもともとフラットの付いた変ロ長調や変ホ長調のキーで作られていて、シャープの付く曲が難しくなるものがあります。こんなところにも楽器ごとの違いがあることに気付かされました。さらに、キーボード上では同じ鍵盤でも、楽器によってはシャープかフラットかで鳴っている音が本当に違ったりします。やっぱり生楽器は奥が深いですね。


余談ついでにもう一つ。練習の終わった後にライブハウスに出掛けました。ジャズ・ブルース系の演目が多かったんですが、この手の音楽は緻密な譜面とはまたひと味違った方法で演奏を伝えますよね。大まかなリズムとコード進行が決めてあるだけで、あとは個々の演奏者の感性に任される部分が大きくなります。

そんな中で、ハーモニーから意図的に外れたいわゆるテンション・ノートを多用します。一歩間違うと単なる調子っ外れになりかねないんですが、これが微妙なバランスの上に重なって、アンサンブルとして成立するわけです。演奏者たちは、しばしばお互いの顔を見合わせていました。このあたりは、リアルタイムに演奏者たちの間で交わされるあうんの呼吸とでも言ったところなのでしょうか。一番大事なのはやっぱり人と人とのコミュニケーションのようです。


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